1996年にオープンし、地元の文化団体やボランティアによる運営で知られる宮城県の仙南芸術文化センター・えずこホールが10周年を迎え、2月17日、18日に記念事業「十年音泉(てんねんおんせん)」を開催した。
このステージは、“演劇交響曲”という耳慣れないサブタイトルが付いているように、音楽家の野村誠が総合監修し、矢内原美邦(振付家)、倉品淳子(俳優・演出家)、藤浩志(美術家)などのアーティストがジャンルを越えて公募住民や文化団体とコラボレーションしたものだ。この10年を締めくくるに相応しい企画をと3年前から検討し、一般の人とのワークショップや共同作曲作品の多い音楽家の野村誠に白羽の矢を立てた。
公募で集まった市民は40人(出演者は25人)、参加した文化団体はここを拠点にしてきたえずこシアター、えずこウィンド・アンサンブルなどのほか、地元のつくしの会児童合唱団、大河原商業高等学校ギター部、白石女子高等学校吹奏学部などから計300人。2006年3月のプレ事業を皮切りに、アーティストが入れ替わりえずこを訪れ、公募市民を中心に計100回以上のワークショップを重ね、発表初日を迎えた。
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オープン当初は田園風景の中にあった施設の周辺は、大型ショッピングセンターを中心にして市街化が進み、10年の歳月を感じる。
えずこホールは、立地している大河原町など2市7町の広域行政事務組合から運営を委託された仙南文化振興財団が運営していたが、指定管理者制度への移行に当たり、昨年4月に運営を組合の直営に戻したばかり。「合併協議が物別れに終わり、この段階で体力のない財団が指定管理者になっても5年先、10年先の展望が描けない。それに住民参加事業は民間が抱えるような事業ではないし、継続するには過渡的な措置として直営の方が相応しいということになった」と事務局次長の水戸雅彦さん。
町長や文化協会の代表などによる運営委員会を設け、その方針に従って行政と住民が参加した「えずこ芸術のまち創造実行委員会」が事業を企画・実施する。今回の記念事業もこの実行委員会の主催だ。
「十年音泉」は全編生演奏の5部構成だが、全体を通して何かのストーリーがあるわけではない。芝居仕立ての1部、ものすごい量のビデオテープが滝のように降り注ぐステージでの吹奏楽演奏、アーティストが自ら講師となってレクチャーをしながら住民と一緒にパフォーマンスを行う最大の見せ場の3部、住民とのワークショップの成果を構成した4部、そして、みんなから募集した祝電メッセージが披露されるフィナーレ(写真)へとなだれ込む。ワークショップの過程については、野村さんがブログで詳しく紹介しているので興味のある方はご覧いただきたい(*)。
ともあれ今回のステージで随所に吹き出していたのは、音だけでなく、アーティストの“創作意欲”という泉だったように思う。例えば、美術スタッフを束ねた藤さんは、「10年→テン年→天然→温泉、というダジャレでコンセプトが決まってから、イメージが膨らんで、いろんなものをつくった」と笑っていたが、みんなの度肝を抜いたオリジナル緞帳(写真。工事用ブルーシートと新聞紙とカラフルなガムテープで作成)はじめ、みんなから大量に集めたぬいぐるみ・レジ袋・ビデオテープを使った衣装や美術、手ぬぐい、ハッピとまるでおもちゃをもらった子どものように住民と一緒にものづくりを楽しんでいた。
野村さんも然り。つくしの会児童合唱団の子どもたちの発案と作詞で小学校5年生の時に作曲した「タヌキとキツネ」を合唱曲にすることができたと嬉しそうに話し、また、「タケヤブタ(竹やぶで出会ったブタ)」というキャラクターをモチーフに使い、ワークショップで湧き出した想像力のおもむくまま、音楽・パフォーマンス・映像にして徹底的に遊んでいた。
10年が過ぎ、活動が硬直化するなど課題も出てきているというえずこだが、このアーティストの泉のような力をどうすれば地域のエネルギーに変えていけるかはこれからのホールの活動にかかっている。藤さんがレクチャーで言っていた「何でもないものが凄いものに変化する、それが美だ」という言葉が、何よりのはなむけの言葉に聞こえた。 (坪池栄子)
●演劇交響曲第一番「十年音泉」
第1音泉:「ママとパアテルル予告編」
第2音泉:吹奏楽劇「幻覚の森」
第3音泉:レクチャー協奏曲「三つの動物レクチャー」
第4音泉:ワークショップ交響曲「広場」
第5音泉:「祝宴」
[主催]えずこ芸術のまち創造実行委員会/仙南地域広域行政事務組合
[日程]2月17日、18日
[会場]えずこホール
[総合監修]野村誠
[総合演出]野村誠、倉品淳子、矢内原美邦
[作曲]野村誠、片岡祐介、尾引浩志
[作劇]倉品淳子、柏木陽、わたなべなおこ、明神慈
[振付]矢内原美邦
[美術]藤浩志、小山田徹
[映像]泉山朗土