一般社団法人 地域創造

東京都杉並区 「高円寺びっくり大道芸2010」

 地元の劇作家やホールマネージメントの専門家などがNPO法人劇場創造ネットワークを設立し、指定管理者となった東京・杉並区の座・高円寺が開館1周年を迎えた。区の文化行政担当顧問として芸術監督に就任し、陣頭指揮を執っているのが演劇人として世田谷パブリックシアターなどの劇場を立ち上げてきた佐藤信だ。「まちの一員としてのコミュニティ・シアターを目指す」と言い、劇作家で館長の斎藤憐とともにオープンの1年前から座・高円寺地域協議会を立ち上げるなど、地元との意見交換を続けてきた。爽やかに晴れ渡った5月1日、2日、その成果のひとつである「高円寺びっくり大道芸」の2回目が開催され、約15万人の人出で賑わった。
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上:イギリス人と日本人よるパペットコメディデュオ「FUNNY BONES」
下:路面に精細な絵画を描くヨーロッパ発祥の「チョークアート」を披露する松本かなこ

 大道芸が行われたのは、JR高円寺駅北口広場、商店街の店先、公園、劇場前広場など23会場で、出演したのは36組。北口広場では高さ8mのやぐらから下げられたロープを使った空中サーカス、劇場前ではカラフルな作業着に身を包んだサックス・アンサンブルによる演奏、公園ではアクロバットや芝居の要素を取り入れたシアター・マイム、路地では3mの足高人間によるウォーキング・アクトや道に絵をかくチョークアートなど。地図を片手に会場を巡ると、パフォーマンスとともに高円寺最大の魅力と言われる商店街を満喫できる仕組みになっていた。
  戦後、焼け跡の闇市から発展した高円寺には、平行に走る北の早稲田通りと南の青梅街道、南北1,200mの間に20近い商店街が広がり、1,000を超える小規模店が密集。高円寺阿波おどりの発祥地であるパル商店街、ねじめ正一の小説の舞台となった純情商店街などのほか、現在150店はあるという若者に人気の古着屋、神田神保町に次ぐ店舗数を誇る杉並区の古書店などが点在し、商業と文化、老舗と若者が入り交じった高円寺文化を形成している。
  びっくり大道芸は、そうした10の商店街の合同事業として実施されたもので、実行委員会には商店街とともにまちの一員として劇場創造ネットワークが参画し、事務局を担当。実行委員会委員長の由井営太郎さんは、「戦後60年、商店街はお互いライバルとして競い合ってきたが、もうそういう時代ではない。世の中の変化に対して行き詰まりを感じていたところに座・高円寺が出来ることになった。地域協議会が立ち上がり、商店街の人間だけではなく、学生さんや勤めている人、劇場の人などが月1回集まってフランクに話ができるようになった。その中で出てきたアイデアのひとつが大道芸。昨年9月には、地域協議会がきっかけになって、まちのために商店会が連携して活動することを目的とした高円寺商店街連合会が立ち上がるなど、本当に濃い1年だった。文化と商店街活動は関係ないと思っていたが、そうではなくて、もっとコラボレーションしていくことが必要だと気づいた」と話す。今年からは、これまで個別に行ってきた催しに連合会が合同で携わり、高円寺4大祭(高円寺びっくり大道芸、東京高円寺阿波おどり、高円寺フェス、高円寺演芸祭)として積極的に展開していくとか。
  佐藤は、「座・高円寺では劇場のプログラムが云々ということではなく、まちの一員となるために5年ぐらいかけて長い芝居を1本つくっている感じで取り組んでいる。まちの人がやりたいことに劇場のノウハウやネットワークを提供して、誰が見ても面白いと思えるものに仕上げるのが私たちの役割。このまち(コミュニティ)の魅力を生き延びさせるために劇場が関われることがあるし、演劇のもつ多様性はその要望に応えられると思っている」と話す。
  ちなみに、びっくり大道芸のプロデューサーを務めた橋本隆雄は、日本全国で大道芸フェスティバルを仕掛けているキーパーソンで、佐藤と世田谷パブリックシアター時代に「三茶de大道芸」を立ち上げた間柄。「大道芸は劇場を飛び出したアート。劇場の日常化(社会化)が大道芸であり、地域に飛び出してその地域の日常を変え、その出来事がやがて劇場に帰着するものだと考えている」─この橋本の言葉を聞いて、高円寺の大道芸が、まちが劇場になり、演者と観客の距離がなくなり、まちと劇場の境目がなくなり、劇場がやがてまちになるための第一歩なのかもしれないと感じた。

(坪池栄子)

●高円寺びっくり大道芸2010
[日程]5月1日、2日
[主催]高円寺びっくり大道芸実行委員会
(高円寺商店街連合会、高円寺フェス実行委員会、NPO法人劇場創造ネットワーク)
[協力]座・高円寺地域協議会

●座・高円寺(杉並区立杉並芸術会館)
[開館]2009年5月
[指定管理者]NPO法人劇場創造ネットワーク
[施設概要]座・高円寺1(基本形状238席)、座・高円寺2、阿波おどりの練習を主な目的とした阿波おどりホール、リハーサル室、レストランほか
[事業内容]日本劇作家協会およびNPO法人東京高円寺阿波おどり振興協会と区がパートナーシップ契約を結び、施設の優先使用や自主事業への協力などで連携を図る。年間のホール利用の割合は、劇作家協会1/3、提携1/3、自主事業1/3。また、劇場事業に携わる人材の育成を行う「劇場創造アカデミー」を実施。劇場運営にあたっては、区、NPO、芸術監督による月1回の会合を実施。40~50人が参加する月1回の座・高円寺地域協議会を継続。
http://za-koenji.jp/

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