一般社団法人 地域創造

平成19年度「公共ホール現代ダンス活性化事業」「公共ホール演劇アウトリーチモデル事業」「公共ホール音楽活性化事業」報告

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左上:現代ダンス活性化事業・森下真樹さんのワークショップ(南相馬市民文化会館ゆめはっと)
左下・右:平田オリザさんによる演劇アウトリーチモデル事業(留萌市)。
高齢者大学でのコミュニケーションゲーム(左下)/港南中学校では会話劇づくり(右上)や、講堂で作品発表(右下)などが行われた 撮影:谷古宇正彦

●南相馬を皮切りに、平成19年度「公共ホール現代ダンス活性化事業」スタート

 コンテンポラリーダンスの登録アーティスト(登録期間2年)を地域の公共ホールに1週間程度派遣し、ワークショップと公演を行う「公共ホール現代ダンス活性化事業(以下、ダン活)」。3年目となる今年度は、登録アーティストも新しくなり、全国12地域で事業が実施されます。その皮切りとなったのが、7月31日から8月5日まで行われた南相馬市民文化会館(ゆめはっと)主催による森下真樹さんとの取り組みです。 ゆめはっとは、2004年に旧原町市がオープンした本格的な音楽ホールで、専属ジュニア吹奏楽団の育成などに力を入れています。「コンテンポラリーダンスという新しい分野で、これまでホールに関心の低かった10歳代~20歳代の若者をターゲットに新たな観客を開拓したかった」という事業担当の佐藤絵美さん。
  森下さんは、「森下チキチキ真樹バンバン」「しっちゃかめっちゃか暴れん坊」など、リズミカルに声を出しながら長い手足を不規則に動かすユーモラスな自己紹介パフォーマンス『デビュタント』で横浜市芸術文化振興財団賞を受賞したアーティストです。南相馬では、ホールスタッフがコンテンポラリーダンスへの理解を深めるためのワークショップ、中学生以上を対象とした一般ワークショップ、心身障害者の作業所や老人ホームへのアウトリーチを行いました。
  また、最終日の公演には一般ワークショップの参加者も出演。「野馬追通り銘醸館」(明治・大正・昭和初期に建設された旧松本銘酒の建物群を修復保存)の蔵を舞台に、森下さんの作品とワークショップ参加者のパフォーマンスを約80人の観客が移動しながら観るという仕掛けで、最後はみんなでゆめはっとのホールに移り、『デビュタント』を堪能しました。ダンス以外の表現活動をしている人も多かった参加者からは、「音もなく自由に踊ることは初めてだったが、ダンスへの幅が広がった」「ひとつひとつ自分自身を丁寧に表現していきたいと思った」「こちら側の一方的な考えだけではなく、相手のことを考えないと駄目だということがよくわかった」といった声が上がっていました。
  今後も各地で事業が行われますので(データ欄参照)、コンテンポラリーダンスに興味をお持ちのホールの方は、ぜひご覧ください。

 

●平成19年度公共ホール現代ダンス活性化事業開催地(会場/日程/派遣アーティスト)

◎福島県南相馬市(南相馬市民文化会館ゆめはっと/7月31日~8月5日/森下真樹)
◎奈良県奈良市(なら100年会館/9月9日~15日/セレノグラフィカ(隅地茉歩+阿比留修一))
◎三重県伊賀市(あやま文化センター/10月1日~6日/岩淵多喜子)
◎岐阜県山県市(文化の里花咲きホール/10月15日~20日/セレノグラフィカ)
◎埼玉県富士見市(富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ/ワークショップ:11月13日~15日、公演:2008年1月17日~19日/森下真樹)
◎香川県丸亀市(丸亀市民会館/12月3日~8日/黒沢美香)
◎島根県浜田市(石央文化ホール/12月11日~15日/山田うん)
◎香川県高松市(サンポートホール高松/12月11日~16日/伊藤多恵)
◎石川県珠洲市(ラポルトすず/2008年1月15日~20日/東野祥子)
◎大阪府富田林市(すばるホール/1月20日~25日/セレノグラフィカ)
◎大阪府河内長野市(ラブリーホール/2月12日~17日/岩下徹)
◎京都府城陽市(文化パルク城陽/2月26日~3月2日/山田うん)

 

●公共ホール現代ダンス活性化事業に関する問い合わせ

芸術環境部
栗林・下元・石井・倉田・坂間
Tel. 03-5573-4184

 

●「演劇アウトリーチモデル事業」を実施

地域創造では、平成11年度から公共ホールが共同で演劇作品をプロデュースする「公共ホール演劇製作ネットワーク事業」を実施してきましたが、平成20年度からより地域の課題に応えるべく、演劇のスキルを用いて子どもたちの表現力やコミュニケーション能力を高めるワークショップを柱とした「公共ホール演劇ネットワーク事業」として内容を大幅に改定することになりました。
この事業は、演劇のプロダクションが1週間程度地域に滞在し、小中学校へのアウトリーチや学校以外でのワークショップと本公演を行うものです。ホールから企画を公募し、参加館を募集。地域創造が一部財政的な支援を行い、参加館と共同で事業を実施します。
今年度は事業の内容を事前に周知し、実施に当たっての問題点を整理する目的でモデル事業を実施しました。今回は、中学の国語の教科書で「会話劇をつくろう」というテキストが紹介されるなど、演劇によるコミュニケーション教育の第一人者でもある平田オリザさんと青年団の皆さんが、北海道の利尻町(9月4日~9日)と留萌市(9月10日~16日)に滞在し、アウトリーチと本公演『ソウル市民1919』を実施しました。
交流先の選定や現地コーディネートは、本公演を行うホールを運営している教育委員会が窓口として担当。利尻では小中学校にアウトリーチしましたが、劇団員が船で島を離れる時には教育長以下ホール職員が総出で紙テープの見送りをするなど、温かい交流が実現し、早くも滞在型事業の魅力が発揮されていました。
留萌では、できる限りいろいろなところとアウトリーチしたいという平田さんの意向で、高校演劇部、障害者劇団、高齢者大学とも交流し、1週間の滞在で考えうる最大限のプログラムを展開。まず、小中学校では、午前中4時限を用い、コミュニケーションゲーム(1コマ)と平田さんが全国で実施している定番の“会話劇創作ワークシート”を用いた授業(3コマ)を行いました。
このワークシートは、①教室での児童・生徒たちの会話、②先生と転校生が教室に来て自己紹介、③先生が退場し、残された転校生と児童・生徒の会話 という3シーンから構成されているものです。1コマ目で、5、6人のグループに分かれ、虫食い台本(例えば、転校生の出身地が空欄になっている、など)を書き直して会話づくりの練習を行いました。2コマ目ではシーンのト書きだけ書かれた空欄のワークシートを用い、自由な会話劇づくりにチャレンジ。3コマ目に講堂で上演しましたが、コリン星から来た転校生のピカリンをみんなで口説くショートコント風の作品あり、みんなに無視されてキレる転校生やモンゴルから来た転校生が登場する風刺的な作品ありで、とても1時間足らずでつくったとは思えない出来映えでした。
このほか、100人以上が参加した高齢者大学でも、高校演劇部でも、平田さんは基本のコミュニケーション・ゲームを通してコミュニケーションの重要性と演劇の「観る楽しみ」「つくる楽しみ」「演じる楽しみ」についてわかりやすく解説されていました。
今回の出会いのひとつが、障害者による「ふれあいかもめ劇団」との交流です。2つの作業所の有志によって6年前から活動をスタート。留萌市の職員でかつて社会人劇団を主宰していた益田克己さんが脚本・演出を担当し、半年ほど週1、2回の稽古をしながら年1回の発表公演を続けています。今回は、留萌開基130周年記念事業として公演するにしん一族と漁師たちの物語を青年団のみなさんに披露しましたが、群舞を交えたその溌剌として喜びに満ちたパフォーマンスに拍手喝采でした。
益田さんは「プロの劇団の人が留萌に1週間も滞在するということ自体が凄い。学校には音楽に比べて演劇の指導者がいないので、こうしたアウトリーチで演劇の裾野が広がることを願っている」と話していました。
なお、平成21年度の事業を実施するにあたり、企画を公募いたしますので(詳細は次号レターに掲載)、今回のモデル事業を参考にして、ぜひご応募いただければと思います。

 

●留萌市教育委員会 福士廣志課長コメント

留萌市が今年開基130周年を迎えることもあり、このモデル事業をさせていただくことになった。5月に事前ワークショップに来ていただいてやっとイメージがわかり、それから校長会などで説明を行った。親子劇場、市民劇場といった市民の鑑賞団体の活動もなくなり、留萌では本物の演劇を観る機会はほとんどなくなっている。ましてやプロの演出家とふれ合う機会は皆無。平田先生の授業を拝見して、あんなに子どもたちが生き生きするのかと驚いた。この経験が今後の国語の授業などで生かせていければと思う。

 

●10年目を迎えた「公共ホール音楽活性化事業」がスタート!

事業開始から10年目を迎えた公共ホール音楽活性化事業(以下、おんかつ事業)。今年度は、9月6日からの宮城県大和町を皮切りに本格的なシーズンに突入。来年3月15日までに全国24地域で実施されます。今年は、第5期となる平成18・19年度登録アーティストも2年目となり、それぞれ1年目の経験を活かしてより一層意欲的なアクティビティやコンサートが企画されています。今号では、今年のおんかつ事業の開幕を飾った宮城県大和町での公演の様子をご紹介します。

 

◎木の温もりのあるコンサート

宮城県の中央部、仙台市北部に位置し、七つの小さな山々が連なる“七つ森”と豊かな自然に囲まれた大和町。ここでは子どもたちにとって最も身近な楽器「リコーダー」によるおんかつ事業が開催されました。
派遣アーティストはリコーダーの江崎浩司さんとピアノ・チェンバロの長久真実子さん。小学校でのアウトリーチコンサートではアーティストの演奏に加え、子どもたちも「ソ」の音だけで演奏に参加できるプログラムを組み込むなど江崎さんのアイデアが満載。まほろばホールでのコンサートでは、宮城県在住のチェンバロ作家・木村雅雄さんが地元の木材で製作した楽器を使用し、バロック音楽からジャズまで幅広いプログラムを披露。観客は、リコーダーとチェンバロの木の温もりのある音色に熱心に耳を傾けていました。

 

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●平成19年度「公共ホール音楽活性化事業」開催地(実施会場/日程/派遣アーティスト)

◎宮城県大和町(大和町ふれあい文化創造センター/9月6日~8日/江崎浩司)
◎岡山県矢掛町(やかげ文化センター/9月14日~16日/大熊理津子)
◎沖縄県北谷町(ちゃたんニライセンター/9月20日~22日/Quartet SPIRITUS)
◎岐阜県白川村(白川村総合文化交流施設/10月1日~3日/Quartet SPIRITUS)
◎群馬県玉村町(玉村町文化センター/10月12日~14日/大熊理津子)
◎山口県阿武町(阿武町町民センター/10月25日~27日/小野明子)
◎福岡県宗像市(宗像ユリックス/10月29日~31日/小野明子・片岡リサ)
◎高知県四万十市(西土佐ふれあいホール/11月13日~15日/大熊理津子)
◎宮城県本吉町(はまなすホール/11月29日~12月1日/荒川洋)
◎福島県いわき市(いわき市文化センター/12月6日~9日/小野明子)
◎長野県茅野市(茅野市民館/12月6日~8日/荒川洋)
◎佐賀県多久市(多久市中央公民館/12月7日~9日/江崎浩司)
◎佐賀県唐津市(唐津市相知交流文化センター/12月10日~15日/小野明子)
◎東京都江東区(ティアラこうとう/12月11日~15日/江崎浩司)
◎鹿児島県徳之島町(徳之島町文化会館/12月14日~16日/Quartet SPIRITUS)
◎静岡県沼津市(沼津市民文化センター/2008年1月16日~18日/荒川洋・益田正洋)
◎千葉県四街道市(四街道市文化センター/1月17日~19日/Quartet SPIRITUS)
◎愛知県津島市(津島市文化会館/1月24日~26日/渡邊史)
◎三重県伊賀市(伊賀市文化会館さまざまホール/2月9日~11日/大熊理津子)
◎山梨県笛吹市(笛吹市スコレーセンター/2月14日~16日/小野明子)
◎大分県日田市(日田市民文化会館パトリア日田/2月22日~24日/Quartet SPIRITUS)
◎宮崎県新富町(新富町文化会館/2月28日~3月1日/渡邊史)
◎埼玉県入間市(入間市市民会館/3月6日~8日/荒川洋)
◎鹿児島県鹿屋市(鹿屋市市民交流センター/3月13日~15日/早稲田桜子)

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