配券業務と会員制度
講師 佐藤和久(北九州芸術劇場
チケットという商品を的確に管理し、会員営業で収入の柱をつくる
●チケットの配券業務
チケットは基本的に発売日の2週間前までには流通に配券を完了する。
配券作業は、票券または事業担当者が行う。北九州芸術劇場の場合は、一般発売日の1カ月前に、営業・事業・票券担当者で営業や会員での販売予測を立てながら、一般流通に委託する枚数を大枠で設定している。その後、一般発売日の2週間前までに、営業・会員・流通への配席(席番)を決定して一般流通に配券する。また、一般発売前に会員先行と営業販売(仮おさえ枚数を含む)の枚数が確定されるので、一般発売前日までに再度、配券作業を行う。営業・会員・流通へ配券する座席位置は、ほぼ均一状態になるような配席を心がけている(下図参照)。
◎配券の種類
一般流通/劇場プレイガイド/営業/会員/招待席/車椅子席/事故席/カンパニー席
◎票券業務に関する注意・留意点
・チケットの券面表記に誤りがないか必ず確認する(公演名/日時/会場/料金/スタッフ・キャスト名/主催・後援等のクレジット)
・見切れ席はあるのか、PA席の位置、カンパニー(ファンクラブ)おさえのチケットはあるのか、制作サイドに必ず確認する。
・トラブル回避のために、必ず事故席を数枚確保する。
・ダブル発券防止や票券管理のために、配券表を作成する。
会員制度
◎会員制度を導入する目的
劇場(会館)が会員制度を導入する主な目的は、公演チケットの先行予約や割引優待などのチケット購入に関する利便性を提供して、会員と劇場との繋がりを高め、チケット販売の促進を図ることで、事業収入の収益率を上げるためである。
◎会員システムの主な形態
劇場が導入している会員システムにはさまざまな形態があるが、大きく分けると、「カード会社提携型」と「独自開発型」の2つがある。既存のカード会社と提携して会員サービスを行う場合は、業務の合理化や経費の軽減などを図ることができるが、そのカード会社の入会基準をクリアーしなければならないため、入会時の年齢制限や審査などがある。独自で開発する場合は、手続きを簡単にすることもできるが、会員事業に関する実務全般の業務が発生する。
いずれにしても会員制度を構築する場合には、何を主眼として会員制度を導入するのか、目的を明確にして、地域の特性も考慮しながら構築することが必要となる。
[カード会社提携型]
カード会社のシステムを導入すると、チケット代金の決済機能(自動引き落とし)、年会費自動集金機能、ポイント蓄積機能、会員データベース作成機能(管理・データベース化)のあるカードが発行できるし、さらにカード会社のクレジット機能やサービス特典を利用できるというメリットがある。
[独自開発型]
会員制度をもつ公立ホールの多くはこのタイプに属する。自らの劇場のニーズに沿ってマーケティングを行い、地域の特性を考慮しながら、事業展開に沿った会員制度を構築している。会員事業に関する実務全般は、劇場職員が行っているのが一般的である。
北九州芸術劇場の場合は、入会金500円でチケットクラブ会員に登録できる仕組みで、入会金をカード発行に係わる経費に充てている。会員制度に関する基本的な考え方は、入会に際してのハードルを低くすることによって、多くの会員を確保して情報提供を行い、舞台事業への興味を喚起することを目的としている。開館した初年度には、1万人以上の会員登録があった。現在は4,000名程度で推移しているが、舞台事業への関心が強いコアな会員組織となっている。なお、会員組織の運営・管理は、宣伝営業課が担当している。
◎会員制度の主なサービス特典
劇場によってさまざまな工夫を凝らした特典を付与しているが、一般的な内容は、先行予約販売、割引優待、会報誌の発行、協賛施設での優待サービスなどである。
北九州芸術劇場の場合は、チケットの先行予約購入、ポイント積み立てによる割引サービス(購入金額の5%相当のポイント加算、100ポイント単位=1ポイント1円で利用可能)、公演情報誌の発行(年4回)、協賛店での割引サービスなどを特典としている。
◎情報提供の方法
一般的には、会報誌を発行して公演情報の提供を行う。会報誌は、実施される公演のスケジュールやチケットの前売情報、演出家や出演者のインタビュー特集など、読者の興味を喚起するような誌面づくりを行っている。発行サイクルは、毎月または季刊(年4回発行)で発行するところが多い。このほかに、DMやメールマガジンを発行して情報を提供するところもある。
◎会員制度の運営に必要な経費
初期に発生する経費として、会員募集チラシの制作費、入会申込書の制作費、カード台紙の制作費、ホームページ上で申し込み受け付けする場合はその開発費用などが必要となる。通期の主な経費は、カード発行代、カード郵送代、会報誌の制作費および郵送費などである。
北九州芸術劇場の場合は、年4回発行する会報誌(名称「ステージ通信Q」)の制作費および郵送費が主な経費となっている。「ステージ通信Q」は、北九州市芸術文化振興財団が運営している響ホール(クラシック音楽事業)の情報も掲載している。1号当たり3万部発行しており、チケットクラブ会員のほかに、全国や近隣の公立ホール、財団や自治体関連、マスコミ、企業や市関連施設などの約550団体に配布(郵送)している。1号当たり約237万円(年間約950万円)の制作費および郵送費が発生しており、会員制を維持するためにはかなりなコストが必要となることに留意すべきである。
◎運営費の算出
会員運営にかかる財源として、年会費を充当するところもある。一般会員だけでなく、特別会員や賛助会員制度を設けて会費収入の増額を図ったり、また、会報誌に広告スペースを設け、企業や団体からの広告収入で財源の補てんをしている劇場もある。北九州の場合は、チケットの販売促進の観点から基本的に広報宣伝費として計上している。
以上、会員制度に関することを簡素に説明したが、会員からのチケット収入は、事業収入の重要な柱である。一般販売や営業販売の促進とともに、サービスアイテムの充実を考え、新規会員を獲得して、会員販売の増強を図っていくことが必要だろう。
票券管理の方法
1. 席種
最近では、一般的にS席比率が高くなる傾向にある。観客の育成という視点から、ホール最後列や最前列の桟敷に学生割引席などの格安席を設定するところもある。席種を決める場合は、
・ステージから遠くなるほど席種は悪い
・上の階ほど席種は悪い
・2階席前列はS席扱い
・上の階の席が被っている所は音が悪いので席種を1等下げる
というのが基本的なルール。ホールによって見切れ席(ステージの一部が見えない)、音の悪い席などの条件はそれぞれ違うため、個々のホールの特性に合わせた席割りが必要。
2. チケット流通業者への配券
配券方法を間違うと、真ん中に空席ができたり、同じ席を二重発券するなどのミスが出たり、チケットの売れ行き確認が煩雑になったりする。どういう配券も一長一短だが、チケットぴあでは「縦割り配券」を勧めている。これは座席を縦に区切って配券する方法で、どの流通業者にも全席種を配券できる上、良い席から順番に売れていくので売れ行き確認しやすいメリットがある。
3. 特別席
一般客に販売する席のほかに、PA席、カメラマン席のように席はあっても販売しない席、記者や関係者用の招待席、事故が起こった場合に対応する事故席などの特別席がある。
[招待席]S席の中で選ぶのが基本で、中央通路の後ろ辺りに配置することが多い。団体によっては、招待日を何日かに分けるところもある。
[VIP席]皇室対応の場合、セキュリティなどの関係から2階中央最前列を用いる。
[事故席]二重発券などの事故席としてはS席の中から中の上辺りの席を準備することが多い。開演直前に入場することが多いため、通路脇、入口近くなどが便利。