一般社団法人 地域創造

福岡市 第20回福岡アジア映画祭2006

 今年で20周年を迎えた「福岡アジア映画祭」が7月17日、閉幕した。7月7日から9日までは九州日仏会館5Fホールで、14日から17日までは天神・NTT夢天神ホールで、短編6本を含む21本が公開され、特に連休中は立見が出る作品も。グランプリには徐小明監督(香港)の『緑の炎』が選ばれ、盛況のうちに終了した。
 いち早くアジア映画に注目し、「知られざる若い才能の発掘」を掲げ、福岡という地方都市から発信する国際映画祭として1987年にスタートした福岡アジア映画祭。博多祇園山笠の開催と重なる時期に開かれる、夏のイベントとして定着している。
 「九州で見られない映画を上映しようと活動していました。東南アジアを舞台とした今村昌平監督の『女衒(ぜげん)』の応援イベントを企画した際、中国、香港などの映画15本を併せて公開したところ、来福した今村監督から『この映画祭は有意義だから、続けてやりなさい』と言われ、その言葉を励みに、続けることになったんですね。今年今村監督が亡くなって、20周年へのメッセージがいただけなかったのは残念でした……」と映画祭実行委員長で、九州大学で講師を務める映画評論家の前田秀一郎さんは語る。
 福岡アジア映画祭は、前田さんをはじめ10人の実行委員と、公募で集まった約100人のボランティアスタッフで運営されており、自治体などの補助金を得ることのない完全な市民主導の映画祭としても全国的に知られている。実行委員会スタッフは「宣伝PR」「プロモーション」「映写オペレーション」「フィルム字幕翻訳」「カタログ翻訳」「カタログ翻訳校正」「カタログ、フライヤーデザイン」の各チームに分かれて準備を行い、期間中は10歳代から60歳代まで数多くのボランティアが会場運営に携わる。
 予算は約500万円。そのうち350万円が入場料収入、150万円が企業からの協賛や全国各地からのカンパで賄われている。支出は会場使用料、フィルムの輸送費、ゲストの渡航や宿泊代など。赤字が出れば、実行委員会メンバーが負担する。
 借金を抱え、やめようと思ったことは幾度もあるという。91年に福岡市主催のアジアフォーカス・福岡映画祭が始まった時には存続が危ぶまれたが、若手の発掘に力を入れているプログラムの独自性を打ち出し、観客動員数だけを目標とはせず、500万円という限られた予算でアイデアを出し合うなど等身大のスタンスで取り組み、危機を乗り切った。

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会場の模様

  作品は主に前田さんが世界各地の映画祭を回って集めるが、映画人のネットワークから監督や作品を紹介されたり、インターネットでの直接の売り込みもある。この20年間に関わったアジアの映画人は400人以上にもなり、来日した人は50人以上にのぼる。20周年記念カタログには改めて彼らに連絡を取り、寄せてもらったコメントがズラリと並んでいる。今回、『京都夜想曲』を出品したジョン・フォスター監督は、映画祭ボランティアの経験者であり、翻訳者になった人など、この映画祭がきっかけになって関連の仕事に就いた人もいる。こうした人材が育ったり、ネットワークが蓄積されてきたのも、20年間続けてきたからこその成果だ。近年は山形国際ドキュメンタリー映画祭や、広島国際アニメーションフェスティバルの実行委員会との間で、作品の選定や字幕製作などの面で協力体制をとるなど、地方の映画フェスとの繋がりも生まれてきた。
 「お金をかけなくても、東京の業者や専門家の力を借りなくても、市民だけで国際的なイベントが実現するんだ、という手本になれたらと思っています。ボランティアの人たちには自ら行動してもらわなくてはならないし、厳しい側面もあります。ですが、だからこそやればやるほど面白味が出てくる。英語だけではなく韓国語や中国語に堪能な人も多いし、福岡はこうした催しをするのにちょうどいい規模なのだと思います。この20年でアジア各国の映画製作の状況も変化して、作品のクオリティが全体に上がっていますし、そして何より韓流ブームの影響もありますが、観客の目が肥えてきたことを痛感しています。これからも福岡アジア映画祭がアジアの若い才能が世界に出る起点になれるよう長く続けていきたいと思っています」

(ライター・土屋典子)

 

第20回福岡アジア映画祭2006

[主催]福岡アジア映画祭実行委員会
http://www2.gol.com/users/faff/faff.html
[会期]7月7日~17日
[会場]九州日仏学館5Fホール、NTT夢天神ホール
[上映作品]『クァンシクの弟クァンテ』(2005年/韓国)、『放課後の屋上』(2006年/韓国)、『愛を逃す』(2006年/韓国)、『緑の炎』(2006年/香港)、『忘れえぬ想い』(2003年/香港)、『わが家の犬は世界一』(2002年/中国)、『中国之夜』(2006年/中国)、『京都夜想曲』(2005年/日本・アメリカ)、『アンコールの人々』(2003年/フランス・カンボジア)、『天下第一の家』(2004年/台湾)、『部落の声』(2004年/台湾)、『梅の実の味わい』(2004年/台湾)、『三叉坑』(2005年/台湾)、『わたしの葬送日記』(2005年/日本)、「シンガポール・ショート」=6本のショート・フィルム集(2005年/シンガポール)、『マーシー』(2002年/タイ・アメリカ)

 

地域創造レター 今月のレポート
2006.8月号--No.136

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