8月5日から7日までの3日間、東京芸術劇場の会議室・リハーサル室を会場に「地域創造フェスティバル」を開催しました。この催しは、昨年度まで開催していた「公共ホール音楽活性化支援事業」の登録アーティストによるプレゼンテーションを、財団事業をより広範に紹介するプログラムとして大幅にリニューアルしたものです。多くのアーティストにご協力いただき、3日間で全国から公共ホールの職員、自治体の文化行政担当者など延べ約500人の方が集い、大盛況となりました。関係者の皆様には心からお礼申し上げます。
●アーティスト50組がプレゼンテーション
今回のフェスティバルで主に紹介されたのは、「公共ホール音楽活性化事業・同支援事業(以下、おんかつ)」(*1)「公共ホール現代ダンス活性化事業(以下、ダン活)」「財団助成事業」の3つです(詳細プログラムは下記表参照)。
おんかつ関係では、アウトリーチ経験の豊かな支援事業登録アーティストと「アウトリーチ・フォーラム事業」(*2)に参加したフォーラム・アーティストの総勢50組が実演しまた。アーティストのプレゼンに加えて、おんかつ事業によって出会ったアーティストと公共ホールの共同企画による親子向けコンサートやオリジナル・アンサンブル・コンサートの企画提案もあるなど、多彩なプレゼンテーションになりました。
また、セミナーでは入門編だけでなく、地元の伝統芸能とのコラボレーションやオリジナル音楽劇のプロデュースなど、おんかつへの創造的なアプローチを考えるための応用編も企画され、多くの受講者で賑わっていました。今年度は19組のアーティストが31カ所で支援事業を行う予定ですが、こうした支援事業への参加を考えている担当者の新たな試みを模索している姿がうかがわれ、頼もしい限りでした。
こうした創造型企画を各地で実施してきた能祖将夫コーディネーターは、「ちょっとしたことを拾ってその地域のオリジナルとして形にしていくのが醍醐味だ。そのためにはベースとしてアーティストと地域の担当者の信頼関係が必要。別にオリジナルでなくてもいいが、地域の人たちが喜んでくれるというのが実感だ」と話されていました。
ダン活関係では、すでに今年の1月に登録アーティストによるプレゼンテーションが行われましたが、今回のフェスティバルでは、特におんかつ関係者にもダンスのワークショップについて理解を深めてもらえればと企画されました。学校でのワークショップに定評のある山田うんさん、西成のホームレスとのワークを始めた砂連尾理さん、人の動きからムーブメントを拾うワークショップで作品づくりをする北村成美さんと、実力派のアーティストが実演を行いましたが、参加者からは、「もっと難しいものかと思っていたが、自分の中にあるものがすべて外に出てくるような感じでとても楽しかった」という声が上がっていました。
佐東範一ダン活コーディネーターは、「初めて会った人と一緒に立って動くだけで仲間になったような気がする。人と人が知り合うというのは、言葉で説明しないとできないことではなくて、触れ合うことで伝わる情報もある。身体から発する情報量についてこれまであまり意識しなさすぎたのではないか」と、ダンスに象徴される身体表現の重要性について指摘されていました。
財団の事業説明の一環として、特に昨年実施した「地域の公立文化施設実態調査」(*3)の結果について報告が行われました。指定管理者制度導入後初めての本格的な調査だけに、各地の公立ホールの現状について参加者は熱心に耳を傾けていました。
また、今回のフェスティバルでは、自治体の文化行政担当者の方々もプレゼンテーションやセミナーに参加していただけるよう、これまで全国6ブロックで実施してきた「ブロックラボ」を「都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議」として会期中に併せて開催しました。アウトリーチ・フォーラム事業の例などを紹介しながら都道府県の役割について考えるシンポジウムなどが企画され、また意見交換も行われました。
*1 公共ホール音楽活性化支援事業
「公共ホール音楽活性化事業」の参加館OBおよび登録アーティストOBが事業を継続できるよう財政的にサポートする仕組みとして平成17年度に創設されたもの。現在、アウトリーチの豊かな経験をもつ59組が支援事業登録アーティストとして登録され、平成19年度は18組のアーティストが27カ所で事業を実施。
*2 アウトリーチ・フォーラム事業
都道府県または政令指定都市と地域創造の共催により、身近で親しみのあるクラシック演奏会、地域住民との交流を図るプログラム、アウトリーチ手法に関する研修会、フォーラム(シンポジウム)等を開催するもので、平成16年度にスタート。今年度は岡山県と高知県で開催。
*3 平成19年度「地域の公立文化施設実態調査」
全国の公立文化施設を対象に、施設のハードと事業運営等ソフトとの両面にわたる実態を調査。
[問い合わせ]芸術環境部 坂田・坂間
Tel. 03-5573-4066
●地域創造フェスティバル プログラム
ステージラボ青森セッション報告 2008年7月15日~18日
今回のステージラボは、7月15日から18日まで、青森市文化会館と青森県立美術館を会場に開催されました。2つの施設を結んで開催されるのは、ステージラボが始まって以来初めてのことです。
2006年7月、三内丸山遺跡に隣接する地に誕生した青森県立美術館をはじめ、今年4月にオープンした十和田市現代美術館、アーティスト・イン・レジデンスの拠点として成果を上げている国際芸術センター青森(ACAC)など、個性的な文化施設を軸とした芸術活動が盛んな青森県。行政のみならずNPOなどさまざまな立場の人が集い、さらに美術関係だけでなく、劇団弘前劇場など舞台芸術、映像など、ジャンルを超えた人々による多層的なネットワークが構築されつつあり、芸術関係者、愛好家の間で今、青森のアート環境を取り巻く“熱気”が話題になっています。
青森県立美術館の特性を活かしたプログラムに加え、青森のまちに飛び出し、駅前魚市場での朝食から津軽三味線のライブを聞かせる居酒屋まで、まちの人々と積極的に交流するプログラムも展開され、まさに地域の魅力にふれる4日間でもありました。共催者として全面協力をいただきました青森県、青森市、財団法人青森市文化スポーツ振興公社の皆様には、心よりお礼申し上げます。
●特性を活かした多様な講座を開講
ホール入門コースでは、南河内万歳一座座長の内藤裕敬さんとコンテンポラリーダンサーの北村成美さんを講師に、創作プロセスを体験することでアーティストの仕事について理解を深めるゼミをはじめ、先進的な取り組みで知られる会館職員やホールと連携する学校教師といった“先輩”と意見交換などをする場が設けられました。青森の芸術活動を支える市民やアートNPOの拠点「空間実験室」を訪ねたり、地域資源である津軽三味線について知るプログラムがあったりと、番外枠までフルに使った怒濤のゼミ・マラソンとなりました。
自主事業コースのテーマは、音楽を中心としたアーティスト・レジデンシー活動を徹底的に学ぶことでした。受講生は、ホールとアーティスト、ホールとコミュニティを結ぶ自主事業を企画し、そのプレゼンテーションまで行いました。
文化政策企画・文化施設運営コースでは、文化政策、施設運営の「根本」「基礎」にあえて立ち返り、山積する問題を解決する道筋を探っていこうとする講座が並びました。前びわ湖ホール館長の上原恵美さん、静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」館長の田村孝子さん、帝塚山大学教授の中川幾郎さんらによる講義は、アートマネジメントのこれまでと現状、未来を語る熱のこもったもので、受講生の意識を高めるものになりました。
アートミュージアムラボは、青森県立美術館のワークショップスペースを会場に、ボランティアとの協働、教育普及事業の新たな潮流、美術館における知的財産権といった、さまざまなトピックが取り上られました。廃品の素材を提供する「Useless selection」、いらなくなったおもちゃを使った子ども主体の活動「Kaekko(かえっこ)」などの発案者であるアーティストの藤浩志さんが講師となり、身近な素材と表現の関係を体感するワークショップも行われたほか、“熱い”青森のアートネットワークに触れることで、自らの地域のネットワークを見直す受講生も見受けられました。
●「ねぶた」とストリートブラス、クラシックが競演
ステージラボ恒例の共通プログラムでは、青森ねぶた囃子とおんかつ登録アーティストとしてもお馴染みのブラスバンド、BLACK BOTTOM BLASS BANDによるワークショップが行われました。「ねぶた組」は、ねぶた囃子愛調会のご協力をいただき、迫力あるねぶた太鼓に挑戦したり、「ハネト」と呼ばれる踊り手を体験、「らっせらー」の掛け声とともに、ステージの上で力いっぱい跳ね回りました。一方の「BBBB組」は、『聖者が街にやってくる』を練習。マイ楽器を携えて参加するなど、気合いの入った受講生も。“パレード”がテーマだけに、楽しくパフォーマンスができるよう、気持ちをひとつに演奏に取り組む姿が印象的でした。
約45分のワークショップの後は、ステージ上に客席を設け、ヴァイオリニストの松本蘭さんも加わっての熱いライブが披露されました。ねぶたのリズムとブラスのパワー、情熱的な松本さんの演奏に、受講生も積極的に絡んでいき、ラストはみんなで飛んだり跳ねたり、ハネトになりきって大団円を迎えました。ハードな動きに、「筋肉痛になりそう」と汗を流す受講生たち。その表情はみな充実感に満ちていました。
●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
坪池栄子(株式会社文化科学研究所 研究プロデューサー)
◎自主事業コース
箕口一美(NPOトリトン・アーツ・ネットワーク ディレクター)
◎文化政策企画・文化施設運営コース
草加叔也(有限会社空間創造研究所 代表取締役)
◎アートミュージアムラボ
大月ヒロ子(有限会社イデア 代表取締役/ミュージアム・エデュケーション・プランナー)
●ステージラボ・アートミュージアムラボに関する問い合わせ
芸術環境部 渋谷泰一 Tel. 03-5573-4055
●ステージラボ青森セッション カリキュラム