大学が多数立地する京都では、地域における大学の役割がクローズアップされており、両者が連携したさまざまな事業が行われている。この夏も、京都造形芸術大学がアサヒビール大山崎山荘美術館、大山崎町と連携して行う「アートフェスタ in 大山崎2007」(*1)や、京都市立芸術大学がキャンパスの立地する京都市西京区大枝地区で行う「大枝アートプロジェクト〈OAP〉」(*2)など、興味深い事業が企画されている。
7月7日、アートフェスタ初日の大山崎に出掛けると、美術館では教育普及プログラムで有名なアメリア・アレナス氏を招いたギャラリートークが行われていた。プロジェクトのキーパーソンの一人、京都造形芸術大学リエゾン室/プロジェクトセンターの徳丸成人さんは「町長や宮司さんの協力により、町の歴史や魅力を再発見する企画が実現できました」と話す。
翌日、先行して始まっている大枝のプロジェクトを取材すべく、阪急桂駅で実行委員のメンバーと待ち合わせをして現地に向かった。
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大枝地区は、京都の西の端、西山の麓に位置し、古くから柿やタケノコの名産地として知られる山里で、丹波地方への玄関口となる交通の要所だ。現在では、周辺にニュータウンが広がり、懐かしい風景と近代的な風景が交錯している。この景色が、5年後に全線開通を予定している京都第二外環状道路の建設によって様変わりする。そこでもう一度地域の魅力を見つめ直そうと、2年前に京都市立芸術大学の教員や学生たちを中心に取り組みがスタートした。
「美術学部の井上明彦准教授による造形計画授業の受講生が、大学OBで現代美術家椎原保さんがアトリエ兼倉庫として借りていた築200年の土蔵(約30年前に大枝に移築)と出合ったのがきっかけでした」と実行委員会のメンバーで市立芸大2回生の廣有利佳さんは話す。
椎原さんは大阪・築港の赤レンガ倉庫や廃校を活用したアートプロジェクトに関わった経験から、この土蔵をコミュニティースペースとして開放したいと考え、学生や地域の人々と少しずつ土蔵をリノベーション。これをきっかけにOAP実行委員会が生まれ、2005年から土蔵を拠点とした大枝アートプロジェクトをスタートした。
取材当日、亀岡市と隣接する老之坂峠周辺を案内してもらったが、酒呑童子の首塚が祀られている「首塚大明神」や「此是東山城国(これより東、山城の国)」と記された石碑、廃屋など、この地を丹念に歩かなければ見過ごしてしまうような“資源”があちこちに点在していた。
「市立芸大は1980年に移転してきましたが、これまで本格的に地元と関わるプロジェクトはありませんでした。“地域の一員”を実感するこの取り組みは、学生だけでなく教員や地域住民に新鮮に受け止められていると思います」と市立芸大准教授の藤本英子さん。藤本さんは現在留学中の井上さんに替わり、大学とOAPを繋ぐ役割を担う一方、自らが関わる「京都Neo西山文化プロジェクト」(*3)とOAPとの連携も図っている。
「何か“箱”があったわけでも、大きなイベントを打つために結成されたわけでもない、緩やかな繋がりで成り立っています。やりたいことがあれば手を挙げて地域の人を巻き込みながらそれを実現していく。そのひとつひとつの“実験”こそ、生活と密着したアートのあり方だと思います」と椎原さん。
例えば、近くの八幡宮境内や池、柿畑などさまざまな場所での展覧会やコンサート、手づくりの食べ物を囲みながらワークショップやレクチャーを催す「実験カフェシリーズ」、土蔵の隣に住む陶芸家・染色作家の上村家とのコラボレーションなど、これまでさまざまな企画が行われ、今後も継続する予定だ。これらの中には土蔵に集まったメンバーの何気ない雑談から生まれたものもある。また、サウンドアーティストの藤本由紀夫さんや、市立芸大前学長の中西進さんらアーティストや有識者が市民の立場でバックアップを続けている。
「運営面についてはまだ緩いところがたくさんありますが、この自由さから生まれてくるものも多いと思います」と廣さん。今年は「大枝、歩く。」をテーマとしたフィールドワークを中心に展開するということなので、夏休みを利用して、見逃してしまいがちな地域の魅力に出合いに出掛けてみてはいかがだろうか。
(ライター・土屋典子)
*1 アートフェスタ in 大山崎2007
アサヒ・アート・フェスティバル2007参加プロジェクト。京都造形芸術大学の人的資材を地域活性に有効に還元していくこと、また、大山崎町に散在する豊富な歴史遺産、文化遺産、自然をアートプロジェクトを介して結びつけ、地域の活性化を図ることを目的にスタート。水に恵まれ、竹の産地として知られる町の魅力をアピールする「離宮八幡宮ライトアップ」(8月3日~5日)や、宮本亜門+造形大生7名によるお茶会プロジェクト(9月9日)などを開催。
[主催]アートフェスタ in 大山崎2007実行委員会
[日程]7月6日~9月9日
http://www.voluntary.jp/o-yamazaki/
*2 大枝アートプロジェクト「大枝03」
アサヒ・アート・フェスティバル2007参加プロジェクト。「大枝・歩くプロジェクト」「緑の停留所プロジェクト」「写真プロジェクト」など数々の地域資源を発掘するプロジェクトや、ガリ版ワークショップ「あなたの字」、椎原保+藤本由紀夫展などを予定。
[主催]大枝アートプロジェクト実行委員会
[日程]7月7日~9月9日
*3 京都の西山地区で、京都大学、京都市立芸術大学、国際日本文化研究センター・伝統文化プロジェクトの三者が連携し、京都の伝統文化、発展する先端技術を、芸術のセンスで融合させ、新たな21世紀の文化創成を目指す取り組み。
●アサヒ・アート・フェスティバル2007