一般社団法人 地域創造

さいたま市 彩の国さいたま芸術劇場 「さいたまゴールド・シアター」中間発表公演 『Pro・cess~途上~』

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『Pro・cess~途上~』公演の模様。舞台に並べられた水槽の中に立つ俳優たち(上)
撮影:幸田森

  蜷川幸雄が芸術監督に就任した彩の国さいたま芸術劇場の新事業として全国から注目を集めている高齢者演劇集団「さいたまゴールド・シアター」。その中間発表公演『Pro・cess~途上~』が7月28日から5日間にわたって行われ、一般にも公開された。
 さいたまゴールド・シアターは、「個人史をベースにした新しい演劇の形態を模索したい」という蜷川が、55歳以上のプロの舞台俳優の育成を目指して旗揚げした。1,200人以上の応募者のうち55歳以上の人全員を蜷川自らが約2週間かけてオーディションし、55歳から80歳まで、元先生、専業主婦、僧侶など48名を選考。都合により辞退した人を除く46名(平均年齢66.9歳)が5月から週5日、1日約5時間のレッスンをスタート。演出助手として蜷川と10年以上にわたってコンビを組んできた井上尊晶が中心となってカリキュラムを作成し、ボイス、ダンス、日舞、ムーブメントといった基礎訓練に加え、蜷川と井上による演技指導を続けてきた。

 

 「公共の取り組みなので何をやっているかを中間でも見てもらうべき」として行われた今回の発表では、シェイクスピアの『ハムレット』やチェーホフの『三人姉妹』の台詞やランボーの詩、寺山修司の言葉などから構成した前半部分と、蜷川が1972年に自らの劇団櫻社を旗揚げするきっかけとなった清水邦夫の戯曲『明日そこに花を挿そうよ』の若い男女の1シーンを何組ものカップルで演じた後半部分から成る約90分のパフォーマンスが披露された。
 

 

  7月31日、大けいこ場で行われた発表を見に出かけた。天井高8メートルのグレーの壁の下3分の2を暗幕で被い、床に黒いリノリウムを敷き詰め、約170席の黒い階段客席を組んだ特設会場は、スタッフが労力を惜しまずつくり込んだプロの仕事ぶりが見てとれるものだった。
 舞台奥には2列の椅子、舞台上には人が入れる大きさの水槽が45個。開演と同時にゴールド・シアターの俳優たちが静かに入場し、椅子に座って観客と向きあうところからパフォーマンスは始まった。青白い蛍光灯に照らされた水槽に1人ずつ横たわった俳優たちは、長い冬眠から目覚めるかのようにゆっくりと立ち上がり、1人ずつ、驚くほど通る声で、客席に挑みかかるように力強い言葉を投げかける。
 人生の秘密が託されたシンボリックな言葉を蜷川が抜粋して構成したモノローグ、俳優たちが1人ずつ本名を名乗るラスト──いずれも、「自分はどこから来たのか? そしてどこへ行こうとしているのか?」を自問し続ける蜷川の人生観(演劇観)がひしひしと伝わってくる感動的なパフォーマンスだった。
 「昨日言えた台詞が今日言えない、5行以上の台詞は覚えられない、2分しか集中力が続かないなど、ゴールド・シアターでは何一つ気を許せるものがない。そういうことを全部含めて芝居がある」と蜷川。
 女性の不思議と自信に満ちて聞こえる声、男性のぎこちなくも人生を彷彿とさせる動き、時折混じるプロンプターの大きな声、どんなハプニングにも対応できる演出……。個人史を表現する回路としてこうした高齢者の特徴を紡いだ果てに見えてくる新しい群像劇のあり方とは? その成果が早く見たいと心から思った。

(坪池栄子)

 

蜷川幸雄コメント

長い人生の中で経験してきた喜びや悲しみから生まれる表現は、プロの俳優が想像力を使っても真似できるものではない。こうした個人史(生活史)で戯曲を読み解いた時に新しい発見ができるのではないかと思っている。もちろんプロでも個人史と演技を重ね合わせることは求められるが、個人史を表現する回路が発見されていない。台詞は覚えられるのか、稽古は続けられるのかなど、高齢者をプロの俳優にするためのデータがないため、ゴールド・シアターをどう運営するかは未知の状態。公共劇場は税金を使うからプランニングしなければならないと思われているかもしれないが、それは逆で、新しいこと、データもないことに関わるのは公共劇場じゃないとできない。道のりは遠いが、人間の生の営みの中で必要とされることを発見していくのが公共劇場の役割だと思うので、こうした試みに投資をして欲しい。 (3月22日、オーディション会場にて)

 

さいたまゴールド・シアター中間発表公演『Pro・cess~途上~』

[会期]7月28日~8月1日(計6公演)
[会場]彩の国さいたま芸術劇場 大けいこ場
[主催](財)埼玉県芸術文化振興財団
[構成・演出]蜷川幸雄
[演出]井上尊晶

 

さいたまゴールド・シアター公式サイト

http://www.saf.or.jp/gold_theater/index.html

 

地域創造レター 今月のレポート
2006.9月号--No.137

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