ステージラボ「公立ホール・劇場 マネージャーコース」/文化政策幹部セミナー
2010年10月13日~15日
地域創造では、公立文化施設のマネージャーと文化行政幹部職員が交流できる場として、昨年度からステージラボ「公立ホール・劇場 マネージャーコース」(以下、マネージャーコース)と「文化政策幹部セミナー」(以下、幹部セミナー)の同時開催を開始しました。参加者からも大変ご好評をいただき、今年度も、下記のスケジュール表の通り、10月13日~15日に地域創造会議室で第2回を開催しました。共通ゼミでは、ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室長の吉本光宏さんをゲストに迎え、第一線の講師陣によるミニシンポジウムを通じて刻一刻と変わる最新状況についての認識の共有を図るとともに、両コースの混成グループでディスカッションを行い、相互に学び合う貴重な機会となりました。
●劇場体験からスタートしたマネージャーコース
今回コーディネーターを務めたのは、静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」館長の田村孝子さんです。公立ホール・劇場を議論する導入として、初日には全員で新国立劇場に『フィガロの結婚』のオペラ鑑賞に出掛けました。この作品は、2003年10月から06年6月まで同劇場オペラ芸術監督を務めたトーマス・ノヴォラツスキーがアンドレアス・ホモキを演出に起用してプロデュースし、今では新国立劇場の話題作として再演を重ねているレパートリーです。「外国人芸術監督の登用で物議をかもした結果生まれた舞台成果を、劇場で創造するということを考える上でもぜひ観ていただきたかった」と田村さん。公演後には伊藤久幸技術部長によるバックステージツアーも行われ、大規模な劇場の裏側を知るまたとない機会となりました。
2日目からは、自治体や公立文化施設だけに依存することなく自律した取り組みを行っている実践者を招き、子どものための演劇事業、古典芸能の普及事業、NPOによるクラシック音楽事業、市民によるボランティア事業という幅広い観点で講義が行われました。
古典芸能については、能楽小鼓方大倉流十六世宗家の大倉源次郎さんが、約400年前につくられた小鼓を手に楽器の説明から手ほどき。「日本人なのに代表的な邦楽器である小鼓がどのように組み立てられているかを知らない人がほとんどです。(略)小鼓は“チ・タ・プ・ポ”という詞で音を表しますが、これは言葉をそのまま音にする北アフリカのトーキングドラムと同じ形式です。1時間でもいいのでこうしたことを学校の音楽の時間に教えていただければ、邦楽の豊かさが伝わるはずだと思います」とのお話に、みんなうなずくばかりでした。
また、えべつ楽友協会(2000年NPO法人化)の畠山俊一さんは、江別市が市民の要望で設置したコンサートホール「えぽあホール」(453席)での取り組みを紹介しました。97年にオープンして以来、任意のボランティア団体としてクラシック音楽事業を実施し、チケット販売と協賛金集めを基本に13年間で100回以上公演を行ってきた自律的な考え方に、改めて観客が支えるホールの意味と向き合う時間となりました。
このほか、96年以来、子どものためのシェイクスピア作品を発表している山崎清介さん(俳優・演出家)、19年にわたってサイトウ・キネン・フェスティバル松本を支えてきたSKFボランティア協会会長の青山織人さんなど、実践者ならではの興味深い講義が続きました。
●市民の文化的人権から説き起こした幹部セミナー
今回の幹部セミナーでは、コーディネーターを務めた中川幾郎さん(帝塚山大学教授)と講師の中村透さん(琉球大学教育学部長)という有識者二人がタッグを組み、理論的なアプローチと実践的なアプローチによって地域における文化政策の必要性に迫りました。
中川さんの口からは、「文化政策を打ち出せない都市はこれから安楽死していく」と冒頭から厳しいメッセージが飛び出しました。「高度成長期に近代化モデルを追求したところはどこも同じような都市になってしまった。80年代後半からは“我が町の文化”を磨き直さなければいけない時代に入っていたのに、バブルに巻き込まれてタイミングを逸した。(略)そういう都市を再生するには、市民の文化的に生きる権利を保障した政策を行い、ロイヤリティの高い市民層と市民社会をつくらなければならない…」と自治体文化政策の本質をテーマにした講義でエールを贈っていました。
対する中村さんは、参加者の心と身体の扉を開ける斬新なワークショップからスタート。始まったのは谷川俊太郎さんの詩『やんま』を使った遊びでした。口伝えで聞いた無意味綴りのような詩を、大の大人が手を繋いで輪になって繰り返します。「やんまにがしたぐんまのとんまさんまをやいてあんまとたべた…」。「余計なことを考えないで集中するために子どもたちとやっている遊びです。僕はこれを『ワードシェアリング』と呼んでいます」と中村さん。こうした身体的な協働を実際に体験した後、その重要性や可能性についてパフォーミングアーツとの関係を踏まえた講義が行われました。
幹部セミナーの参加者16人中、5人が本年度4月以降の異動で文化政策の担当者になったことを考えると、本当に刺激的な2日間だったのではないでしょうか。