地方団体の皆様には、日頃から当財団の事業に多大なるご協力をいただき、心より感謝申し上げます。新年度を迎えるにあたって、財団の任務について私の考えておりますことを少し述べさせていただきたいと思います。
●地域社会の活性化を目指して
当財団は、地域における文化・芸術の振興によって、創造性豊かな地域づくりを目指すことを目的に、全国知事会、市長会、町村会等の総意により設立されたものです。よって、財団の事業は、どんなものであれ、「地域社会の活性化」に繋がるものでなければならないと考えております。
特にこれからの新しい時代におきましては、世界の諸都市で「創造都市(クリエイティブ・シティ)」(*)という考え方が注目を集めていることからもわかるように、文化・芸術の振興を通じて行う事業が、地域社会を再生するための起爆剤になると確信しています。
そういう意味で、私は、地域活性化の長期的な戦略をもって各地で頑張っておられる知事・市町村長さんを、財団の事業を通じて応援してまいりたいと思っていますし、それが当財団に課せられた任務だと考えています。そのためにどのようなことが望まれているのか、地方団体の皆様のご意見も伺いたいと思っております。
また、我が国において、文化・芸術の振興によって地域社会の活性化を図るという気運を盛り立てていくためには、都道府県、市町村と連携した「戦略的な取り組み」が必要ではないかと考えております。
●地方団体との連携を重視
私が理事長として特に力を入れたいと思っていることのひとつが、都道府県・市町村の行政部局との連携です。
これまで当財団では、教育委員会・文化財団関係者、アーティスト等、専門家の方々のご協力をいただき、地域の公立文化施設の活性化を通じた地域づくりを推進してまいりました。これにつきましては非常に高く評価していただいていると自負しておりますが、我々に託された「地域社会の活性化」という使命を果たすためには、これまで以上にそれを執行する地方団体の幹部の皆様のご理解をいただくことが重要ではないかと考えています。
このため、知事・市町村長さん、行政部門の幹部の方々と積極的に意見交換をさせていただきたいと思っています。特に、欧米諸都市における文化・芸術の振興を通じた戦略的な地域再生の取り組み事例等の情報をお伝えするなどして、各地における文化事業の戦略的な展開を応援させていただきたいと考えています。そして、知事・市町村長さんのリーダーシップにより、防災・防犯、教育、商工、民生部門等との地域における連携を図りながら、文化・芸術活動を基軸とした総合的な地域政策が展開されることを期待しております。
●財団の事業展開について
当財団では自主事業、財政支援事業など、微力ながら多くの事業を行ってまいりました。しかし、我々だけでは広がりに限界もあるため、当財団としてはモデル事業に力を入れてノウハウづくりを行い、それを地方団体の皆様に活用していただけるような方策を考えてまいりたいと思っています。特に、都道府県が中心となって県内市町村の文化・芸術による地域づくりを支援する体制づくりのお手伝いができないか、その方法を模索しているところです。県内の財団の連携・広域化による執行体制の充実も課題のように思えます。
また、文化・芸術活動を積極的に展開していくための「人材育成」に重点をおいてまいりたいと考えています。具体的には、現場を預かっておられる文化財団の幹部職員、あるいは関係職員の方々はもとより、市町村長さんを補佐する行政幹部職員の方々に対して情報提供させていただく機会をできるだけ増やしてまいりたいと思っています。都道府県の幹部職員の方々に対しましても、戦略的な取り組みに役立つものをご提供していきたいと知恵を絞っているところです。
当財団では、公共ホール音楽活性化事業の登録アーティストやOBアーティストをはじめとして、多くのアーティストを地域に派遣しています。これらアーティストの方々は「財団の宝」であり、「地域社会の活性化」という財団の任務を遂行する上での大切なパートナーです。ぜひ、地域に伺った際には、地方団体の皆様におかれましても、「財団の地方大使」であり、地域活性化の起爆剤となり得るアーティストの方々と積極的に交流していただければと思います。
●財団事業の積極的な活用を
知事・市町村長さんにおかれましては、当財団の各種事業案内をご覧の上ご検討いただき、特に人材育成事業への職員派遣や活性化事業の実施については、2~3年先を考え、早めにお申し出くださるようお願いいたします。地域創造は「クリエイティブ・ファウンデイション」としての意気込みをもち、我が国における、文化・芸術を通じた地域活性化の牽引者としての役割が果たせればと考えております。今年度もどうぞよろしくお願い申し上げます。
*創造都市(クリエイティブ・シティ)
英国の文化・都市政策系シンクタンク主宰者、チャールズ・ランドリーが提唱。文化・芸術の施設整備やイベント開催ではなく、官民問わず都市に住む人々が創造的な発想をもって暮らしていくうちに、都市が抱えるさまざまな問題が解決してゆく、という概念。
●林 省吾(はやし・しょうご)
岡山県生まれ。
昭和45年自治省入省。総務省自治財政局長、総務省消防庁長官、総務省事務次官を歴任。この間、京都府、外務省在サンフランシスコ日本国総領事館、茨城県、静岡県教育委員会、静岡県、大阪府での勤務を経験。