一般社団法人 地域創造

第8回地域伝統芸能まつり報告

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写真:
左上・猿の子踊(鹿児島県指宿市)
右上・豊前市の岩戸神楽(福岡県豊前市)
左下・「天人」と「津波古の棒術」(沖縄県南城市)
右下・奈良豆比古神社の翁舞(奈良県奈良市)

 日本各地で脈々と受け継がれている地域伝統芸能や古典芸能を紹介している「地域伝統芸能まつり」が、2月23日、24日の両日、東京・渋谷のNHKホールで開催されました。8回目となる今年は「翁と童」をテーマに、全国から11の地域伝統芸能と3つの古典芸能が集い、延べ5000人の観客を魅了しました。
  財団法人地域創造では、「地域伝統芸能まつり」のほかにも、こうした芸能の映像記録を財政的に支援し、またその映像をウェブサイト「地域文化資産ポータル」(http://bunkashisan.ne.jp/)で発信するなど、ふるさとの誇りである地域伝統芸術の振興に力を入れてきました。今年は、インターネットの映像も見ていただけるようにロビーの一角に「地域文化資産ポータル」コーナーを開設。また、まつりに参加した地域の名産即売コーナーも設けられるなど、今年も地域色豊かな賑やかな催しとなりました。


●伝統芸能と古典芸能が「翁」と「童」で競演

 地域伝統芸能まつりでは毎年、勇壮な和太鼓演奏がオープニングを飾りますが、今年はピアノやサキソフォンなどともコラボレーションしている和太鼓奏者上田秀一郎の演奏で開幕。御神輿が勢揃いして祭りのオープニングを告げる「宮出し」さながら、141人に及ぶ出演者全員が舞台に登場すると、祭り気分が一気に盛り上がりました。
  今回は「神は翁や童の姿を借りてこの世に現れる」という日本古来からの信仰心がテーマで、翁や童にちなんだ演目がプログラムされました。1日目、そのトップバッターとなったのが童は童でも小猿が登場する鹿児島県指宿市の「猿の子踊」です。
  赤い頭巾、赤い衣裳、顔まで真っ赤に塗った親猿から小猿まで20匹以上が次々に登場。猿使いの命令ででんぐり返しや奇妙な行進を繰り返し、最後にご褒美の菓子をもらいます。保存会会長の徳留正美さんは、「猿は母なる山の神の使いと考えられていて、豊穣を祈願する踊りとして260年前から伝わっています」と言い、働かないものは食にありつけないという教訓も込められているとか。芸のできない幼児の猿をかばう親猿の姿に、忘れていた心が甦ってくる思いがしました。
  初めての試みとして注目されたのが、同じ演目をもつ地域の民俗芸能と古典芸能の競演です。1日目には、シテ、ワキ、狂言、囃子が分かれる以前の古い能楽の形を残しているという奈良豆比古神社に伝わる重要無形民俗文化財「翁舞」が登場。それを受けて、2日目には観世清和がシテを務める『翁』が披露されました。初めて神社の奉納以外で上演された門外不出の「翁舞」は、翁の三人舞や問答などを、不思議な掛け声と素朴な動きで演じる非常に珍しいものでした。
  保存会代表の松岡嘉平治さんは、「室町時代から伝わっている面が20面ありますが、普段は奈良国立博物館に収蔵されています。文書はなく、すべて口伝。千歳を演じる子役が必要なのですが、少子化で継ぐ者がいないのが悩みです」と言う側に、今回の千歳を演じた孫の洋佑くんが「ビデオを見て覚えた」と現代っ子ぶりを発揮していたのが頼もしくもありました。
  初日のハイライトが豊前市の岩戸神楽です。お米を乗せたお盆を両手に持ち、米を1粒も落とさずに舞う妙技「盆神楽」と、高さ10メートルにも及ぶ柱(斎鉾)に上った鬼2人がロープを伝って下りてくる命綱なしの曲芸「湯立神楽」を披露。どちらの神楽も男気のある格好いい演舞で、若い世代の後継者が魅了され、自ら進んで厳しい稽古に取り組んでいる様子が伝わってきました。
  2日目は、わらべ唄から始まります。幕が上がると、農家の囲炉裏端が現れ、それを囲むように子どもたちと語り部、司会の竹下景子さんが座り、子どもたちがわらべ唄を歌います。秋田方言のため、聞いただけでは歌詞の正確な意味がわからないものもありますが、子どもたちの楽しげな唄はどこか懐かしさを感じてしまいます。
  続く沖縄県南城市の天人は沖縄方言による演劇で、一人の肩の上に一人が立って3メートルにもなる天人が登場します。沖縄と秋田の方言は、両者とも同じ日本語でありながら全く異なる響きで、現代でも地域により多様な日本語が残っているのを目の当たりにできるのも地域伝統芸能まつりならではと感じました。
  また、2日目に注目を集めたのが古典芸能の『翁』です。奈良豆比古神社の翁舞と動きや構成などの要素では共通するものが多く、繋がりは見て取れますが、素朴でユニークな動きもあった奈良豆比古神社のものとは対照的に、指先やつま先といった体の隅々まで意識を行き渡らせ芸術的なまでに昇華した舞や、優美な囃子の音色は、古典芸能が翁という演目を積年にわたり洗練し続けた結果を見たという思いです。
  翁を舞う観世清和さんは、静かではあるものの研ぎ澄まされた所作によって翁の神聖性を感じさせ、続く三番叟を舞う野村万斎さんは面を着けずに激しく舞う「抒の段」、面を着けての「鈴の段」など、大きな動きの中にも美しさを感じさせるものでした。

 

●第8回地域伝統芸能まつり
[日程]2月23日、24日
[会場]NHKホール(東京都渋谷区)
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会、財団法人地域創造(地方自治法施行60周年記念事業)
[実行委員]梅原猛、鎌田東二、香山充弘、三枝成彰、下重暁子、鈴木健二、中沢新一、林省吾、原田豊彦、山折哲雄、山本容子、瀧野欣彌
[後援]総務省、文化庁、NHK

◎出演団体等
2月23日:猿の子踊(鹿児島県指宿市)、奈良豆比古神社の翁舞(奈良県奈良市)、豊前市の岩戸神楽(福岡県豊前市)、地唄『雪』(舞:大和松蒔、唄・三弦:富田清邦)、狂言『金津地蔵』(野村小三郎[和泉流]ほか)、角兵衛獅子(新潟市)、酒田まつり(山形県酒田市)

2月24日:秋田の「むかしこ」と「猿倉人形芝居」(秋田県羽後町)、「天人」と「津波古の棒術」(沖縄県南城市)、安来節と銭太鼓(島根県安来市)、ケンケト祭(滋賀県竜王町)、『翁』(観世清和[観世流]、野村萬斎[和泉流]ほか)、大蔵谷の獅子舞(兵庫県明石市)、盛岡さんさ踊り(岩手県盛岡市)

 

●平成20年度「地域伝統芸能等保存事業」助成内定事業一覧
[映像記録保存事業]
◎岩手県雫石町「雫石地方発祥の民俗芸能『雫石よしゃれ』」
◎岩手県一戸町「鳥越の竹細工」
◎山形県河北町「①谷地ひなまつり②谷地どんがまつり③田植踊り④沢畑風祭太鼓」
◎茨城県常陸太田市「町田火消行列」
◎茨城県常陸大宮市「①六字様②十二所神社の九頭祭③妙蓮寺のお会式④西金砂神社小祭礼の花纏奉納」
◎群馬県渋川市「八幡宮津久田人形芝居」
◎埼玉県秩父市「白久のテンゴウ祭り」
◎埼玉県行田市「馬見塚の獅子舞」
◎埼玉県上尾市「上平竹細工技術」
◎埼玉県美里町「広木場の道祖神焼き」
◎石川県加賀市「加賀市の伝統芸能・民俗芸能①お松囃子②御願神事③シャシャムシャ踊り④山中節⑤ごりよび唄⑥黒崎土ねり節⑦敷地天神蝶の舞」
◎石川県かほく市「かほく市の伝統行事①白尾のホラホイ行列②大崎・内日角の奴行列③高松のヤッサン踊り④内日角・指江・狩鹿野の虫送り⑤中沼の花火⑥木津の吹き出し花火」
◎富山県射水市「下村加茂神社の年中行事①鰤分け神事②やんさんま③御田植祭り④稚児舞」
◎愛知県豊田市「坪崎の火きり神事(天王まつり)」
◎奈良県大淀町「大淀町伝統歳時記」
◎奈良県曽爾村「曽爾の獅子舞」
◎和歌山県田辺市「大瀬の太鼓踊」
◎岡山県瀬戸内市「備前焼大釜の再現大窯深遠 時を越えた対話」
◎長崎県平戸市「荻田浮立」
◎大分県中津市「①桧原マツ②かます餅祭り③さいすくい祭り」
◎沖縄県沖縄市「①越来のウスデーク②泡瀬の京太郎(ちょんだらー)」
◎沖縄県八重瀬町「富盛の八月十五夜行事」
◎沖縄県南城市「久高島の伝統行事・神女たちの祈り」
◎沖縄県読谷村「波平『八月十五夜あしび』」

[都道府県フェスティバル事業]
◎千葉県「房総の郷土芸能2008」
◎富山県「第50回近畿・東海・北陸ブロック民俗芸能大会」
◎静岡県「ふじのくに伝統文化フェスティバル」
◎愛知県「ふるさと芸能祭」
◎鳥取県「第44回郷土の民俗芸能大会」
◎徳島県「四国4県共同芸術舞台公演~四国の人形~」
◎宮崎県「日本の原点 宮崎の郷土芸能伝承事業」

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