今夏、200種類以上のワークショップが体験できるインターナショナル・ワークショップ・フェスティバル2009「200 DOORS」(以下DOORS)が、延べ24日間にわたり、大阪の各所で開催された。DOORSは大阪市立芸術創造館の指定管理者であるLLPアートサポートが財団法人大阪21世紀協会、関西広域機構と実行委員会を組んで2007年に立ち上げたもの。芸術創造館館長で初回からプロデューサーを務める小原啓渡さんは、「美術でも演劇でもワークショップ(WS)はたくさん行われているが、それぞれのジャンルの中だけに留まってしまう傾向が強い。その枠を外すような状況をつくりたかった」と言う。
WSをやりたい人を公募して場を提供し、参加者募集や広報などの制作を実行委員会が行うという仕組みで、どのWSも90分、受講料500円。初年度は38だったものが、昨年は100、今年は200にまで急増。会場はメインの芸術創造館に加え、大阪の近代建築の魅力を併せて発信したいと中之島図書館、大阪市中央公会堂、芝川ビル、ダイビルなどに拡大。
パンフレットを開くと、アート、映画、音楽、身体表現といった芸術表現系のWSから、歴史、文学、経済、ファッション、美容、コミュニケーショまでぎっしり。人気小劇場演出家によるWSもあれば、大阪市長の平松邦夫さんによる「伝わる、伝える話し方」講座、一般市民による「ナンバ歩き」や「指編み」のプログラムもある。とにかく、何でもありなのだ。
参加者の中には、500円玉を握りしめて複数のWSをはしごする人もいれば、「たまたま図書館に本を返しにきたら、ポスターが掲示されていたので演劇のワークショップに参加してみた」という50歳代の男性もいる。ワンコイン90分という気軽さが、未知の世界にふれるきっかけになっているようだ。
「1000が目標」という小原さんが、少ない人手と予算でそれを実現するために取り組んだのがワークショップ・コーディネーター制度である。準備段階で公募したコーディネーター希望者を対象に2日間の講座を実施。ここで事務局との連絡、事前準備、当日進行のノウハウを学んだ人たちが、それぞれのネットワークで講師を招聘したり、自身も講師になるなどして、現場を運営しているのだ。現在は、80人ほどがコーディネーター登録している。
今年、6つの講座をコーディネートした東大阪市の杉山朋子さんは、「普段は会社勤めをしているのですが、人の役に立つことがしたくて地元のNPOでも活動している。その縁でDOORSを知り、昨年は講師、今年はNPOのメンバーの講座のコーディネーターとして参加した。私たちは知名度もないし、人が集まるかどうか不安だったが、昨年も今年もたくさんの方に来ていただいてとても満足している」と言う。
90分では短すぎるという声もあるが、小原さんは、「ちょっと興味のあることを、ちょっとだけやってみたいという人は多い。そういう文化教室より気軽な機会を提供するのがDOORSで、より深めたければ文化教室に行くのもいい。講師の人たちには『ここを宣伝の場としてどんどん活用してください』と言っている。つまりDOORSは(ワークショップビジネスの)見本市でもある。実際、事務局には他のイベントから講師の照会が来るようになり、その後の仕事に繋がっている」と言う。
ちなみに前述の杉山さんは、昨年、漫才の台本を書く講座に参加したことがきっかけで、その講師の教室に通って台本を1本書き上げたという。こうした講師同士の交流も始まっている。「DOORSでは、『大阪にこれだけオモロイ奴らがいる』ということも伝えたい。200の講座ができるということは、200人の面白いヤツがいるということ。文化はそんな多様な人たちが混じり合い、刺激し合うことによって発せられる熱と匂いだと僕は思っています」と小原さん。
混沌とした大阪の文化そのものをワークショップを通して見える形にしようと試みるDOORS。今後、どのようなものを飲み込み、成長していくのか、期待を持って見守りたい。
(アートジャーナリスト・山下里加)
●インターナショナル・ワークショップ・フェスティバル2009「200 DOORS」
[主催]IWF実行委員会
[企画制作]LLPアートサポート
[会期]7月24日~8月10日、17日~22日
[会場]大阪市立芸術創造館、芝川ビル、大阪市中央公会堂、ダイビル、ロボビル、大阪府立中之島図書館、扇町インキュベーションプラザ(メビック扇町)、旭区民センター ほか