ステージラボ群馬セッション報告
2010年7月6日~9日
今回のステージラボの会場となったのは、社会貢献活動にも力を入れている群馬県のリーディングカンパニー「ベイシア」がネーミングライツで支援しているベイシア文化ホール(群馬県民会館)です。前橋中心市街地のまち歩きや群馬の郷土芸能である八木節ワークショップなど、開催地の特徴を活かしたプログラムのほか、ジャンルの垣根を越えてアートから多くを学んだホール入門コースなど、充実したプログラムとなりました。共催者として全面協力をいただきました群馬県、財団法人群馬県教育文化事業団の皆様には、心よりお礼申し上げます。
●アートから学んだ入門コース
今回のラボで最も特徴的だったのがホール入門コースのプログラムです。ミュージアム・エデュケーションプランナーの大月ヒロ子さんがコーディネーターを務め、ホール職員向けとは思えないほどアートの最前線のノウハウが詰まった研修となりました。なかでも、及部克人さん(武蔵野美術大学名誉教授・ソーシャルデザイナー)をファシリテーター(促進者)に迎えた人間関係づくりから始めるワークショップ「布絵づくりを通じた造形による対話」は大変興味深いものでした。
ホールでのワークショップと言えば、鑑賞事業に対して音楽・演劇・ダンスなどの体験プログラムを指します。今回のプログラムでは、日本のワークショップが1960年代にまで遡る歴史をもつ取り組みであることや、フィリピンの識字教育に端を発するワークショップ・メソッドが確立されていることを学ぶところからスタート。その後、参加者が知り合うためのワークショップをいくつか体験し、いよいよ本番の布絵づくりがスタートしました。
それぞれが持ち寄った「思い出の布」について語り合った後、子どもの頃の遊び場を思い出しながらスケッチ。そこからモチーフを拾い出して、多彩な模様の素材や色彩の布を組み合わせた布絵をグループ毎に作成し、最後は布絵の前でモチーフから連想した言葉を綴った詩の群読も行われました。布絵や詩の素晴らしさもさることながら、ファシリテーターの存在により参加者の色々な“気づき”を引き出していくメソッドを体験できたことは大変貴重な体験だったのではないでしょうか。
また、東京・千代田区の旧練成中学校をリニューアルした話題の施設「アーツ千代田3331」統括ディレクターの中村政人さんの講義も刺激的なものでした。アーティストとしてゲリラ的な活動を展開し、近年は氷見や大館でもアートによる地域再生に取り組んでいる中村さん。「地域の再生には、独自の地域因子に連続的に刺激を与えて、地域因子の逸脱(既存のフレームや価値から脱皮しようとする自信と勇気がみなぎる状態)を促し、その地域因子が成長したい方向に発芽を促すことが必要であり、その連続性とプロセスがアートの活動になる」という締めくくりの言葉は、大変示唆に富んだものでした。
●アウトリーチを中心にした音楽コース
2度目のラボ・コーディネーターを務めたのは、公共ホール音楽活性化事業のパートナーである日本クラシック音楽事業協会事務局長でおんかつコーディネーターでもある丹羽徹さんです。おんかつのアウトリーチを中心にしたプログラムで、TRIO Blanc(トリオ・ブラン)による地元小学校でのアウトリーチ見学、大人向けアウトリーチ体験などが行われました。ホールの舞台上で行われた大人向けアウトリーチでは、楽曲の鑑賞力の向上とピアノトリオの響きを味わうプログラムとしてラヴェルを取り上げました。53歳の時に交通事故で言語能力、記憶力が低下。代表作『ボレロ』は、最後には自分の名前さえわからなくなったラヴェルが58歳の時に公開演奏した最後の曲という解説に、自ずと参加者の耳は開かれていきました。
また、地元草津で1980年から30年以上にわたって開催されてきた「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」について事務局長の井阪紘さんを招いた講義も行われました。「草津を偉大な実験場として日本の音楽会でできなかったことをやってみたかった。演奏家が自分の言葉(演奏)で音楽を語ることのできる場というのが草津の原点だ」と井阪さん。クラシックのマネージメントの現場にはこのフェスティバルから巣立った人も多く、老舗音楽祭のスピリットにふれる時間となりました。
●アートNPO等から学んだダンスコース
自主事業Ⅱ(ダンス)コースでは、コーディネーターの大谷燠さんが代表を務めるNPO法人DANCE BOXや、前橋でアートによる中心市街地活性化に取り組んでいる小見純一さんなど、非営利活動を行っている民間の事例から多くを学びました。また、ダンスの高齢者への可能性を身近に体感するプログラムとして、地元の福祉施設で砂連尾理さんによるワークショップが行われ、受講生とお年寄りが一緒に体を動かしました。
DANCE BOXは、2002年から大阪のフェスティバルゲートに小劇場をつくって活動していましたが、閉鎖により09年から神戸市新長田に拠点を移して再出発。国際共同制作、子どもや障がい者とのワークショップ、ダンスや劇場の力をまちの活性化に繋げていくコミュニティ事業など、その活動は多岐にわたります。「ローカル、グローバル、ソーシャル・インクルージョン、自治体とNPOとの連携」の観点から展開されている意欲的な取り組みに、公立ホールの立場で仕事をしている受講生たちは大いに刺激されたのではないでしょうか。
また、小見さんは、休業したデパートを再生した「前橋元気プラザ21」内で自らが運営している「シネマまえばし」を皮切りに、約2時間30分にわたって街をフィールドワーク。有志や商店会が中心となって行っている空き店舗を活用した劇場やダンスプロジェクト、ポケットパーク事業などを紹介し、受講生の高い関心をかっていました。
●ステージラボ群馬セッション プログラム表
●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
大月ヒロ子(有限会社イデア代表取締役)
◎自主事業Ⅰ(音楽)コース
丹羽徹(社団法人日本クラシック音楽事業協会事務局長)
◎自主事業Ⅱ(ダンス)コース
大谷燠(NPO法人DANCE BOX代表)
●ステージラボに関する問い合わせ
芸術環境部 坂田・山本
Tel. 03-5573-4066