「4作目の『オズの魔法使い』(06年)は原作の知名度もあり、多くのお客様が来場しましたが、『期待していたものと違った』との評も受けたんですね。一生懸命つくったものでも、技術がなければ単なる思い出づくりに終わってしまう。ならば基礎から学べるスクールをつくろうと。学校の演劇部や合唱部が縮小傾向にあったので、受け皿にもなるだろうと思いました」
歌唱指導にクラシックの東野亜弥子さん、ダンス指導にコンテンポラリー系のTENさんがあたり、週1回、3時間のレッスンを行っている。小学1~3年生の「リトルクラス」と4年生からの「本クラス」の2クラス制で、現在は大学生までの80人が在籍している。
92年に開館したラブリーホールでは、「マイタウンオペラ」(12回22公演)と「かわちながの世界民族音楽祭」(31カ国56組のアーティストを招聘)という発信型のシンボル事業を二本柱にしてきた。ホールのアイデンティティという点では、全国に発信するこれらの事業は重要でも、大阪郊外の新興住宅地という土地柄もあり、地元からは地域の人が参加できる事業をもっと増やしてほしいという要望が多く寄せられた。そこで、2000年以降、開館当初からのラブリーホール合唱団に加え、教室運営型事業に力を入れるようになり、ゴスペル教室、今回のミュージカルで音楽を担当したのこぎり演奏家・サキタハヂメさんが講師を務めるのこぎり音楽教室などをスタート。世界民族音楽祭も、昨年からは住民が参画した企画運営委員会を組織し、さまざまなワークショップを企画するようになった。
その中でもミュージカルスクールの可能性に宮地さんは期待を寄せる。「教育的な側面からも意義がありますし、夏休みなどに集中して取り組める。何といっても子どもたちにはパワーと“伸びしろ”があって、地域を元気にする力がある」。東野さんは「ただ技術を教えるだけではなくて、内面を磨く、人間形成の場になるようにと願っています。また、公演前は自然にやる気になるからいいのですが、いかに普段の基礎練習が大切か、そのことも伝えたい」と言う。
子どもたちのやる気を引き出し、モチベーションを上げる工夫として、市内各所で開かれるさまざまなイベントに積極的に参加している。ホールの認知度を上げ、足を運んだことのない人に活動を知ってもらうアピールの場にもなっている。
小学5年生の時に公募で参加し、現在はスクール生の井筒佳苗さん(20歳)は、「高校時代は部活が忙しくてミュージカルから離れていましたが、やっぱり表現したくて戻って来ました。色んな年代の子たちと、ひとつの舞台をつくり上げるのは感動的。ラブリーホールのミュージカルが有名になって、もっと多くの人が観に来るようになれば嬉しい」と話す。
「将来的には『歌にじっくり取り組みたい』『ダンスを強化したい』などのニーズに応じたレッスンができるようにクラスを増やすこと、200人程度まで規模を拡大すること…目標は大きく、宝塚歌劇団です」と宮地さん。ホールと子どもたちの夢は限りなく広がっていく。
(ライター・土屋典子)
●ラブリーホール・オリジナル・ミュージカルvol.6
『ムーンライトミステリー~月の女神の秘密~』
[会期]2010年8月8日
[会場]ラブリーホール(河内長野市立文化会館)
[主催・企画・制作]河内長野市文化振興財団(ラブリーホール)
[監修]木嶋茂雄(劇団ひまわり)
[演出]大塚雅史
[作曲]サキタハヂメ
[振付]TEN
[台本・作詞]宮地泰史(ラブリーホール)