一般社団法人 地域創造

新年度のスタートに寄せて~林理事長から市町村長の皆様へ

文化芸術は新時代の地域発展の起爆剤です

Q:財団設立13年目に当たる新年度がスタートしました。就任されて半年になりますが、改めて感想をお聞かせください。

 

理事長:現場をいろいろと拝見させていただきましたが、地域創造の設立目的である文化芸術を通じた地域活性化への取り組みが精力的に行なわれており、関係者の皆様のご尽力には心から敬意を表したいという気持ちになりました。この場を借りて、ご協力をいただいている皆様にお礼を申し上げるとともに、スタッフにも感謝したいと思います。
  ご存じのように、現在、市町村合併や指定管理者制度など、地域や公立文化施設を取り巻く環境は財団設立当初に比べ大きく変わりました。現場を歩いてみて、これからの時代に元気な地域づくりを実践するには、今まで以上に文化芸術の果たす役割が重要になってくるのではないかと痛感しています。13年目というのは、干支が一巡して2度目の亥年を迎える節目でもあり、改めて財団設立の原点に立ち返り、その目的を全うできるようしっかり活動をしていかなければと、気を引き締めているところです。

 

Q:新年度を迎えるに当たり、特に地域づくりの重責を担う知事、市町村長に、ぜひともお伝えしたいことがあるそうですが、それはどういったことですか?

 

理事長:これまで地域創造では、地方公共団体からの委託を受けて、公立文化施設を拠点にした文化芸術による地域づくりを応援してきました。今後は、こうした取り組みが新時代をリードする地域振興策として位置づけられるようさらに応援していくのが、私の大きな役割のひとつではないかと思っています。
  そのためには、公立文化施設の職員だけでなく、知事、市町村長など、地域振興の政策決定に携わられているリーダーの皆様に、文化芸術による地域振興の行政効果についてご理解いただくことが大変重要であると考えています。地域創造といたしましても、そのためにお役に立てる情報提供等に力を入れていく所存ですが、市町村長の皆様にはぜひ、現場でその効果を実感していただき、文化芸術による新時代の地域づくりという理念を高く掲げて、各種施策を積極的に展開していただきたいと思っています。

 

Q:「文化芸術による新たな地域づくり」ということでは、衰退した工業都市を文化都市として再生したフランスのナント市の事例が世界的に注目されています。2月に視察に行かれたそうですが、感想をお聞かせください。

 

理事長:5日間に250回もの演奏会が行われるクラシック音楽のフェスティバル「フォル・ジュルネ(La Folle Journee)」の様子を見てほしいという、エロー市長からのご招待を受けてうかがいました。私にとっては本当に勉強になった視察でした。
  エロー市長は、1989年に文化芸術を中心にした都市計画を公約に掲げて市長に当選され、現在まで約20年近く一貫して実践されている方です。私は、地域の活性化に役立つ文化行政とはどのようなものか、という問題意識をもっていましたので、市長からのお誘いを受けて現場を自分の目で確かめてまいりました。
  私の考えていた行政上の効果とは、例えば、地域の伝統とアイデンティティを再確認することにより、地域の絆が強まる、青少年の教育と健全な育成に資する、高齢者の生きる喜びに繋がる、災害時において支え合うコミュニティの基礎がつくれる、ひいては地域の産業の掘り起こしを含めて地域経済全体の活性化に繋がる、といったことです。
  フォル・ジュルネには世界中から12万人もの観光客が訪れるとのことで、市内のホテルは満室という盛況ぶりでした。ほかのシーズンにもジャズ、演劇、ダンスなど多彩なフェスティバルを催し、観光産業の柱になっています。エロー市長によると、文化予算は市の総予算の15%ですが、そうした投資により、工業地帯として衰退していたナント市を観光・レジャー・文化エリアとして再生する大規模なプロジェクトに取り組み、併せて新しい地域づくりのシンボルとして路面電車の導入を行うなど総合的な都市計画を実施、今では、文化的なイメージと健康的なイメージで企業の誘致も進み、新住民も増え、造船業で栄えた時代に匹敵する税収が確保できるようになっているそうです。2003年には「フランスで最も住みやすい都市」(ル・ボワン誌調査)の第1位にも選ばれたとのことでした。
  「文化芸術面での投資」は単年度でその効果を図ることは難しいかもしれませんが、理想を掲げて長期的な戦略をもって取り組めばその成果は必ず現れる─ナント市の勇気ある実践を目の当たりにして、私はその確信を得ることができました。

 

Q:今回のご経験を踏まえ、地域創造の第2期に向けて、財団として取り組みたいと思われていることがございましたら、ご紹介ください。

 

理事長:地域創造の第1期では、各地の公立文化施設の活性化が急務でありましたが、これまでの実績を踏まえ─
  第1に、最初に申し上げましたが、市町村長など行政のトップの方々に文化芸術による地域づくりの効果についての理解を深めていただけるよう、情報提供をはじめ、財団としてできるだけのことをさせていただきたいということ。
  第2に、単なる財政支援だけではなく、これまで以上に人材育成に力を入れ、地域において文化芸術による地域づくりを担う志のある人材の養成に重点を置いていきたいということ。
  第3に、公立文化施設は文化芸術の専門施設ではありますが、地域振興の拠点となるような「地域社会に開かれた広場」としての活動を応援していきたいということ。
  第4に、こうした取り組みを全国的に広めていくためには、財団の力には限界があるため、ぜひとも県のご協力をいただき、県が主体となって県域内の活動を支援できるような態勢を考えていきたいということ。
  以上の4点を次のステップとして重点的に取り組みたいと考えています。

 

理事長:これまで公共事業を中心にして地域や国の経済の発展を図ってきましたが、私は、これからの時代においては、文化芸術活動による地域づくりがそれに代わる地域振興の起爆剤になりうると考えています。そのためには、「確固たる信念」と「長期的な戦略」が必要であり、忍耐強い政策判断と検証、中長期的・安定的な執行体制の整備が不可欠です。
新しい時代を切り開いていくために、トップの方々にはぜひとも文化芸術による地域づくりの展望を描いていただき、人材養成を含めて、10年、20年にわたる基礎づくりに取りかかっていただければとお願いする次第です。

(話し手:林省吾・財団法人地域創造理事長/聞き手:坪池栄子)

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