ステージラボ鹿児島セッション報告
2010年2月2日~5日
今回のステージラボは、ネーミングライツで地元酒造メーカーの冠がついた宝山ホール(鹿児島県文化センター)を会場に、2月2日~5日まで開催されました。霧島の緑豊かな芸術の森にあるみやまコンセールを会場に開催されている老舗の「霧島国際音楽祭」音楽監督の堤剛さん(サントリーホール館長)がゲスト講師で招かれるなど、充実したプログラムとなりました。共催者として全面協力をいただきました鹿児島県、財団法人鹿児島県文化振興財団の皆様には、心よりお礼申し上げます。
●演出家ならではのカリキュラム
演劇コースのコーディネーターを務めたのは、2007年、鈴木忠志さんの後を引き継いで静岡県舞台芸術センター(SPAC)2代目芸術総監督に就任した演出家の宮城聰さんです。毎日1時間ずつ行われた宮城さんの演劇論講義に加え、ステージラボでは初めてとなる即興(インプロ)ワークショップも行われるなど、受講生は研修とは思えない演劇人修業を体験しました。
「他者が自分とは違う者であるということを感じる機会が減ってしまった。人は同じだけ努力をすれば同じだけ成果が出るという幻想を前提にした教育により、人それぞれ能力には差がある、他者と自分は違うことを隠蔽するようになってしまった。だから、自分をわかってもらえなかったときにショックを受ける。他者と自分とは違う者なのだからわからなくて当たり前。そういう“他者不在”の社会のせいで、他者が身体から発している微細な情報を受け止めるセンサーが鈍磨してきた。劇場(演劇)ではそうした身体をのぞき込む時間をつくることができる。そうすることで他者から出ている微細な情報を受け止めるセンサーを敏感にすることができる。こういう人を教育する機関としての劇場は公立でしかやれない」
立て板に水のように展開する宮城さんの演劇論、劇場論に、受講生たちはしばし目を丸くして聞き入っていました。
インプロ・ワークショップでは、「フリーズタッグ」「スペースジャンプ」など、インプロで遊ぶゲームをいろいろと体験。「否定しない」「ひとつ出たアイデアを積み上げていく」といったコツを身に着けた受講生たちは、ワークショップの最終日、見学に来た他のコースの人たちが書いた「音楽会」や「事業仕分け」といったキーワードからその場で即興劇を立ち上げ、喝采を浴びていました。
●実務を見据えたカリキュラム
音楽コースのコーディネーターを務めたのは新日本フィルハーモニー交響楽団の創立メンバーとして長年にわたってオーケストラのマネージメントを牽引し、公立ホールでの豊かな実務経験をもつ松原千代繁さんです。今回のカリキュラムでは、“関西圏のオペラの殿堂”と称されてきた尼崎市総合文化センター(アルカイックホール)の意識改革、サックス奏者の館長が人脈を活用した自主事業を展開している岡谷市文化会館カノラホールなど豊富な事例紹介が行われました。
なかでもユニークだったのは、広島市安芸区民文化センターが展開している「あきクラシックコンサート」です。地元音大を卒業した若手の演奏家が音楽ボランティアとして無料の連続演奏会やアウトリーチなどを行うというもの。2001年から取り組みが始まり、徐々に事業を拡大。現在は、39人の音楽ボランティアが委員会を組織し、自ら企画・出演して、年17回のホールコンサート、年5回の公民館出前コンサート、年9回の小学校でのアウトリーチを実施しています。企画を立ち上げた山本真治さんは、「若手に演奏機会を提供して育成するあきクラシックコンサートはボランティアだが、プロとの競演の機会をつくリ、ギャラの出るコンサートも実施するなどして、ホールと音楽ボランティアがwin-winになる関係をつくっている。残るのは地域の人材なので、それを育てることが重要だ」と話していました。
●充実したワークショップ
入門コースのコーディネーターは、北九州芸術劇場館長でもある津村卓・地域創造プロデューサーです。まず、ホール・劇場の現状について空間創造研究所代表の草加叔也さんから基礎的な講義が行われました。公立文化施設協議会による最新調査を踏まえ、指定管理者における民間事業者の割合が急激に増え、公募の場合は民間事業者・NPO法人・官民による共同体合わせて4 割を占めるという報告に、受講生は真剣な面持ちで聞き入っていました。
入門コース定番のアーティストによるワークショップでは、公共ホール音楽活性化支援事業の登録アーティストでピアニストの田村緑さん(音楽コースと共通)、21・22年度の地域創造現代ダンス活性化事業の登録アーティスト・楠原竜也さん、今年度の公共ホール演劇ネットワーク事業の演出家の岩崎正裕さんが、それぞれのノウハウを活かしてワークショップを行いました。
田村さんは、1,500席という大きな宝山ホールを使い、“ホールの響きを体感する”をテーマに、実際のピアノ演奏を聴きながら客席を移動して場所による響きを聴き分けるワークショップを行いました。面白かったのは、聴く人によって好きな響きの場所が異なっていたこと。ステージに近いところが好きな人、後方が好きな人、壁面に近いところが好きな人…。そのばらつき方に、田村さんも興味津々の様子でした。
このほか、開催地の特徴を活かした共通プログラムでは、「鹿児島座敷唄」と「奄美の島唄」に加え、西アフリカの民俗楽器であるジャンベの演奏を体験しました(*)。これは、鹿児島の離島で人口400人という三島村に日本で唯一の村営ジャンベスクールがあることから実現したプログラムです。村役場の職員でジャンベスクールの校長を務める徳田健一郎さんが、スクールの卒業生たちと共に指導を担当。「ここはいいところですよ、私はいい人ですよ」という時に歌って演奏する『ヤンカリマクル』など、曲の背景や歌の意味を聞きながら、初めてのジャンベに挑戦しました。
●ステージラボ鹿児島セッション プログラム表
*三島村のジャンベの取り組みについては、雑誌「地域創造」最新号(第27号、3月25日発行)でも紹介しています
●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
津村卓(地域創造プロデューサー)
◎自主事業Ⅰ(音楽)コース
松原千代繁(尼崎市総合文化センター常務理事)
◎自主事業Ⅱ(演劇)コース
宮城聰(静岡県舞台芸術センター芸術総監督)
●ステージラボに関する問い合わせ
芸術環境部 水谷・大林
Tel. 03-5573-4064