一般社団法人 地域創造

アートアプローチセミナー~市町村長等向けセミナー/公共ホール音楽活性化支援事業登録アーティストプレゼンテーション&セミナー報告

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左上下・アートアプローチセミナー~市町村長等向け(上は平田オリザ氏、下は大森智子さんと山崎祐介さんのミニコンサート)
右上下・おんかつ活性化事業プレゼンテーション&セミナー(上が中川賢一さんらによる企画プレゼンテーション)

●全国の市町村長等100名以上が参加

 地域創造では市町村アカデミーとの共催により、毎年、全国の市町村長等を対象に文化芸術による地域づくりへの理解を深めていただくための「アートアプローチセミナー」を実施しています。今年度は、財団理事でもある平田オリザ氏による講義とおんかつ登録アーティストOBによるミニコンサートを企画、全国から100人以上の市町村長等にご参加いただくなど、大変盛況な会となりました。
 ご存じのように、平田氏は「現代口語演劇」というジャンルを築いた演劇界のオピニオンリーダーであり、その手法を活かした学校でのコミュニケーション教育、公立ホールの元芸術監督、民間ホールの経営、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授など、多方面で活躍されています。これからの社会が求める人材のあり方とコミュニケーション能力の重要性、それを獲得するための演劇の知恵や技術の有効性などについての講義は、領域をクロスオーバーした知見に満ちたもので、「なぜ、今、文化行政が重要なのか」を自問されている市町村長等の皆様から「大変面白かった」と大好評をいただきました。
  また、地域にクラシックの演奏家を派遣しているおんかつ事業への理解を深めていただき、生の音楽の魅力を体験していただこうと企画しているミニコンサートでは、おんかつ登録アーティストOBの大森智子さん(ソプラノ)と山崎祐介さん(ハープ)が登場。講堂の仮設ステージで透明な歌声とハープの音色が紡ぎ出す癒しの時間を堪能しました。

 

●アートアプローチセミナー~市町村長等向けセミナー

[日程]7月30日
[会場]市町村アカデミー(千葉市)

 

●アーティスト51組がプレゼンテーション

 公共ホール音楽活性化事業の参加館OBおよび登録アーティストOBが事業を継続できるよう財政的にサポートする仕組みとして平成17年度に創設された「公共ホール音楽活性化支援事業」。その支援をさらに充実したものとするため、一昨年からおんかつ支援登録アーティストのプレゼンテーションを開催してきましたが、今年度はそのプログラムをさらに充実。指定管理者制度の導入により見直しが行われた財団の助成要綱の説明会をはじめ、報告書が出たばかりの「評価」に関するセミナー、アウトリーチの制作と最新動向について情報を共有するためのセミナー、室内楽やオペラの企画プレゼンが約200人の方々の参加により行われ、まるでクラシック音楽の見本市とも呼べるプログラムとなりました。
  今年度のプレゼンテーションの特徴は、ベテランのおんかつ支援登録アーティストだけでなく、地域創造が都道府県と共催して行っているアウトリーチフォーラム事業でアウトリーチ・プログラムについて学んだ若手アーティストにプレゼンテーションの機会を提供したこと。また、おんかつ事業によって出会ったアーティストと公共ホールによる共同企画を基にした“おんかつアンサンブル”によるユニークなプレゼンテーションが行われたことです。
  登録アーティストでは、ソプラノ歌手の薗田真木子さんが、おんかつでは普段のオペラ活動ではできないことをやりたいと、美空ひばりの『津軽のふるさと』などを熱唱。「日本の細やかな四季など、自分たちの使っている言葉だからこそ表現できるものもある。目の前で私の声を聞いてもらい、生の声のアメージングさを感じて欲しい」と話されていました。
  おんかつアンサンブルとしては、和田山ジュピターホールの事業をきっかけに出会った高橋多佳子さん(ピアノ)、礒絵里子さん(ヴァイオリン)、長谷部一郎さん(チェロ)が、トリオバージョンにアレンジした『ラプソディ・イン・ブルー』を本邦初演。また、小出郷文化会館と中川賢一さん(ピアノ)の共同企画をベースにした企画プレゼンでは、中川さんの指揮により、BLACK BOTTOM BRASS BAND、Buzz Five、Quartet SPIRITUSの総勢13名の管楽器が即興で大セッション。おんかつ事業も創設から10年を経て、こうしたアーティスト同士の交流が生まれるまでになったことを思うと、関係者一同感慨深いものがありました。

 

●おんかつプレゼン&セミナー参加者コメント(NPO法人スサノオの風・小西祐治さん)

 平成16年度におんかつ、17・18年度におんかつ支援事業を行った。今年度は単独事業として採択していただき白石光隆さんと田中靖人さんによるアウトリーチとコンサートを行う予定になっている。こうした事業を行うには、地域創造の登録アーティストのように事業の趣旨をよく理解していただいているアーティストの存在が不可欠だと改めて思った。評価のセミナーにも参加したが、行政の人にも関わってもらいながら共同で評価指針をつくるべきだというのがよくわかった。

 

●公共ホール音楽活性化支援事業登録アーティスト プレゼンテーション&セミナー

[日程]8月2日、3日
[会場]東京芸術劇場 リハーサル室、会議室

 

●平田オリザ氏講義要旨

 大阪大学コミュニケーションデザイン・センターは、どの領域においてもコミュニケーション能力(表現能力)が重要になってきているという認識のもとに創設された新しい学部だ。コミュニケーション能力の重要性については行政においてもひしひしと感じておられると思うが、国際共同事業に携わるような最先端の科学者も同様で、例えば国際会議でユーモアを交えて発表できるようなプレゼンテーション能力など、海外でも通用するコミュニケーション能力を身に付けることが求められている。
  私は、離島から海外までいろいろなところで、「コミュニケーション」や「言葉」に対して演劇を通じて興味をもってもらうためのモデル授業を行ってきた。例えば、電車に偶然乗り合わせた人に対して「旅行ですか?」などと自分から話しかけられるかどうかを色々なところで聞いてみたが、これだけでもそれぞれに違いがある。皆さんはどうですか?(「どんな雰囲気かによる」「どんな相手かによる」……との声)
  オーストラリアで同じワークショップをやったときには、「人種や民族による」という答えが返ってきて驚いた。アメリカは、自分が相手にとって安全な人間であることを積極的に示さなければいけない社会なので、ほとんどの人が話しかける。パブ文化があり、知らない人に話しかけることに慣れているアイルランドでは全員が話しかけるほうに手を挙げた。といったように、話しかけるか、話しかけないかだけでも、国によって違いがあり、個性がある。
  そういう「個性」や、どういうつもりで言葉を使っているかという「コンテクスト」を共有できないと、お互いの「イメージ」がバラバラになり、コミュニケーションが成り立たない。共同体では長い時間をかけてこうした個性やイメージの共有化が行われているが、その共同体以外の人が出会うと、ズレが生じてコミュニケーションが難しくなる。「言葉」を突き詰めていく作業を行う「演劇」では、俳優と演出家の間などでこうしたズレが度々問題となる。そのため演劇には短期間の稽古を通じて個性やイメージを摺り合わせるための知恵や技術が蓄積されている。
  日本は成熟型の社会になり、価値観が多様化し、ライフスタイルもバラバラになってきている。地域も自分たちで考え、地域で責任を取る社会となり、日本人に要求されているコミュニケーションの質が大きく変わってきた。かつては集団との「協調性」が必要とされたが、今は異文化を理解し、バラバラの価値観の人が一緒にやっていくための「社交性」が求められている。これを身に付ける事が必要だとすると、演劇はそのための重要なツールになるのではないか。
  さらに付け加えておくと、こうした価値観の多様化した社会では、強固な地域共同体は望まれていない。それよりも経済行為や普段の社会生活では出会わない人々と出会えるような現代社会に見合った広場をつくっていく必要がある。さまざまなメニューを通じて誰かが誰かを知っているようなゆるやかなネットワークをつくっていかなければならない。こうした社会参加を促す機能として芸術文化は大きな役割を果たせるのではないかと考えている。
  消費者を中心にした第三次産業へと産業構造が大きく変換した日本では、付加価値を付ける能力が高く評価されるようになっている。それは取りも直さずどれだけセンスを磨けるか、どれだけ外国人とコミュニケーションできるか、といったことであり、「文化力」で生涯賃金が決まる時代になったということだ。  

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