一般社団法人 地域創造

茨城県日立市 ひたち野外オペラ『アイーダ』

 11月1日、第23回国民文化祭・いばらき2008のオープニングを飾るイベントとして日立シビックセンター前の日立新都市広場特設会場で、ひたち野外オペラ『アイーダ』が開催された。一般公募で選ばれた出演者と、日立交響楽団、日立市民吹奏楽団、日立第二高校新体操部、市内の複数の劇団や舞踊教室のメンバーに国内外で活躍するプロのソリストが加わった総勢500人が出演する壮大なスペクタクルで、約3時間半にわたり、古代エジプトを舞台に国や宗教の違いにより引き裂かれる男女の愛のドラマが繰り広げられた。

 

 

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©第23回国民文化祭日立市実行委員会オペラ企画委員会

 この野外オペラは、1993年から「オペラによるまちづくり」を掲げ、96年から市民ボランティアによるオペラづくりを続けてきた日立市が大きな目標にしてきたものだ。「10年以上前、野外オペラの構想が持ち上がった時から、いつかは壮大なドラマである『アイーダ』を上演したいという声がありました。その長年の夢がかないました」と、シビックセンターで11年間市民オペラに携わっている小野芳樹さんは言う。
 2005年8月の野外オペラ『カルメン』終了後から準備を開始し、これまでに培ったノウハウをすべて注ぎ込み、国民文化祭のプログラムとして今回の公演を企画。市内の企業や商店などからの広告・協賛金、入場料を合わせた約800万円を制作費に充当するなどし、実現にこぎつけた。

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©第23回国民文化祭日立市実行委員会オペラ企画委員会

 こうした「オペラによるまちづくり」の担い手となったのが1996年に発足した「ひたち市民オペラを育てる会」だ。2003年に「ひたち市民オペラによるまちづくりの会」へと改称し、現在は約40人が常時活動している。この会は、企画委員会でオペラ事業の計画、検討を行い、オペラ制作部会の下にある5つのチームが連携して制作を行う体制となっている。5つのチームには、公演に実際に携わる「スタッフチーム」「キャストチーム」のほか、シビックセンター音楽ホールなどでのレクチャーコンサート等を企画する「オペラコンサートチーム」、市内の交流センターなど地域を巡回してミニコンサートやトークを行う「ひたちオペラサロン」の企画・運営と季刊紙発行を担当する「オペラPRチーム」、全国のオペラ関係者が集まって市民オペラのあり方を検討する全国オペラフォーラムの運営をサポートする「もてなしフォーラムチーム」がある。オペラサロンは今年8月で24回を数え、市内をくまなく回り、全国オペラフォーラムは今年で12回目を迎えた。
 「継続こそ力なりだと思います。全国フォーラムでも、経済状況が厳しい折、オペラのフルサイズでの上演は減少傾向にあるとの報告がありましたが、縮小版や子どもオペラは盛んに行われ、定着しています。不景気だからこそ、文化・芸術でまちを元気にし、人々の繋がりを大切にしていけたらと思います」とシビックセンターの音楽ホール担当マネージャー・堀信康さんは話す。
 シビックセンターでも2006・07年度に「子どもオペラ学校」を開校し、小学3年生から高校2年生まで延べ110人が参加している。10月から3月に週1回のペースで講義を受け、春休みにその成果として『ヘンゼルとグレーテル(抜粋)』を上演するというもの。「この育成事業を始めて一番の変化は、保護者が市民オペラに積極的に参加するようになったことです。文化活動の中心を担っていたリタイア組が高齢化するなかで、保護者世代が入って新しい風を吹かせていると思います」と小野さん。
 さらに、活動のなかから市民による「小さなオペラをつくる会」も誕生。日立在住の歌手・大津香津子さんや、野外オペラで毎回大道具・小道具を製作している三浦信孝さんらが中心となり、小中学生も参加して上演時間50分ほどの小品『アマールと夜の訪問者たち』を2004年に初演し、毎年公演している。
 「日立のオペラ人口は年々増えていると感じています。今後の目標はキャスト、スタッフともすべて日立の人間で、100%日立オリジナルのオペラをつくることです」と三浦さんは抱負を語る。
財政上の問題などから、今後の野外オペラ上演についてはまだ決まっていないというが、「市民の皆さんと話し合いながら次の道を探っていきます」と小野さん。規模は縮小されても、市民の中に灯った「オペラによるまちづくり」の火は消えることはないのではと思った。

(ライター・土屋典子)

 

●第23回国民文化祭・いばらき2008 天空に高鳴る祝祭の響き!ひたち野外オペラ『アイーダ』
[指揮]山上純司
[演出]中津邦仁
[出演]立野至美、坂本朱、樋口達哉、堀内康雄、筒井修平、鹿野章人、所谷直生、大津香津子、野外オペラ「アイーダ」合唱団、野外オペラ「アイーダ」管弦楽団(日立交響楽団)ほか
[会期]2008年11月1日
[会場]日立新都市広場(日立シビックセンター前)
[企画・制作]第23回国民文化祭日立市実行委員会オペラ企画委員会
[主催]文化庁、茨城県、茨城県教育委員会、日立市、第23回国民文化祭茨城県実行委員会、第23回国民文化祭日立市実行委員会、(財)日立市科学文化情報財団、ひたち市民オペラによるまちづくりの会

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