一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.26 ファンドレイジング① 考え方と助成元

講師 高萩宏(世田谷パブリックシアター)

公共によって支えられる芸術活動のあり方を考える

●ファンドレイジングを始めよう

 「公共の文化芸術施設の運営にとってこれからはファンドレイジング(*1)が不可欠です」と言われて、 急にファンドレイジングを担当することになったら、どうすればいいのだろうか。  大げさに言えば、ファンドレイジングに取りかかる前の準備として、 自分が運営に携わっている文化芸術施設の事業をさまざまな角度から検討するところから始めなければならない。 事業数、事業規模、事業内容、参加人数、収支など全体像を把握したら、文化芸術施設として所期の目的を達成するために、 その建築費・維持管理費に見合った意義のある事業が行われているのかを自らに問い直す。  そもそもその施設は、公共事業として建物を建設することや、立派な施設として存在させていることが目的ではなかったはずだ。 公共の文化芸術施設として、創造性の豊かな社会づくりに役立ち、地域の経済に貢献すべき役割を担って誕生したのなら、 それに相応しい内容・規模の事業を設置自治体の担当部局に提案し、それに対して十分な予算が確保されるのが本来あるべき姿だろう。  もちろん、その前にそれだけの予算が必要なのか、支出の見直しを行い、適正予算の作成・執行が行われているかのチェックも求められる。 すべての支出項目・金額について財政部局を納得させられなければ予算を確保することはできないからだ (ちなみに、必要な支出であれば何も恐れることはない。例えば宣伝費は多いと指摘されがちだが、他の公共事業のPRと異なり、 チケットを売るビジネスを行っている以上、一定の宣伝費は絶対に不可欠である。また、芸術家の人件費のように基準がないものについても、 相場を把握し、その芸術家の年間総収入を参考に拘束期間によって報酬を割り出すなど、支払額の根拠を示して説得することもできる)。  しかし、ほとんどの場合、設置自治体が十分な予算を準備できることはない。営業収入を増やすべく入場料・参加料・貸し館収入を上げるにも限度がある。 そこで、予算に合わせて事業規模を縮小するのではなく、外部から資金を調達して当初の目的を達成しようというのがファンドレイジングの仕事なのである。  したがって、担当者としては、どういうところが資金提供してくれる可能性があるのかという情報を収集し、 その資金提供先がどうすれば資金を提供してくれるのかという戦略を考え、ある時は企画をつくり、ある時はなぜ資金を提供すべきなのかの根拠を示し、 説得することが必要となる。ちなみにこうしたファンドレイジングを含め、芸術文化団体・施設の経営を行うことおよびそのための研究を 「アーツ・マネジメント」と言う(*2)。

*1 ファンドレイズ(fundraise)とは、英語で資金を調達するという意味。
*2 現在、公立文化施設におけるアーツ・マネジメントの重要性が指摘されているが、その主な内容は、 「芸術活 動と社会の出合い方をさまざまにアレンジすること」「芸術団体・芸術施設のよりよい運営について研究・実践すること」 「芸術を公的資源としてとらえ、その社会的活用を多角化していくこと」「芸術活動の活性化のための資金をさまざまな形で確保していくこと」 「芸術団体や芸術施設の価値を社会的に、教育的に、経済的にわかりやすく説明すること」とされている。 なお、作品を創作するプロデュースについてはアーティストとプロデューサーの業務として別に扱うのが一般的。

●外部資金を集める根拠

 外部からの資金提供という場合、共同で事業を行う共催者を見つけて必要な費用をシェアするという場合もあれば、 冠スポンサーを探して協賛金を得るという場合もあるが、今回は助成金(*3)について考えてみたい。  では、そもそもなぜ文化芸術施設の事業はこうした助成金を受ける事ができるのだろうか。 芸術活動について考えるとき、「誰が、誰のために、誰の負担で」行うのかということに立ち返って考える必要がある。 かつては、貴族など一部の権力者や富裕層などによって庇護され、享受されてきた芸術活動は、 20世紀には誰もが創作者にも観客にもなれる、一般大衆のものになった。一般大衆が参加し、 公共の取り組みとして芸術活動が行われるようになると、それにかかる費用は、観客が負担するだけでなく、 「民主的な手続きに則って公共の負担を求めることができる」と考えられる。  その理由は、「芸術のある生活は、活動している当人だけでなく社会全体に良い影響を及ぼす」 「芸術活動が活性化すれば、それを鑑賞するために人が集まり、アーティストばかりでなく技術者・サービススタッフなどの雇用が生まれる」 「芸術は社会の創造力を養う」「芸術活動は決して一部の専門的な人の営みでなく、社会全体とまた将来の社会の仕組みと深く結びついている」などなど。 少し難しい言い方をすると、つまり芸術活動は単なる私的財と区別され、公的な援助を必要とする公共財的な性格を多く併せもつ混合財である、 とされているのだ(*4)。

*3 助成金とは、支出の不足を補うため、あるいはある事業・活動を行うために何らかの援助団体・機関・官公庁等のプログラムに則って得られる援助金のこと。
*4 これについては「アーツ・マネジメント概論」(水曜社発行)の第三章「アーツ・マネジメントへの経済学からのアプローチ」に詳しい。
 ちなみにその中で片山泰輔は、芸術活動に公共による援助が必要な理由として「文化遺産説」「国民的威信説」「地域経済波及説」「一般教養説」 「社会批判機能説」「イノベーション説」「オプション価値説」の7つを挙げている。

●芸術活動への資金提供先(助成元)

芸術活動に対して助成プログラムをもっている助成先についてまとめたのが下の表である。 こうした助成先の情報については、各ホームページや財団法人助成財団センターのデータベース(http://www.jfc.or.jp/)で 情報を入手することができるので参考にしていただきたい。 しかし、このどこか1つからでも補助金・助成金を獲得するのは、大変な仕事である。 ほとんどの助成プログラムには申請書のフォーマットがあるので、それに従えば良いからある意味簡単だ。 ただし、良い結果を出せるかどうかは別の問題である。いずれにしても、過去の助成先の一覧などを参考にしつつ、 まずは相手がどこに助成決定のポイントを置いているかを読み取りつつ、ガイダンスに沿ってきちんと書類をつくることから始めよう。 読みやすい構成に心がけ、申請書の中にキラリと光るアイデアがあればなお良い。 フォーマットがないものはその分、難しくなる。その点で、メセナ協議会の認定を受けるための申請書が参考になるので 一度目を通しておくことをお勧めする(http://www.mecenat.or.jp/)。なお、企業メセナに付いては次回で詳しく紹介する。 いずれにしても、ファンドレイズにあっては、予算はいくら不足しているのか、外部資金はいくら必要なのか、 お金が集まった場合どうなるのか、逆に集まらなかった場合どうなるのか、といったことを予め考えておかなければならない。 事業を決め、欲しい額を決め、依頼先を決め、そしてお金を負担してもらえる根拠を見つける─ファンドレイジングの第一歩はそこから始まる。 ファンドレイジングができたということは、取りも直さず、その事業の公共性が外部の機関に認められたということであり、 そのためにも重要な取り組みなのである。

表 芸術活動の主な助成元一覧

 公的助成     文化行政に関わる予算を有している国や自治体の担当部局 
 芸術文化に関わる助成プログラムを有する基金 
地域創造(総務省)/芸術文化振興基金(文化庁)/国際交流基金(外務省)/日本万国博覧会記念基金/自治体の芸術文化基金 等 
 国際交流に関わる助成プログラムを有する基金 
アジア欧州基金/日米友好基金 等 
民間財団   
(毎年継続公募しているもの) 
 芸術全般 
アサヒビール芸術文化財団/全国税理士共栄会文化財団/UFJ信託文化財団 等 
 音楽系 
アフィニス文化財団/サントリー音楽財団/ソニー音楽芸術振興財団/日本交響楽振興財団/三菱信託芸術文化財団/ロームミュージックファンデーション/ローランド芸術文化振興財団 等 
 美術系 
鹿島美術財団/ユニオン造形文化財団/よんでん文化振興財団 等 
 音楽・美術系 
朝日新聞文化財団/エネルギア文化・スポーツ財団/花王芸術・科学財団/五島記念文化財団/野村国際文化財団 等 
 伝統芸能系 
沖永文化振興財団 等 
 音楽・地域文化伝統芸能系 
新日鐵文化財団/三井住友海上文化財団/明治安田クオリティオブライフ文化財団 等 
 舞台芸術系 
セゾン文化財団 等 
 国際系 
大和日英ファンド/日本財団系(グレートブリテン笹川財団、笹川日仏財団、スカンジナビア・ニッポン ササカワ財団など) 等 

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