地域創造では公立文化施設の活性化を目的として、音楽、演劇・ダンス、美術、伝統芸能の各ジャンルでさまざまな事業を展開しています。例年、秋口から各地域での事業が本格的に始まります。今年度は全国19地域で行われる「公共ホール音楽活性化事業」が9月17日からの金沢を皮切りに本格スタートしました。ここでは、公共ホール現代ダンス活性化事業のトップバッターとなった佐賀市での取り組みと、現在巡回中の市町村立美術館活性化事業「向井潤吉展」について事業の模様をお伝えします。今後も年度末まで次々と事業が各地で実施される予定です。ぜひ視察していただければと思います。
●今年度の「公共ホール現代ダンス活性化事業」佐賀市と北上市よりスタート
公共ホール現代ダンス活性化事業は、コンテンポラリーダンスにふれる機会が少ない地域にコンテンポラリーダンスを紹介し、アーティストと地域の人との交流を図り、ホールとのネットワークをつくることを目的に実施しているものです。登録アーティスト(登録期間2年間)を地域に1週間程度派遣し、公共ホールとの協働によりワークショップと公演を行います。
今年度は全国10カ所で実施しますが、そのトップバッターとなったのが、佐賀市文化交流プラザ交流センターと岩下徹さんとの取り組みです(9月22日~28日)。
岩下さんは、「コミュニケーションとしての即興ダンス」を実践する舞踊家で、世界的に著名な舞踏グループ「山海塾」の舞踏手でもあります。身心を解放し、他者とコミュニケーションをしていく即興ダンスのメソッドにより、滋賀県湖南病院でダンスセラピーを実践するなど、ダンスと社会の繋ぎ手として貴重な活動をされています。
交流センターでは、公募で集まった一般の方を対象に、3夜連続で受講するワークショップが実施されました。まずは身体の力を抜くことからスタートし、徐々に空間や他者を感じ、呼応して動くことで身心を解放。普段意識することのない自分の身体や感覚にじっくり向き合い、少しずつ身体と心が自由を得て、動きが自然に発露することを味わうプログラムでした。また、アウトリーチでは地元の小学校、知的障害者通所施設、病院の療養病棟に出掛けました。岩下さんは音楽家とのセッションを得意とし、27日に行った公演も世界的なサックスプレイヤーである梅津和時さんとの競演でした。アウトリーチにも地元の打楽器奏者を同行し、ワークショップだけでなく、始まりにパフォーマンスを披露するなど、即興ダンスならではの広がりのある取り組みとなりました。
療養病棟に出掛けた時には、病院の先生が弾くチェロに合わせてパフォーマンスを披露。車いすに座った年配の患者さんがほとんどでしたが、座ったままで、介護スタッフの方と一緒に、体をさする、動きを真似るといったワークショップで身体感覚を覚醒させていました。
梅津さんとの即興セッションでは、ホールの技術スタッフの辻喜明さんが即興の照明に挑戦。アーティスト、観客、照明スタッフが一体となって場をつくり上げる岩下さんのコミュニケーションとしてのダンスをみんなで堪能しました。
今回の事業担当の中野弘文さんは、「ぜひ地元のアーティストとのセッションを実現させ、刺激を与えたかった」と、美術アーティスト、薩摩琵琶奏者、打楽器奏者と岩下さんによる駅でのミニパフォーマンスを企画。積極的な姿勢でダン活に取り組んでいました。事業を終えて、「岩下さんと出会った一人ひとりの心の中にしっかりと感動の芽が生まれたと思います。この事業はまだ始まったばかり。今回の出会いを大事に、その芽をどのように育てていくか真摯に考えていきたいです」と語っていました。
●平成20年度「公共ホール現代ダンス活性化事業」これからの開催地(会場/日程/派遣アーティスト)
◎福井県坂井市(みくに文化未来館/11月11日~17日/セレノグラフィカ)
◎福岡県直方市(ユメニティのおがた/12月1日~7日/東野祥子)
◎鹿児島県徳之島町(徳之島町文化会館/12月16日~22日/北村成美)
◎愛媛県松山市(松山市民会館/2009年1月12日~18日/森下真樹)
◎鹿児島県鹿児島市(鹿児島市民文化ホール/1月12日~18日/伊藤多恵)
◎北海道深川市(深川市文化交流ホール み・らい/1月22日~28日/山田うん)
◎愛知県豊橋市(豊橋市民文化会館/1月26日~2月1日/岩淵多喜子)
◎茨城県小美玉市(小美玉市小川文化センター/2月16日~22日/森下真樹)
●公共ホール現代ダンス活性化事業に関する問い合わせ
芸術環境部
下元・永岩・渋谷・坂間・大澤
Tel. 03-5573-4064
●市町村立美術館活性化事業「向井潤吉展」が全国4市を巡回
今年度の市町村立美術館活性化事業は、世田谷美術館所蔵作品による「向井潤吉展 風土をみつめる旅」が全国4市を巡回しています。
向井潤吉(1901~1995)は、京都市に生まれ、近代洋画の巨匠・浅井忠らが創設した関西美術院に学びました。1920年二科展に初入選後、27年に渡欧、ルーヴル美術館で模写に励み、技法、表現の研究を重ねます。帰国後の30年には樗牛賞を受賞し、33年からは世田谷にアトリエを構え、制作の拠点としました。そのアトリエは、現在、向井潤吉アトリエ館となっています。37年からは陸軍報道班員として戦争記録画の制作にも従事し、45年には行動美術協会の創立会員となります。戦後は、高度経済成長の中で失われていく風景を記録することをライフワークとして、茅葺屋根の民家をモチーフに日本全国の風景を描き続けました。本展は、大正期から平成元年頃に至るまでの作品を展示し、向井の一貫した思想と表現を多くの皆様にご覧いただこうというものです。
オープニング館となった愛知県田原市博物館では、総合開会式が開催され、田原市長、市議会議長をはじめ、多くの関係者の皆様が出席されました。また会期中には、世田谷美術館美術担当課長・橋本善八氏(本展アドバイザー)よる記念講演会や黒テント・小篠一成氏によるエッセイ朗読会など、作品の鑑賞を深めるためのさまざまな関連イベントも実施されました。
続く第2会場の長野県茅野市美術館では、本展に関連して多くのゲストを迎え、自然、言葉、素材、歴史、音などさまざまな切り口による「地域を見つめるプロジェクト」が実施されました。なかでも、建築家・藤森照信氏による「土壁ワークショップ~赤土をこねて、竹を編んで、土壁をつくろう~」は、氏の指導のもと、赤土をこね、小さなトンネルに赤土を塗っていくというもので、参加した19人の親子にとっては、自然素材で物をつくる貴重な体験となりました。
第3会場は、彫刻家・平櫛田中を顕彰する岡山県井原市立田中美術館、そして現在は、兵庫県伊丹市立美術館に巡回し、11月24日まで開催されていますので、ぜひご覧ください。
本展のカタログは、これまで世田谷美術館で開催された展覧会カタログ等を参考に新たに制作されたものです。橋本氏による巻頭論文をはじめ、開催館学芸員の皆さんが、それぞれに固有のテーマで論文を執筆され、また年譜、参考文献等の資料も掲載された大変充実したものとなりました。こうしたカタログの充実は「巡回展の開催を通じて、学芸員の企画制作能力の向上を図る」という本事業の趣旨にも適うものです。地域創造としては、今後とも巡回展の開催を通じて、地域の活性化を支援して参りたいと存じます。
●平成20年度市町村立美術館活性化事業「世田谷美術館所蔵作品による 向井潤吉展─風土をみつめる旅」
田原市博物館(2008年5月31日~7月6日)
茅野市美術館(7月12日~8月24日)
井原市立田中美術館(8月30日~10月13日)
伊丹市立美術館(10月18日~11月24日)
●市町村立美術館活性化事業に関する問い合わせ
総務部 泰井・日下部
Tel. 03-5573-4183
市町村立美術館活性化事業では、平成22年度に実施予定の「宮城県美術館所蔵品による佐藤忠良展(仮称)」の開催館を募集中です。詳しくは(財団からのお知らせ)をご覧ください。