一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.25 チケット営業② 営業の実務と実践

講師 佐藤和久(北九州芸術劇場)

販売目標を定め、チケットの動きを確認しながら多角的に販売

 

営業実践

営業する準備が整ったら実践の活動に入ろう。営業スタイルは個人によってさまざまだが、ここでは一例を挙げるので参考にしていただきたい。

 ある企業が販促キャンペーンとして公演チケットをプレゼントするなど、チケットを販促ツールとして扱うケースがあるように、私たちが日々生活する環境の中にも、営業先になるであろうヒントは数多く存在する。私が営業担当になった当初、これまで意識していなかったビルのテナントにも目を配るようになるなど、町全体が営業先に見えたほどだが、いずれにしても自分なりに意識を高めながら日々、足で稼ぐことが大切だ。

 

1.営業(訪問)先へのアプローチする

  営業先へのアプローチとしては、基本的に担当者にコンタクトを取って直接会う方法をお勧めしたい。電話だけでは入手できる情報には限界がある。面会してコミュニケーションを図ることで、さまざまな情報を入手することが可能となってくるし、次回からの展開にも役立つ(*)。

 

ダイレクトメール

一方的なDMではほとんど効果は望めないので、担当者を確認した上で、公演資料と挨拶文を同封して郵送し、その後、コンタクトを取って訪問すること。電話で担当者を確認する際に、内容等の説明も必要となるので、この段階である程度の感触を掴むことができるし、資料を郵送しても効果が無いとの判断材料にもなる。

直接訪問

電話で訪問する趣旨(内容)を伝え、直接訪問する。

紹介

関係者や知人などから営業先を紹介してもらい、コンタクトを取って訪問する。

 

2.営業販売枚数を設定する

  営業で販売するチケット枚数の目標を立てる。目標といっても経験や実績が伴わないと想定することが出来ないので、まずは無理がない販売枚数を設定するところからスタートして、それに近づける営業努力を行うことが大切である。毎公演、営業・会員・一般流通で販売するチケット枚数を想定して、自分なりに公演事業を組み立てる意識が重要である。経験と実績を積むことにより、公演規模や公演内容が違ってもある程度、予測が立てられるようになる。

 ちなみに北九州芸術劇場の場合は、総販売枚数の5割を営業と会員で販売、残り5割を一般流通で販売するイメージでチケット販売を組み立てている。

 

3.営業スケジュールを立てる

  営業の動きは大きく、一般発売前の「買取営業」と、一般発売前後からの「斡旋営業」に分けられる。

 買取営業は、発売前の3~4カ月前(これより早く動く場合も多々ある)から営業に入る。早めの動きとなる要因は、(1)流通へのチケット委託(発売前に配券が必要)、(2)貸切の場合(チラシに表記が必要)、(3)大口の団体が成立した場合(チケットの確保が大前提となるので、発売後に大口団体が成立してもチケットが用意できない場合がある)などである。

 斡旋営業は、企業や団体によって取扱い形態がさまざまなので、訪問した際に担当者と斡旋方法及び受付方法の確認が必要となる。当然、チケット代金の支払方法も異なる。

 北九州芸術劇場の場合は、買取・斡旋営業については、流通に配券する一般発売日前までにある程度確定できるスケジュールで組み立てている。一般発売前に団体販売枚数を確定させることにより、一般発売後にチケットの動きが悪い場合でも、その後の営業対策を立てることがスケジュール的に可能となるからだ。

 

4.営業実務

  実施する公演の販売予測(営業・会員・一般)を立て、営業方針および営業販売目標を決めて活動に入る。営業先との取り扱いが決定したら、販売(斡旋)方法に関する詳細を決める。その後、作成した仮おさえ表に必要な情報を随時入力して、販売(斡旋)管理を行う。また、営業先で案内する情報の掲載締切日までに公演情報やチラシ、写真などを手配する。別途作成する案内状や斡旋用のチラシが必要な場合は、指定される期日までに納品する。

 「販売週報」を作成し、一般発売後のチケットの動きを毎週確認する。人気公演で即日完売するような公演は少ないので、一般流通の販売状況を見ながらチケットの販売予測を立て、販売状況が悪い公演の新たな営業計画やプロモーションプランを組み立て直していく。一般的には発売から3~4週目である程度、一般流通の伸び率が推測できるだろう。

 北九州芸術劇場の場合は、チケットの販売期間は約2カ月と比較的短く設定しているので、販売状況が悪い公演の場合は、早めに対応策を立てるようにしている。営業は新規の開拓や今回取り扱いのない取引先に斡旋の依頼を行いながら、事業の担当者と動員対策(有料・招待)を講じる。例えば、公演に関連する団体や類似公演の観劇者、ワークショップ参加者などへ優待案内DM、新聞での公演記事に絡めたプレゼント告知、パブリシティ効果を見込んでプレス会見を設定し、その際に情報番組のブッキングや新聞・雑誌等のインタビュー取材等を仕込むなど、有効と思われることをさまざまに仕掛けていく。

 その際に留意すべきことは、動員対策が必要だからといって、むやみに招待券を配布しないこと、優待チケットの単価を下げすぎないこと。このような状況が続くと、定価でのチケット販売に悪影響を及ぼすことになりかねないからだ。

 

[企業や団体の斡旋方法(例)]

企業や団体が社員等にチケットを斡旋する方法としては、自社の媒体(会員誌・季刊紙)に斡旋情報を掲載する、公演チラシに斡旋の案内を添付する、斡旋用のチラシを別途制作する、社内の掲示板等にポスターなどを掲示する、社内メールやウェブ上に情報を掲載するなど、さまざまな募集方法がある。

 

[チケット受付・決済方法(例)]

企業や団体の担当者が取りまとめて、一括で発注する場合、および企業や団体に申し込みが入り次第、随時発注する場合があるが、いずれもチケット代金は企業(団体)からの支払いとなる。希望者が直接申し込む場合は、チケット代金は個人が直接指定先に入金する。

 

[委託・斡旋販売業務の流れ]

チケット販売の全体の流れをまとめたのが右頁の図である。販売方法によって異なる業務内容は以下のとおり。

 

●委託販売の場合
卸価格・販売価格・販売手数料・委託枚数・締切日の設定→チケット納品(納品書発行)→案内→確定→チケットの引き取り(請求書発行)→入金確認
●企業や法人が窓口となって斡旋販売する場合
卸価格・販売価格・販売手数料・チケット抑え枚数・締切日の設定→案内→確定→チケット一括納品(請求書発行)→入金確認
●チケットセンターや営業で直接申し込みを受ける場合
斡旋価格・受付期間の設定→案内→受付→指定口座への入金確認→チケット郵送

 

[販売週報の作成]

 一般流通からの券売状況は毎週報告がある。それに営業の確定数字(週の動き)を加えたデータ表を発券ベースで作成する。販売週報を作成することにより、現在の販売状況や今後の販売推移を予測することができる。

 

[営業報告書の作成]

 企業・団体名称、担当者、連絡先、訪問状況や決定事項など、訪問した際の情報を報告書にまとめる。再度訪問する際に参考となる資料なので、なるべく詳細な内容にして作成すること。

 

[営業会議の設定]

 販売週報をもとに営業会議を設定する。チケット券売状況や営業報告、今後の営業方針などを会議のテーマとして実施する。

 

[公演当日の役割]

 招待受付、営業先アテンド、チケットのトラブル処理、お客様のクレーム対応など、劇場の表周りは営業が担当します。表周りを担当することで、来客層も確認できるので、作品によった客層の分析も可能になり、今後の営業や宣伝展開などに活かすことができる。

 

5.年間の営業計画

  北九州芸術劇場では、年間のラインナップが大枠決まった段階で、ラインナップ一覧表を作成し、大口の団体や互助会組織など、早めに情報が必要な団体へ情報提供を行う。同時期に、4月~9月(上期)に上演される作品の統一チラシを制作(下期も同様)する。この統一チラシは、営業ツールとして活用しながら、本公演のチラシが制作されるまで、公演の度にチラシ折り込みを行う。こうした早め早めの情報提供を心がけることが大切である。公演ラインナップは、年2回、上期と下期に分けてプレス会見を実施して発表している。

 また、年間ラインナップが決定した段階で、それぞれの作品の集客率を想定しながら、チケット販売を強化する公演を決定する。その後、各公演の一般発売日などの公演概要が決まったら、営業・会員・流通での販売予測を立てて、団体販売の営業活動に入る。

 

チケット販売の流れ

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