一般社団法人 地域創造

平成19年度「市町村立美術館活性化事業」報告

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左上:会場風景(田川市美術館)
右上:お茶会の様子(笠岡市立竹喬美術館)
左下:担当学芸員によるギャラリートークの様子(瀬戸市美術館)
右下:「親子で上野焼に入門!」の様子(田川市美術館)

 地域創造では美術の分野における取り組みとして、平成11年度より「市町村立美術館活性化事業」を実施しています。
 全国に約140館ある市町村立美術館は、身近な美術館として地域住民の期待が寄せられる一方、予算や施設規模の制約から、所蔵品の充実や大規模な展覧会の開催が難しいといった悩みを抱えています。また、都道府県立美術館には優れた美術作品を所蔵している館も少なくありませんが、遠隔地に住む方々にとっては、そのような作品を鑑賞する機会は限られています。こうした状況を踏まえ、都道府県立美術館の協力を得て市町村立美術館を活性化することを目的として、この事業はスタートしました。都道府県立美術館の所蔵品による展覧会を各地の市町村立美術館へ巡回して地域の方々の鑑賞機会を拡充するとともに、巡回展実施に向けた一連のプロセスを通じて市町村立美術館職員の企画制作能力の向上を図るものです。
  公立美術館の活性化を考えた場合、それぞれの美術館単独では実施できる事業に限界があります。この事業の最大の特徴は、公立美術館を活性化するという課題に、都道府県、市町村という枠を越えて連携して取り組むことにあります。この事業を通じて各地の美術館のネットワークが形成され、文化による新しい地域づくりが、全国の市町村立美術館を核として広がっていくことを願っています。

●多方面に活躍した魯山人の作品を紹介

 今年度の市町村立美術館活性化事業は、世田谷美術館の協力を得て、同館が所蔵する北大路魯山人の作品(塩田コレクション)の巡回展を実施しています。
  最近ではお茶のCMでもお馴染みの、美食家として有名な魯山人ですが、そもそも世に出るきっかけとなったのは、独学で腕を磨いた書家としての仕事でした。若くして高い評価を得た魯山人は各地で依頼を受け、書や篆刻を数多く手がけています。
  そうした中、知遇を得た中村竹四郎とともに古美術店「大雅堂藝術店」を東京・京橋に開業し、大正10(1921)年に同店の古陶磁で料理を供する「美食倶楽部」を発足させます。大正14(25)年には場所を東京・赤坂の日枝神社境内に移して会員制高級料亭「星岡茶寮」を開設し、魯山人は顧問兼料理長として采配を振ります。吟味された旬の食材を最も美味しく食べてもらうため、調理法や料理の供し方にこだわり、室礼や給仕の作法にまで魯山人の美意識が徹底された茶寮は、大変な好評を博しました。
  そして、この茶寮で使用する食器を揃えるため、魯山人は本格的に作陶を開始します。「食器は料理のきもの」という思想に基づき、自ら器を制作した魯山人は、茶寮を離れて以後も、亡くなるまで、陶芸家として旧来のしきたりにとらわれることなく、古今の多彩な技法を駆使して、豪放かつ多彩な作品を生み出しました。
  世田谷美術館の塩田コレクションは、魯山人と親交を結び、そのよきパトロンとして長年制作を支えた塩田岩治・サキご夫妻が、総数157点に及ぶ作品を同館に寄贈したもので、公立美術館としては最大の魯山人のコレクションです。いずれの作品も、ご夫妻が日常の生活の中で愛用していたものばかりで、そこからは「美的生活」の一端が垣間見えます。
  今回の巡回展では、同コレクションから、書画、篆刻、陶芸、漆芸など、多岐にわたるジャンルの作品を出品し、多方面に活躍した魯山人の芸術世界を紹介しています。

●充実のカタログ、多彩な関連イベント

  各会場で販売されているカタログは、今回のために新たに制作されたもので、用語解説や参考文献、魯山人の年譜などを開催各館の担当学芸員が分担し、共同で制作しました。全出品作品の図版のほか、アドバイザーを務めてくださった世田谷美術館美術担当課長の清水真砂さんによる、魯山人の経歴を詳細に辿るエッセーを掲載し、さらに、美術評論家の今井淳さんが「食」にまつわる逸話を通じて、魯山人の人間的魅力に迫るエッセーを寄稿しています。
  また、各会場では来館者に一層展覧会を楽しんでもらい、魯山人についての理解を深め、親しみをもってもらうため、さまざまな関連イベントを実施しています。第1会場となった瀬戸市美術館では魯山人の菓子器で魯山人好みの菓子を供する記念茶会を開催したほか、やきものの街に相応しく、「食と器」をテーマに、市内各所の文化施設と連携してさまざまな事業を展開しました。続く第2会場となった笠岡市立竹喬美術館は、日本画家小野竹喬を顕彰する美術館に相応しく、魯山人が竹喬の印章を制作している縁から「大人のための篆刻教室」を開催しました。そして第3会場となった田川市美術館では、「親子で上野焼に入門!」と題し、展覧会鑑賞後に地場産業である上野焼の窯元に移動して、親子で作陶体験をするイベントを開催しました。
  このほかにも、全会場で専門家による講演会や担当学芸員によるギャラリートークを実施するなど、各地で多彩な関連イベントが繰り広げられています。
  平成19年度市町村立美術館活性化事業 第8回共同巡回展「北大路魯山人 世田谷美術館所蔵 塩田コレクション」は、この後、最終会場である川越市立美術館・川越市立博物館へと巡回し、11月3日から12月16日まで開催します。お近くへお越しの方は、ぜひお立ち寄りください。

 

上薗四郎さん(笠岡市立竹喬美術館副館長)コメント

 北大路魯山人は、日本画家の印章を数多く篆刻しているが、小野竹喬についても13種類(顆)の印を提供している。かねてより当館は竹喬にゆかりのある魯山人の特別展を企画していたが、このたび実現した。充実した塩田コレクションが並ぶ会場には、備前焼など陶芸が盛んな地域の状況を反映して、多くの愛好者が詰めかけた。また、「星岡茶寮」で料理主任を務めていた松浦沖太氏が笠岡市の出身であることが認識され、食材豊かな瀬戸内の小都市では「魯山人好みの料理」の再現が話題にのぼった。そして会期中に開催されたお茶会では魯山人作の茶器も登場して、会期の最後まで話題に事欠かなかった。

 

 市町村立美術館活性化事業では、平成21年度に実施予定の第10回共同巡回展「ガラス工芸の精華~ガレから現代まで~展(仮称)」の開催館を募集中です。詳しくは(財団からのお知らせ)をご覧ください。

 

●平成19年度市町村立美術館活性化事業 第8回共同巡回展

「北大路魯山人 世田谷美術館所蔵 塩田コレクション」
◎会場・会期
瀬戸市美術館
6月2日~7月8日

笠岡市立竹喬美術館
7月21日~8月26日

田川市美術館
9月8日~10月21日

川越市立美術館・川越市立博物館
11月3日~12月16日

 

●公立美術館活性化事業に関する問い合わせ

総務部 泰井・大竹・川口
Tel. 03-5573-4183

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