平成19年度最新調査成果より
財団法人地域創造では、財団設立当初から地域の公立文化施設の実態を把握する調査を行い、地域の芸術文化環境づくりについて全国的な視点から分析・研究を行っています。この度、その最新研究として「指定管理者制度における公立文化施設の運営と財団のあり方に関する調査研究」報告書を取りまとめました。
この報告書では、指定管理者制度への移行により多大な影響を受けている「文化振興財団の今後のあるべき方向性」について整理するとともに、「指定管理者制度導入後の問題点と次期指定にあたっての留意事項」を整理しました。
今号のレターでは、その要旨をご紹介しますので、その成果をご活用いただき、ミッションを実現するための適切な運営方法の検討と運営形態の決定の参考にしていただければと思います。
●「指定管理者制度における公立文化施設の運営と財団のあり方に関する調査研究」概要
2003年6月の地方自治法一部改正に伴い、同年9月に施行された「指定管理者制度」により、公立文化施設は「直営」もしくは議会によって指定された「指定管理者」によって運営されることになりました。
指定管理者制度への移行は公立文化施設の運営に大きな影響を及ぼすことから、地域創造では04年から調査研究テーマとして取り上げ、現状の把握に務めてまいりました。06年に実施した「指定管理者制度導入状況等調査」によると、その導入状況は全施設(4,265)の34.2%、1459館であり、その内、公募が63.3%、非公募が36.7%となっています。
今回の最新調査では、多くの公立文化施設が09年に指定替えの時期を迎えることを鑑み、文化振興財団へのアンケート調査(566団体対象、有効回答301件)、事例調査(7団体)により、この制度が全国各地の公立文化施設の運営に及ぼした影響を調査しました。その上で、専門家研究会を設置し、検討を行いました。
●指定管理者制度導入後の問題点と留意事項
指定管理者の次期指定に関しては、「平成20年度地方財政の運営について」(平成20年度6月6日付総務事務次官通知)においても、「指定管理者の選定の際の基準設定に当たっては、公共サービスの水準の確保という観点が重要である」と述べられているように、経費節減に偏りがちな傾向について警鐘が鳴らされています。こうした現状の問題点および指定替えに向けた留意事項は、大きく以下のとおりです。
◎現状の問題点
①経費節減への偏重
指定管理者制度の目的は、「住民サービスの向上」と「経費節減」が両輪とされていますが、実際には、住民サービスの向上を置き去りにした経費節減への偏重が見られ、施設の安全な運営等にも支障をきたしている。
②事業の継続性、柔軟性への影響
指定管理業務が有期限であることから、長期的な視野に立った事業の実施、事業の継続性の確保等が困難になっている。
③地域とのつながりやネットワークの蓄積・継承への影響
地域の芸術家・団体・住民グループ等との長期的なネットワークを継承できない恐れが出ている。
④人材の雇用・育成への懸念
指定期間が定められていることから、専門的人材の新規雇用、雇用の継続や人材育成など、長期的な戦略が描けないといった声がある。
◎指定替えにあたっての留意事項
①公立文化施設の特性への留意
公立文化施設には、事業の専門性、運営組織の代替性・互換性の低さ、長期的な取り組みや継続性が強く求められるといった特性を有している。
②文化政策、文化施設のミッションの明確化
次期指定に際しては、まず、文化政策、文化施設の目的やミッションを明確にする必要がある。
③最適な運営手法の検討
地域や施設の将来を見据えて、指定管理者制度だけではなく、直営を含め最適な運営手法を選択する必要がある。
④最適な運営主体の選定
①の特性も視野に入れ、指定管理者とした場合でも非公募にするか等、当該施設に相応しい選定方法を検討する必要がある。
●今後の文化振興財団のあるべき方向性
現在、地方公共団体には、指定管理者制度が文化振興財団にもたらした大きな影響等に適切に対応することが求められており、文化政策の策定や文化振興施策、事業の実施等の推進体制を含め、「文化振興財団のあるべき姿や方向性」を再検討すべき時期にきています。
今回の調査研究では、地方公共団体の文化振興に求められる役割と機能を下図の①~⑥に整理した上で、これらの役割と機能を「地方公共団体」「文化振興財団「(文化振興財団以外の)指定管理者」のどこが担うべきかを検討し、今後の文化振興財団のあるべき方向性を下図の5つのタイプに整理しました。
●文化振興財団のタイプ
◎文化政策に求められる役割・機能と文化振興財団の方向性
総合的文化振興財団
地方公共団体の文化振興全般で中心的な役割を担う文化振興財団。都道府県や政令市など、複数の文化施設を連携させて総合的な文化振興を図る場合には、このタイプの財団を選択肢のひとつとして検討することが望ましい。
文化振興支援・指定管理型財団
文化施設の指定管理業務に加え、調査研究や中間支援業務などを行い、地方公共団体の文化振興を側面支援する財団法人。広域的な文化行政を担う都道府県や政令市などでは、①もしくはこのタイプの財団法人が望ましい。
指定管理型財団
文化施設の指定管理業務を専従的に行う財団法人。当該文化施設の運営管理だけではなく、文化施設における事業を企画・実施することで文化振興財団の役割を果たすことが求められる。
文化事業特化型財団
文化施設の指定管理業務は行わず、独自の事業や中間支援業務などを行う財団法人。財団とは別に文化施設の指定管理者を選定する必要があり、指定管理者と財団の関係や役割分担については、十分な検討が必要。
地域アーツカウンシル型財団
文化施設の指定管理業務は行わないが、文化政策や文化振興に関する専門機関として、調査研究や中間支援業務を行う地域版のアーツカウンシル的な役割を担う財団法人。文化政策に関する専門機関として、行政組織の異動サイクルと関係なく専門的なノウハウやネットワークを蓄積したり、文化政策の評価や指定管理者の選定などについても一定の役割を担うことが期待される。
●専門家研究会委員(五十音順)
草加叔也(有限会社空間創造研究所代表取締役)
熊倉純子(東京芸術大学音楽学部准教授)
幸田雅治(総務省自治行政局行政課長)、田邊國昭(座長/東京大学大学院法学政治学研究科教授)
坪池栄子(株式会社文化科学研究所プロデューサー)
中川幾郎(帝塚山大学法政策学部教授)
飛弾直文(財団法人地域創造常務理事)
平田オリザ(劇作家、演出家、青年団代表、大阪大学教授)
横道清孝(政策研究大学院大学教授)
吉本光宏(ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室長)
*肩書は報告書発行当時のもの。
●「指定管理者制度における公立文化施設の運営と財団のあり方に関する調査研究」に関する問い合わせ
芸術環境部 坂田・川口・坂間
Tel. 03-5573-4066
指定管理者次期指定に向けた留意事項
都道府県知事、市町村長のみなさまへ
財団法人地域創造では、「指定管理者制度における公立文化施設の運営と財団のあり方に関する調査研究」報告書をとりまとめました。その中で、指定管理者制度の適切な運用のために、「次期指定に向けた基本的な考え方と留意事項」を整理しました 。ここでは、その要点をご紹介しますのでご留意ください。
公共ホール等文化関係施設については、他の公の施設とは異なり、
次のような深刻な問題点が指摘されております
①経費節減への偏重
指定管理者制度の目的は、「住民サービスの向上」と「経費節減」が両輪とされていますが、実際には、住民サービスの向上を置き去りにした経費節減への偏重が見られ、施設の安全な運営等にも支障をきたしている。
②事業の継続性、柔軟性への影響
指定管理業務が有期限であることから、長期的な視野に立った事業の実施、事業の継続性の確保等が困難になっている。
③地域とのつながりやネットワークの蓄積・継承への影響
地域の芸術家・団体、住民グループ等との長期的なネットワークを継承できない恐れが出ている。
④人材の雇用・育成への懸念
指定期間が定められていることから、専門的人材の新規雇用、雇用の継続や人材育成など、長期的な戦略が描けないといった声がある。
指定替えにあたっての留意点
①公立文化施設の特性への留意
公立文化施設には、事業の専門性、運営組織の代替性・互換性の低さ、長期的な取組みや継続性が強く求められるといった特性に注意する必要がある。
②文化政策、文化施設のミッションの明確化
次期指定に際しては、まず、文化政策、文化施設の目的やミッションを明確にする必要がある
③最適な運営手法の検討
地域や施設の将来を見据えて、指定管理者制度だけではなく直営を含め、最適な運営手法を選択する必要がある。
④最適な運営主体の選定
①の特性も視野に入れ、指定管理者とした場合でも非公募にするか等、当該施設に相応しい選定方法を検討する必要がある。
なお、次期指定に関しては、「平成20年度地方財政の運営について」(平成20年6月6日付け総務事務次官通知)においても、『指定管理者の選定の際の基準設定に当たっては、公共サービスの水準の確保という観点が重要である』と述べられているように、経費節減に偏りがちな傾向について警鐘が鳴らされています。
公立文化施設の設置者である都道府県知事、市町村長におかれましては、以上のことに留意し、ミッションを実現するための最適な運営方法を検討した上で、適切な管理形態を決定していただくことを期待します。