~美術館サイトの状況
講師 水嶋英治(常磐大学教授)
これまで美術館は作品を収集し、一連の作品を「展示」という活動を通して一般の人々に公開してきました。公開された作品は学術的にどのような意味をもつのか……など、美術館が発信したい情報は「図録」や展覧会「カタログ」という形で紹介されることが一般的でした。しかし、今日では、美術館は積極的に広報手段としてウェブサイトを活用し、美術作品だけでなく、美術館に関するさまざまな情報を配信しています。今回は美術館のサイトやデータベース(DB)の動向について紹介します。
美術館のHPの現状
◎概況
今日、公立・私立など美術館の設置主体に関わらず、日本の美術館の約82.3%がウェブサイトを開設し、情報公開しています(『デジタルアーカイブ白書2005』)。これは、わが国のインターネット普及率とほぼ同数で、公開されている情報はさまざまです。 全体的な傾向としては、公開情報の約6割が絵画・彫刻に関するもの、約4割が工芸品となっています。別の調査機関の調べによると、これらに続き、民芸品・生活品、考古学分野の出土資料、手書き資料、動植物、映像資料の順で公開されているようです。
作品の表示方法では、「静止画による公開」が96%とほとんどを占めで、「動画による公開」は6.3%にすぎません。紹介記事や説明文については、説明文が「ある」のは約7割、「なし」が3割となっています。
こうしたウェブ情報の活用の仕方としては、作品資料に関する調べもの以外に、展覧会に関する運営情報をチェックする人も多いようです。美術館側から見ると、インターネット環境が整備されてきたのに伴い、単なる広報手段から所蔵作品を鑑賞してもらうためのツールとして活用するようになってきており、今後も美術館側が提供する情報はますます進化していくことと思われます。
◎ポータルサイト
インターネットの利用者が増加するに伴い、美術館のポータルサイトも充実してきました。特定の美術館を知りたい場合は、Googleやgooのような検索サイトから美術館名を入力して検索することができますが、ただ漠然と作品や作家をイメージしてネットサーフィンを楽しむ場合は、美術館のポータルサイトを利用することがお勧めです。
世界の博物館・美術館には、国際博物館会議(ICOM)の「バーチャル・ミュージアム・ライブラリーページ」があります。このサイトでは、国別の美術館にリンクされているほかに、ミラーサイトも充実しています。国際的に著名な美術館のサイト、ギャラリー、子ども向けサイトなどリンクが貼られている博物館・美術館の総合サイトです。面白いところでは、Wikipedia Museumというページもあります。
日本の美術館ポータルサイトのお勧めは「artscape(アートスケープ)」の「全国ミュージアムデータベース」でしょう。北海道、東北、関東……というように、地域ごとに美術館が地理的分布によって分類されていますから、比較的見やすくなっています。
最近では、文化庁が進めている「文化遺産オンライン」も充実してきました。自分の知りたい歴史資料や文化財・美術品を探す場合は、「時代」「分野」「地域」から検索することができます。「分野」を選択すると、絵画、版画、彫刻、工芸、伝統芸能……に分類されています。「絵画」の中には、日本画、油彩画、水彩、素描、東洋画というようにさらに細かく分類していますので、自分の調べたい内容がわかりやすく画像で表示されます。
●「バーチャル・ミュージアム・ライブラリーページ」
http://www.museum.or.jp/vlmp-J/
●「全国ミュージアムデータベース」
http://www.dnp.co.jp/museum/icc-j.html
●「文化遺産オンライン」
http://bunka.nii.ac.jp/Index.do
収蔵品データベースの現状
インターネットの普及に伴って、ウェブ上で所蔵作品の一部を公開している美術館は多いのですが、さらに詳細な作品の「目録」の公開になると、まだそれほど普及していないのが現状です。「博物館白書」(2005)によれば、美術館は61.7%の館が、ほとんどすべての収蔵品について形はさまざまですが管理のための「資料台帳」をもっていますが、元々公開されることを前提としいたものではなく、ウェブ配信となると著作権問題などがクリアーにされていないなどの理由から、資料データベースを公開している美術館は多くありません。 その意味では、まだ美術館の所蔵作品データベースは、図書館のように充実していないのが現状です。図書館ネットーワークは、自分の探している本がどこの図書館に所蔵されているか……という所在情報までわかりますが、美術館の場合は、作品の目録記述が各館によって異なり、統一フォーマットがないなどの課題もあり、図書館並みになるにはもう少し時間がかかるかもしれません。
画像の公開については、検索機能の充実や拡大表示機能、360度どこからでも立体作品を見ることのできる多角化機能など、作品鑑賞にも十分耐えられる技術が開発され、画面上の表現方法も向上しています。
『デジタルアーカイブ白書2005』によると、ウェブサイト上で鑑賞できる美術館の作品数は「10点以下」が33%、「11点以上」が67%となっており、あとは公開点数の問題がクリアーされるのを待つだけの状況となっています。美術館によっては作品解説や教育プログラムを積極的にウェブで公開するところも出てきています。
課題
◎著作権問題
美術館のDBがまだそれほど進んでいない理由のひとつに著作権の問題があります。権利問題のある資料は作家の許諾を得た上で公開していくことが原則ですが、たとえ著作権の許諾が必要ない資料であっても、古ければ古い資料ほど、デジタル化の高度な技術が要求されるため、デジタル化そのものが進んでいないのが現状です。
著作権法では展示権を認めていますが(第25条)、絵画を購入した美術館が所有権を取得したとしても著作権はあくまでその作品の著作者に帰属しています。ウェブで公開する場合は、①その作品を写真撮影し(または既存の写真や図録からスキャンして)、②ウェブ上で画像データをサーバーにアップし、③その後、ウェブ公開するという作業が発生します。
①と②で複製したことになり、また③でウェブを見た人(アクセスした人)に作品(かつ/または写真)の著作物を自動公衆送信したことになるため、作品と写真の著作権者から複製権と公衆送信権についてそれぞれ許諾を得る必要が出てきます。このような手続きは煩雑で、時間がかかるため資料DBの公開が進んでいません。
また国によって著作権法は異なるため、美術館側ではさまざまな研究が進められています。例えば、2007年8月には「美術館における知的財産保護に関する国際比較調査」は国際博物館会議(ICOM)法務委員会とカナダ博物館協会、カナダ美術館館長会議の共同研究によって進められ、著作権に関する国際条約、各国における著作権法の相違点、また国内法における美術館の著作権問題等について報告書をまとめています。この報告書を受けて、今後、美術館界では著作権遵守、展示権、上映権、複製権など国際的なガイドラインを作成する計画になっています。
一般的には、ウェブ上の画像や収蔵品データベースを「使用」することは可能ですが、「利用」する場合は「許諾」が必要です。「使用」は著作物や画像を「見る・聞く」のような単なる著作物の享受に相当しますが、複製や公衆送信等などの「利用」は著作権の支分権(*)に基づく行為であるため著作権処理をしなければなりません。皆さんが美術館のサイトを楽しみながら「見る」場合は、何ら問題はありませんが、ひとたび「利用」することになれば著作権者からの許諾が必要になりますので注意してください。
これまではデジタルデータをつくることに力が注がれていましたが、今後はこれらのデータをどのように法的に保護し、活用していくか検討する時代になりました。
情報の海で、砂浜の中からお目当ての砂の一粒を探し出すようなことがなくなった分、美術作品の普及をさらに進めていくことが我々に求められているのではないでしょうか。
*支分権
著作者の有する著作権はいろいろな権利の集まったものであり、そのひとつひとつを支分権という。
●美術便利サイト
◎アートスケープ
http://www.dnp.co.jp/artscape/
凸版印刷株式会社が運営する美術総合サイト。展覧会情報、アートレポート、アートリンク集、現代美術用語集など充実した内容。
◎東京アートビート
http://www.tokyoartbeat.com/
NPO法人GADAGOが運営するバイリンガル・サイト。関東地区約500会場でのアート・イベント情報を掲載。
◎アートジェーン(artgene)
http://www.artgene.net/
NTTコミュニケーションズが運営するアートとデザインのサイト。Art&Designニュース、展覧会情報、オリジナルコラム、現代美術用語辞典など充実した内容。
◎国指定文化財等データベース
http://www.bunka.go.jp/bsys/
国が指定・選定・登録した文化財(国宝、重要文化財、重要無形文化財など)の所有者などを確認することができる(ビジュアルなし)。
◎所蔵作品総合目録検索システム
http://search.artmuseums.go.jp/
独立行政法人国立美術館が運営する4つの美術館(東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館)の所蔵作品を調べることができる(ビジュアルなし)。