12月8日、『ちびっこカムのぼうけん』『くまの子ウーフ』などの作品で知られる児童文学作家・神沢利子さん（83歳）の作品世界を紹介する展覧会「トコトン！ 神沢利子展」が三鷹美術ギャラリーで開幕した。これは、市民が企画し、1年以上の時間をかけて三鷹市と協働で進めてきた「神沢利子展プロジェクト」の集大成。「読者の目線で、神沢さんの世界をとことん伝えたい」という手づくりの展覧会だ。会場では、開場ギリギリまで市民が準備に奔走するなど、この展覧会に注がれた参加スタッフの熱気が伝わってきた。
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2005（平成17）年7月、三鷹市では、「絵本館（仮称）」整備の計画に当たり、公募で選ばれた3人を含む市民と専門家から成る「三鷹市絵本館構想検討会議」を発足。子どもたちが絵本を通してさまざまな体験やコミュニケーションをもつことのできる地域文化をつくり、新たな交流と創造の場をつくることを目的とする「みたか・子どもと絵本プロジェクト」を立ち上げ、2010年まで5年間の取り組みを定める推進計画を策定。プロジェクトの一環として、三鷹市在住で、日本を代表する児童文学作家である神沢利子さんの世界を紹介する企画をスタートする。
07年3月には実行委員会によるキックオフ企画「どうして？神沢利子展～ウーフからの招待状～」を三鷹市芸術文化センターで開催。「段ボールを使って展示品やタペストリーをつくるなど、まさに『みんなでつくりあげる』内容でした。中学生60人がジュニアスタッフとして参加し、神沢さんと共に作品の朗読も行い、13日間で3500人を動員しました」（三鷹市生活環境部コミュニティ文化室・絵本館担当 宇山陽子さん）
同年7月からは市内コミュニティセンターや図書館など6カ所で巡回展を開催。小学生から高校生までのジュニアスタッフや、地域の活動団体が主となり、展示だけでなく絵本の読み聞かせや人形アニメーション映画の上映、朗読付きお茶会、神沢さんのお話し会などを開き、地域に根づいた活動を展開していった。「これによって、市内各地にプロジェクトの存在が告知されたことは良かったですね。子どもたちが参加してくれたことも、大きな力になりました」（宇山）
そして今回の「トコトン！」展に向けての準備が始まる。今度は絵本の原画約130点をはじめ、神沢さんの書斎を再現するコーナーなど、有料で公開する本格的なもの。神沢さんの本をじっくり読み込むところから始まり、どのように伝えるかを、ワークショップ形式で検討していった。展示する原画や引用することばの選定作業、実行委員同士の交流を兼ねたブックカフェや読書会の開催、神沢ワールドを表現した直径2メートルもの大型ジオラマの制作、カタログの制作……。展示アドバイザーとして関わった絵本研究家で元ちひろ美術館学芸部長の広松由希子さんは、「メンバーの『伝えたい』『かたちにしたい』という気持ちはすごかったですね。それをどれだけ実現させるか、アドバイザーというよりブルドーザーのようになって動きました。プロなら制約内で収めることも、なんとかできないか？と思う人たちの熱気に触れて、私も改めて原点に返ることができました。また、神沢さんの長女で、神沢利子事務所の山田ルイさんが実行委員のひとりとしても、積極的に関わってくださったことにも感謝しています」と振り返る。
実行委員長の富岡史棋さんは「毎日がハプニングの連続でした。それまでお互いを知らなかった人たちが集まって、ひとつの展覧会をつくり上げていくことの難しさももちろんありました。それでも最後までやり遂げることができたのは、神沢さんの作品とお人柄、その魅力と求心力によるものだったと思います」と語る。
結果的に、下は2歳から上は70歳代まで、200人もの人々が参加する一大プロジェクトになった。「今を生きる子どもたちと直に接する機会が少ない私にとって、今回は地域の子どもたちとふれあう機会がたくさんあり、とても嬉しく思っています。また、実行委員会の皆さんの、互いを認めあいながらひとつのものをつくり上げる姿に感銘を受けました」と神沢利子さん。絵本が世代を繋ぎ、家族を繋ぎ、地域を繋ぐ。そのひとつの結晶が、この展覧会にはある。
（ライター・土屋典子）
●神沢利子展プロジェクト「トコトン！神沢利子展～いのちの水があふれだす～」
［日程］2007年12月8日～1月13日
［会場］三鷹市美術ギャラリー
［主催］神沢利子展プロジェクト実行委員会／三鷹市
［共催］（財）三鷹市芸術文化振興財団
http://project-tk.net/