2008年12月27日、一般公募で集まった小中学生100人が出演するオリジナルミュージカル『この花咲くや姫』が、鹿児島県文化振興財団主催、特定非営利活動法人かごしま子ども芸術センター共催により上演された。会場となったのは、2006年に地元の有名焼酎メーカーがネーミングライツを取得した鹿児島県文化センター・宝山ホール。1,507人収容の大ホールで昼夜2回の公演を成功させ、約2,500人が子どもたちの熱演を堪能した。
子どもの事業らしく風船で飾り付けられたロビーには、4月から行われたという稽古の写真や出演者全員の手書きコメント展示コーナー、オリジナルCDや地元企業と連携したオリジナルスイーツ販売コーナー、花束やプレゼントの受付が設けられ、記念撮影する人、懇談する人など多くの家族連れで賑わい、大変な盛り上がりだった。
作品は、日本神話に登場する女神「コノハナサクヤヒメ」が登場するオリジナル。高天原を追放された荒ぶる神の怒りですさんだ生活を送る人間たち。そんな人間の心に光を取り戻そうと、アマテラスの命を受けた神々が薩摩に向かうが、誤解から地上の神々とのバトルが始まる。人間の幸せを願うサクヤはその戦いを止めようとするが…。欲望のままに生きる人間たちを、「利己的な大金持ちの住むアブラ島」「夢見て働かない人の住むドリーム島」といったグループ対抗でコミカルに表現するなど、100人の子どもたちだけでミュージカルをつくる工夫に満ちた、楽しい舞台だった。
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鹿児島県文化振興財団では指定管理者制度移行にともない、サービス業の接遇に学ぶ研修を行うなど、さまざまな角度で意識改革を行ってきた。このミュージカルは、その一環として財団でしかできない自主事業の立ち上げを目指し、平成17年度から取り組んできた子どもたちの育成事業の集大成。17年度(2日×1回/30人)、18年度(2日×2回/60人)、19年度(2日×4回/80人)と体験講座を実施。20年1月に公演に向けた公募を行い、100人が4月から毎週金・土・日を中心に計55日間の稽古を積み重ねた。
「仲間と助け合いながら何かをつくる体験をしてほしくて、音楽・演劇・踊りなどの総合的な表現であるミュージカルに取り組んだ」と事業担当の宮脇理江さん。ホールとしても初めての試みだったことから、子どもの舞台芸術事業に詳しいかごしま子ども芸術センター事務局長の入本敏也さんに相談。東京のミュージカル劇団イッツフォーリーズのメンバーを指導者として招き、脚本・作曲・演出も専門家に委嘱した。また、フォーリーズと地元の繋ぎ役となる現地指導者と保護者(音響係、小道具係、記録係、衣装係、転換係各7~8人)によるサポート体制を整え、ホールは関係者の総勢が200人近い大所帯のマネージメントを担当した。
音楽の吉田さとるさんが、「みんな子どもの声だから1オクターブしか出ない。それで15曲をどうつくるかが一番の課題だった」というように、子どもだけの出演作品ならではの課題も多かったとか。演出家の大原晶子さんは、「威圧する存在ではなく、惹き付ける存在になること、名前を覚えて声を掛け、個人とコミュニケーションを取っていくことをスタッフ全員で心掛けた。子どもたちは、親がそばにいるとその陰にかくれて本来の力が発揮できない。それで楽屋は子どもたちだけにして、小学1年生でも衣装の管理、メイク、早変わり、ピンマイクの付け替えなど、自分のことはすべて自分でやってもらった。こういうことを通じて、子どもたちに心の体力を付けてあげたかった」と振り返る。
また、子どもが兄弟で出演した保護者は、「厳しい言葉で叱られることも多く、最初はびっくりした。でも何事にも自信がなかった子どもが、稽古で自分の思ったことが言葉にできないと取り残されるので、下手でも自分のことを表現しようと努力するようになり、成長していく姿を目の当たりにした。小学1年生から中学2年生まで、全くの他人で歌も歌えないところから始まって、今では100人がまるで兄弟のようになっている。親も貴重な経験をさせてもらって、子どもと一緒に心が強くなった気がする」と言っていた。
親も子もアーティストもホール職員もみんなで学びあえた幸せな事業だったのだろうと思った。
(坪池栄子)
●かごしま子どもミュージカル『この花咲くや姫』
[主催]財団法人鹿児島県文化振興財団
[共催]特定非営利活動法人かごしま子ども芸術センター
[会期]12月27日
[会場]宝山ホール
[脚本・作詞]大谷美智浩
[音楽・演奏]吉田さとる
[演出]大原晶子