コンテンポラリーダンスのアーティストが一堂に集うフォーラム 「We dance」
2月13日、14日、横浜市開港記念会館でコンテンポラリーダンスのフォーラム「We dance」が開催された。これは、神奈川県と横浜市の助成を受け、NPO法人Offsite Dance Project(ODP)の呼びかけにより、アーティストが主体的に企画・運営に携わり、学び合い、発信する場として昨年からスタートしたもの。2回目の今年はよりスケールアップし、関東・関西から多様なキャリアや世代のダンス、演劇、音楽、美術、映像のアーティスト80名ら計112名が集結した。
ODP代表でプロデューサーの岡崎松恵さんは、「ここ十数年でコンテンポラリーダンスの創作環境は大きく変化した。作品を発表する施設やワークショップなどのプログラム、フェスティバル、コンペが定着し、認知度が高くなった一方、それまでカンパニーや劇場が担ってきたアーティストの活動を精神的に支えるコミュニティが希薄になっている。“今ダンスに何が必要なのか。もっとアーティスト側から声を上げ、互いに刺激し、影響し合う場をつくることが求められているのではないか”と考え、アーティスト主体のフォーラムを呼びかけた」と言う。
1月には、プレ企画として岡田利規、白井剛、手塚夏子、きたまり、矢内原美邦、黒沢美香、宇波拓などジャンルを超えた第一線のアーティスト11名が参加し、お互いが抱えている創作上の課題とがっぷり四つに取り組み、身体を動かしながら共に考えるワークショップ「試行と交換」も行われた。
会場の横浜市開港記念会館は、1917年に建てられた国の重要文化財。満足な劇場機構や設備はないものの、サイトスペシフィックな魅力をもつこの歴史的建造物を活用し、講堂や大小9つの会議室などを使って、「ダンスの個別性」「身体を通した交流と対話」「歴史的空間とダンス」をテーマに計20企画・49ものプログラムを展開。プログラムの柱は、アーティストがアイデアを出して自らキュレーションする企画、公募企画、およびフォーラム準備室によるパフォーマンスやトークセッション、展示の3つだ。
準備室のメンバーでもある白井が企画したのは、一番小さな会議室を使った「1on1で写真撮影」。これは、一人のダンサーが踊っている部屋に観客が一人ずつ入り、5分間好きな場所や距離からダンサーを鑑賞し、携帯電話やカメラで写真を撮るというもの。「美術館で作品を独り占めして眺めるように、ダンサーとじっくり向き合うとどうなるか、というところから発想した。作品の意味や物語の解釈から離れて、至近距離でダイレクトにダンサーの動きを感じてみると色々な発見があるのではと思った。僕のようにソロをベースに活動していると、他のアーティストが何を考え、どんな方法で創作しているのか、なかなかシェアすることができない。たくさんの作品に触れ、多くの人と語り合って、有意義な時間が過ごせた」と白井。
京都から参加したKIKIKIKIKIKI主宰のきたまりは、振り移しではない振付方法の模索として「あ」「い」「う」… に対応する振りをつくり、文章を踊らせる振付に挑戦。「公演ではプレッシャーがかかってしまうが、『何をやってもいいよ』という場なら、進んで自分の考えていることを提示できるし、互いに感想が言いやすい。世代や活動拠点、ジャンルの違うアーティストと知り合い、刺激されることで、自分の作品づくりに確実にいい影響をもらっている」と振り返っていた。
山田うん、鈴木ユキオ、山田せつ子がピアニストの黒田京子とそれぞれソロでセッションする「ピアノで踊る」など、音楽家とのコラボレーション企画が目に付いたのも特徴的だった。そのほか、「子連れダンサー井戸端会議」、会場で投書されたあらゆる問題に、企画者の劇作家・岸井大輔と彼が招いたゲスト会議出席者が通りすがりの5人と10分間会議して解決案を出す「会/議/体」、1917年の流行歌『コロッケの唄』に合わせて伊藤千枝が振付けをした「みんなの体操」など、アーティストの発案らしいユニークな企画が目白押しだった。
アーティスト同士が学び合い、刺激し合い、潜在的な力を耕す場をつくること。こうした育成の取り組みはコンテンポラリーダンスだけでなく他のジャンルにも応用できることだろう。
(ライター・土屋典子)
●We dance
[会期]2月13日、14日
[会場]横浜市開港記念会館
[主催]NPO法人Offsite Dance Project
[助成]神奈川県、横浜市先駆的芸術活動助成
[後援]横浜市開港150周年創造都市事業本部、横浜市中区役所
[企画・制作]We dance準備室
[参加アーティスト]白井剛、伊藤千枝、手塚夏子、きたまり、新鋪美佳、黒田京子、神村恵、山田うん、鈴木ユキオ、山田せつ子、KENTARO!!、宇波拓、岸井大輔、川崎歩、捩子ぴじん ほか