市民音楽劇
『砂川劇場物語~妖怪達がやってくる』
札幌と旭川のほぼ中央に位置する人口1万9千人余りの砂川市に、NPO法人ゆうが指定管理者として運営する砂川市地域交流センター「ゆう」が誕生し、1月7日から13日まで、市民音楽劇『砂川劇場物語~妖怪達がやってくる』や文化団体の発表会などのオープニング・イベントが開催された。
この施設は、交流と芸術文化によってまちに賑わいと活力を取り戻す起爆剤として砂川駅東部に計画されたもの。当初から市民運営を目指し、地元企業の経営者や文化団体の代表者など市民11名による運営協議会準備会を設けて詳細を検討。その提案書をもとに官民協働で計画を進め、準備会メンバーが中心となって昨年、NPO法人ゆうを立ち上げた。副理事長の其田勝則さんは、「市民が主体となって素案をまとめた砂川市第5期総合計画(平成12年度)が市民参加によるまちづくりの出発点になっています。理事長の山下眞史さんも私もその時からのメンバーです」と振り返る。
施設は、市営住宅や道営住宅、特別擁護老人ホームなどの整備が進む東口と商店街のある西口とを跨線橋(線路をまたぐ橋)で繋いだ自由通路と一体化した構造で、イベントもできる広いエントランス、子どものためのプレイスペース、ホール(可動500席)、研修室などを備え、大人も子どもも集える全天候型の遊び場といった趣だ。
1月8日、『妖怪達がやってくる』を取材するため、雪景色の砂川を訪れた。この市民音楽劇は、台本から大道具や衣裳づくりまですべて市民がプロのサポートを受けながら手づくりしたものだ。昨年6月に出演者とスタッフの公募を行い、2歳から75歳まで総勢70人が出演。30人以上の市民が裏方スタッフとして参加している。
物語は、子どもたちが古い市民会館を守ってきた妖怪たちと出会い、歴史や文化を引き継ぐことの想いに目覚め、新しい劇場と未来のために一歩踏み出すというもの。砂川の歴史などを話しながらネタ出しをして、病院に建て替わる砂川市民会館と新劇場へのオマージュとして、ゆうの非常勤職員の高橋洋平さんが台本にまとめた。
「最近の市民会館は宴会利用ばかりでした。僕が音響の仕事をしていることもあり、眠っている劇場を甦らせてあげたいという思いで運営協議会に参加しました。初めて脚本と演出をやりましたが、本当に大変でした」と充実感で顔を輝かせていた。
自由に写真を撮れるようにと行われた公開ゲネプロの後、舞台裏を覗いてみると、本番前とは思えないほどみんな笑顔でリラックスしていた。開場時間になると、人間からは見えないという設定の妖怪役の子どもたちは早々と舞台に上がり、其田さんの挨拶と劇場機構の説明に思い思いに耳を傾けていた。高橋さんがスタッフとの最終確認をしたり、ダンスの稽古をやるなど、バックステージを見せる心憎い演出で本番がスタート。異世代のコラボレーション、誰もが歌える劇中歌、そして砂川への想いが詰まった舞台だったが、こうした一つ一つが、「市民による市民のための市民の演劇(劇場)」であることを客席の市民と共有したいという志の現れなのだろうと思った。
総監督として全体をコーディネートしたのが、市民音楽劇を道内各地で実践している太田晃正さん(北海道文化財団トータルコーディネーター/NPO法人ゆうアートコーディネーター)だ。「誰でも創作はできるし、それをサポートするのがプロの役割」という太田さんの方針で、詞も曲も参加者から募集したが、地元会社員、おばあちゃん、高校生、中学校の先生などが創作し、まさに地域の隠れた才能による集団創作になっていた。
「音響や照明のスタッフも育成して、これからも砂川市民劇団として活動を継続したい。来年度は北海道大学の吹奏楽部と連携して音楽でも市民参加の事業を考えています」と其田さん。
衣裳づくりのボランティアで参加した鈴木洋加さんは、「出演した娘2人と一緒に舞台をつくったことで、子どもたちが私を仲間として認めてくれました。自信がもてた瞬間に目つきが変わり、メイクが終わった瞬間に顔つきが変わる。この数カ月の子どもたちの成長ぶりは目からウロコでした。いろんな世代の人と交流ができたことも大きな財産になりました」と目を潤ませていた。
「ゆうができたことで砂川に新しい風が入ってきた」という鈴木さんの一言が、今回の成果を端的に物語っているのではないだろうか。芸術文化にとどまらないまちづくりの芽生えを実感した取材だった。(坪池栄子)
砂川市地域交流センター「ゆう」オープニング 市民音楽劇『砂川劇場物語~妖怪達がやってくる』
[日程]1月8日
[会場]砂川市地域交流センター「ゆう」 大ホール
[主催]NPO法人ゆう
[共催]北海道文化財団、砂川市、砂川市教育委員会
[後援]北海道、北海道教育委員会