全国のフィルム・コミッションが東京に集い、映画やテレビのプロデューサーや監督などの映像制作関係者にロケ地としての魅力をアピールする「全国ロケ地フェア2007」が8月29日、30日に東京国立近代美術館フィルムセンターで開催された。東京に居ながらにして撮影場所探しや打ち合わせができるとあって、連日100人を超す関係者で賑わっていた。
フィルム・コミッション(FC)とは、映画、テレビドラマなどの撮影を各地に誘致し、実際の撮影が円滑に進むよう協力していく非営利の公的機関のこと。地域の経済・観光振興、文化振興に効果をもたらすとして、アメリカで1970年代から80年代にかけて発達し、現在では40数カ国で300を超えるFCが活動している。日本では2000年に初のFCとして大阪ロケーション・サービス協議会が発足。2001年には、FCの活動を支援するための全国フィルム・コミッション連絡協議会が設立され、9月現在で計98のFCが加盟している。今回のフェアは、この連絡協議会が主催したものだ。
前澤哲爾・専務理事は、「制作会社に挨拶回りをしても留守番がいるくらいでロケ誘致には繋がりません。それで、撮影プランがあって、具体的にロケ地を探しているプロデューサーや監督と出会える場としてフェアを企画しました。今年で3回目ですが、昨年のフェアには若松孝二監督も来て、片っ端から各地のフィルム・コミッションを面接していましたよ」と言う。
日本のFCのほとんどは、市役所の観光課や観光コンベンション協会の下に設置されているが、設立の背景や具体的な活動内容は各FCで異なっている。連絡協議会設立当初からのメンバーで、年間100本にのぼる撮影支援をしている長野県上田市の信州上田フィルムコミッションの小林純行マネージャーは、「遡ると、1923年公開の映画『乃木大将幼年時代』のロケを上田城跡公園で行ったという記録があります。また、黒澤明、今村昌平、北野武といった国際的な映画賞を受賞している監督がみんな上田でロケを行っている。それで98年に『信州上田ロケ地ガイド』というパンフレットを制作し、そうした歴史の上に上田のFCが設立されました」と言う。ここは、諏訪・木曽福島・松本・長野・上田・嬬恋の各FCが参加する「信州フィルムコミッションネットワーク」のリーダー格として地域間を越えた撮影支援にも着手しており、全国FCの中でも優等生の存在といっていい。
行政が設立に関与していない、例外的なケースともいえるのが、NPO法人とっとりフィルムコミッションである。このFCは映画の自主上映会を行ってきたグループが3年前に立ち上げたもので、「行政に働きかけましたが結論が出ず、結局自分たちでスタートしました」と清水増夫理事長。鳥取県は賛助会員になるなど、このNPOを財政的に支援している。
前澤専務理事は、「連絡協議会が設立される時にFCのあり方についてさまざまな議論をしました。サービスに対して対価を取るロケーション・コーディネーターというビジネスもありますが、FCはあくまで行政サービスとして行うべきこと。道路使用の許認可申請業務に始まり、さまざまな業務が行政の各部署と関わることが多いということもありますが、それだけではなく、行政が撮影を支援する、つまり“公が撮影を認めている”ということが重要です。それがあって初めて、これまで地域の人々にとって迷惑事のように思われてきたロケ撮影がプラスの意味をもってくるのです」と力説する。
連絡協議会も設立8年目を迎え、課題も浮き彫りになってきた。各FCの力の差が目立つ、海外からの日本ロケの要請に対する統一相談窓口がない、これまで任意団体でやってきた連絡協議会の役割・組織のあり方を再考する時期にきている、専門知識やネットワークが必要なFCの専門職員雇用が進んでいない、「全国ロケーションデータベース(JL-DB)」の運用が始まり、これから充実していく必要がある……などなど。
昨年、加盟FCに行ったアンケートによると、全国公開の長編邦画の7割がFCの撮影支援を受けていた。課題があるとはいえ、フィルム・コミッションがもはや撮影に欠かせない存在になってきていることは間違いない。そして、そこには、プロの現場がわかるアドバイザーとしてFCを支えてきた連絡協議会の存在があることを忘れてはならない。
(森杏奈)
●全国ロケ地フェア2007
[会期]8月29日、30日
[会場]東京国立近代美術館フィルムセンター6階
[主催]全国フィルム・コミッション連絡協議会
http://www.film-com.jp/
●全国ロケーションデータベース
http://www.jldb.bunka.go.jp/
●信州上田フィルムコミッション
http://www.ueda-cb.gr.jp/fc/
●とっとりフィルムコミッション
http://www.tottori-fc.jp/