今年度の公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)は、9月7日からの若里市民文化センター(ヴァイオリンの早稲田桜子さん)と浜松市天竜壬生ホール(ソプラノ歌手の渡邊史さん)を皮切りに新年3月11日まで、全国29の地域で実施されます。すでに年内17カ所での公演を無事終了し、各地で熱いドラマが展開。今回はその中から、11月15日から17日に行われた、北上市文化交流センター・さくらホールでの事業の様子を紹介します。
北上市は岩手県の南西部に位置する人口10万人弱の中核市です。街の中心をゆったりと流れる北上川沿岸は桜の名所として知られており、北上市文化交流センターもそれにちなみ「さくらホール」の愛称で親しまれています。この施設は旧市民会館の老朽化による立て替えで2003年にオープンしたもので、巨大なガラス張りの公園のような空間に大・中・小ホールや21室のファクトリーと呼ばれる練習場が点在しているユニークな建物です。「テラス」と呼ばれるロビーはほとんど空席がない状態で、高校生からご高齢の方までが憩い、年末には市民の公募バンドによるカウントダウンライブが行われるなど、市民活動の拠点になっています。
「ホールが開館して3年の北上では、クラシックを好きな人はまだ少数。質の高いコンサートを行うことはとても大切だけど、ホールの外に飛び出していくことも必要だと思いました」と事業への応募動機を語ってくれたのは、さくらホールの佐藤真弓さん。
出演アーティストは、マレットというバチを何本も手にして操るアクロバティックな演奏でおんかつの人気楽器となっているマリンバ奏者の大熊理津子さんと伴奏のピアニスト藤岡弘子さんです。「全国の人に私のマリンバを伝えたい」という強い気持ちをもつ大熊さんだけに、さまざまな工夫とチャレンジに溢れた内容となりました。
アクティビティで訪問した黒沢尻北小学校は、放課後になったら校内のあちこちから楽器の音が聞こえてくる、とても音楽が盛んな学校。音楽の畠山敏先生からの「大熊さんの演奏を聴いた子どもたちが、その感動をすぐに表現できる仕掛けを考えて欲しい」という提案を受け、ボディーパーカッションで、子どもたちと大熊さんのコラボレーションが実現しました。初めは戸惑い気味だった子どもたちも、表情豊かに身体全体を使って、音やリズムと一体になっていく大熊さんの姿を見て、次第に笑顔に。
その後、中学時代からの親友が「大熊さんが一番格好良く見えるように」作曲した『マリンバとピアノのための3つの無邪気な小品』を演奏。超絶技巧を駆使した8分にもわたる現代曲にもかかわらず、全身全霊を込めた演奏に身じろぎもせず聴き入る子どもたち。大熊さん自身が、「子どもたちに伝わった、と生で実感できた」と後から振り返る濃密な瞬間でした。
素晴らしいアクティビティの効果もあり、コンサート当日は、450席の中ホールがほぼ満席の大盛況でした。『おもちゃの兵隊の行進』など、耳に馴染みのある曲のほか、『竹林』『プリズムラプソディー』など、マリンバのための曲もふんだんに盛り込まれた本格的な内容でしたが、トーク満載の“お話コンサート”だったのでとても親しみやすいもとなりました。
コンサート終了後には、北上の郷土料理である「ひっつみ」という具だくさんのスープをお客さんに振る舞ってのアフタートークも行われました。アクティビティで訪問した黒岩小学校の子どもたちが感想文をもって駆けつけたほか、「マリンバは何歳から始めましたか」「マリンバの曲が入ったCDを教えてください」「さくらホールの印象は?」など、質問が次々と出されるなど、交流を深めました。
「アーティストとここまで濃密にふれ合ったのは今回が初めて。この経験をもとに、今後は北上らしいプログラムをアーティストと一緒につくっていけるようになりたい」と、佐藤さんの夢もふくらんでいました。
平成18年度「公共ホール音楽活性化事業」1月以降のスケジュール
京都府京丹後市(京都府丹後文化会館/1月12日~14日/早稲田桜子)、徳島県海陽町(海南文化館/1月11日~14日/片岡リサ)、石川県珠洲市(珠洲市多目的ホールラポルトすず/1月16日~18日、21日/渡邊史)、広島県廿日市市(はつかいち文化ホール/1月17日~19日/Quartet SPIRITUS)、三重県四日市市(四日市市文化会館/1月18日~20日/荒川洋)、東京都品川区(品川区総合区民会館きゅりあん/1月23日~25日/早稲田桜子)、埼玉県川口市(川口市民会館/2月1日~3日/加藤直明)、千葉県東金市(東金文化会館/2月1日~3日/早稲田桜子)、熊本県熊本市(健軍文化ホール/1月31日~2月3日/Quartet SPIRITUS)、山梨県山梨市(山梨市花かげホール/2月8日~10日/渡邊史)、北海道中標津町(中標津町総合文化会館/2月21日~23日/荒川洋)、富山県砺波市(砺波市文化会館/3月9日~11日/荒川洋)
平成19年度公共ホール音楽活性化事業内定団体(23団体)
宮城県本吉町、宮城県大和町、福島県いわき市、群馬県玉村町、埼玉県入間市、千葉県四街道市、東京都江東区、山梨県笛吹市、長野県茅野市、岐阜県白川村、静岡県沼津市、愛知県津島市、三重県伊賀市、岡山県矢掛町、山口県阿武町、高知県四万十市、福岡県宗像市、佐賀県多久市、大分県日田市、宮崎県新富町、鹿児島県徳之島町、鹿児島県鹿屋市、沖縄県北谷町
公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ
芸術環境部
小澤・有本・水上・柿木田・飯川
Tel. 03-5573-4076