注目を集める「さいたまゴールド・シアター」での研修に興味津々
地域創造が埼玉県芸術文化振興財団との共同主催により平成9年度から実施している「ステージクラフト~舞台技術ワークショップ」。本年度の事業は、8月8日から11日まで、彩の国さいたま芸術劇場を会場に開催され、全国から31名の受講者が集まり、舞台、照明、音響のワークショップに取り組みました。
この事業の最大の特徴は、本物の公演の裏方を体験しながら舞台技術の基礎を学ぶところにあります。今年度は、彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任した蜷川幸雄の新プロジェクトとして全国的に注目されている高齢者劇団「さいたまゴールド・シアター」の中間発表の作品『Pro・cess~途上~』が研修の舞台となりました。
中間発表については、本誌前号の「今月のレポート」で詳しく紹介しましたが、1,200人余りの応募者から選ばれた平均年齢66.9歳のゴールド・シアターのメンバー45名が出演した力作で、世界的な演出家ならではの革新的でプロフェショナルなスタッフワークにふれることのできた貴重な機会になりました。
45個の水槽がセットされた稽古場劇場で講義
研修初日には、ゴールド・シアターのために招集されたプランナーが講師になり、作品づくりのプロセスを紹介。芸術監督と共に演技指導に当たってきた演出家の井上尊晶さんからは、「個人史をベースにした新しい演劇形態を追求したい」という劇団趣旨、5月から週5日、2カ月にわたって行われた稽古内容等が紹介されました。「どのぐらいの体力があるか、どのぐらいの台詞が入るかなど、2カ月の成果をステージアクトという形を借りてやってみようということになった。新しい集団なので劇場ではなく新しい場所で発表しようと稽古場を劇場につくり直した」と井上さん。
今回の公演では、人が1人入れる水槽が45個舞台上に並ぶという印象的なセットが用いられましたが、舞台美術を担当した安津満美子さんは、「演出家から水槽を使いたいという具体的な提案があったので、なぜ水槽なのか、から逆に演出意図を考えるところから始めた。役者ひとりひとりが主役の公演だということと、シンプルな物なのでさまざまな見立てができるよう、舞台全体を使って(ばらばらに)並べることにした。今回は稽古場をどのような空間に変えるかも舞台美術の担当だったので、ダクトなどを残してあえて無機質な空間にした」とプランを説明。
衣裳の小峰リリーさんは、ファッションデザインと衣裳デザインの違いについて「舞台衣裳はキャラクターのデザインをすること」と前置きした後で、「ゴールド・シアターは自分たちを表現するという趣旨なので、自前の洋服を持って来てもらってその中から出演者の表情が引き立つものを選んだ」とのこと。今回の中間発表では披露されなかったのですが、『三人姉妹』を稽古した時に軍服を着てもらった時のことを振り返り、「プロの役者でも着こなすのが難しいのに、人生経験のある人が軍服を着るととても似合うのに驚いた」というエピソードを披露されたのが印象的でした。
このほか、照明プランナーの岩品武顕さんは、劇場でない場所に照明を仕込むことの課題について説明。バトンを吊る、電気容量を確保する、公演用の調光卓を設置する、各水槽に個別のピンスポットが当たるよう45機の照明を仕込むなど、自前の劇場で、かつ、劇場付きの技術スタッフが充実しているからこそ実現した今回の中間発表の裏側がとてもよくわかる講義内容でした。
2日目からは3班に分かれて、全員が音響、照明、舞台の実技にチャレンジ。最終日にゴールド・シアターの皆さんのご協力により、実際に受講生がオペレーションをして模擬公演を行いました。1日3回の本番にお付き合いいただきました出演者の皆様には心よりお礼申し上げます。
最終日の反省会では、「これまで音響しかやっていなかったが、別のポジションを経験して自分の仕事を見つめ直すことができた」「皆さんの舞台をつくる姿勢に感動した。初心に戻ってやり直したい」「講師の方に、うまくいくのが普通だから、普通にできても誰かが褒めてくれるわけではない。それを自分の喜びとして技術を高めていこうと言われてなるほどと思った」など、受講生の言葉からはものづくりの姿勢に目覚めた興奮が伝わってきました。
ステージクラフトスケジュール表
8月8日(火) 第1日
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8月9日(水) 第2日
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8月10日(木) 第3日
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8月11日(金) 第4日
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9:00
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専門ゼミ「舞台─1」 9 : 30─10 : 30 (舞台セットの説明、バックステージツアー) |
専門ゼミ「照明─4」 9 : 30─12 : 30 (映像を見ながらきっかけの確認) |
総合ゼミ 9 : 30─10 : 45 セットアップ─リハーサル-1 |
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10:00
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専門ゼミ「舞台─2・3」 10 : 30─14 : 00 (舞台基礎実習、仕込みの実習) |
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11:00
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総合ゼミ 11 : 00─12 : 15 セットアップ─リハーサル-2 |
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12:00
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13:00
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開講式・オリエンテーション 13 : 30─14 : 15 |
専門ゼミ「音響─4」 13 : 30─16 : 45 (オペレーションの説明と実習) |
総合ゼミ 13 : 15─14 : 30 セットアップ─リハーサル-3 |
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14:00
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一般ゼミ「作品づくりについて」 14 : 30─15 : 50 講師:井上尊晶(演出)、小峰リリー(衣裳)、安津満美子(美術)、岩品武顕(照明)、市川悟(音響)、山田潤一(舞台) |
専門ゼミ「音響─1~3」 14 : 15─17 : 45 (音響プラン補足説明、音響機器の説明と扱い方、仕込みの実習、サウンドチェックの実習、きっかけの確認作業) |
ミーティング 14 : 45─15 : 30 |
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15:00
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閉講式 15 : 30─15 : 45 打ち上げ 15 : 45─16 : 45 |
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16:00
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専門ゼミ「照明─1」 16 : 00─17 : 00 (照明機器の説明と扱い方) |
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17:00
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専門ゼミ「照明─2」 17 : 00─18 : 30 (仕込みの実習) |
専門ゼミ「舞台─4」 17 : 00─18 : 30 (オペレーションの説明と実習) |
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18:00
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ホール見学 18 : 30─19 : 00 |
専門ゼミ「照明─3」 18 : 00─19 : 00 (仕込み・フォーカスの実習) |
照明・音響・舞台ゼミの模様
「Pro・cess~途上~」公演の模様(撮影:幸田森)