各地域で高く評価されたワークショップ
地域創造では、平成17年度の新規事業として「公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)」を実施しました。これは、公募により選ばれたコンテンポラリーダンスの登録アーティストを地域の公共ホールに派遣し、1週間程度滞在してアウトリーチとワークショップ、公演を行うというミニレジデンス事業です。3月13日に初年度の実施館7館とコーディネーターが地域創造会議室に集まり、報告会が開催されました。
多治見市文化会館、名取市文化会館、斜里町公民館、豊岡市民プラザ、茅ヶ崎市民文化会館、金沢市民芸術村、えずこホールの各館担当者による事例報告の後、コーディネーターを交えた活発な意見交換が行われました。
詳細は報告書に掲載されていますので、事業への参加を検討されているホール・劇場の方、また、コンテンポラリーダンスの事業に興味をお持ちの方はぜひご参照ください。今回は報告会の内容を要約して紹介します。
●コンテンポラリーダンスの力を実感
実施館の事例報告の内容は右頁の一覧表にまとめた通りです。アーティストの選考基準、ワークショップやアウトリーチの実施対象・実施先・実施内容といった企画づくりと実際の制作(特にアウトリーチ先との関係づくり)、そして本公演の制作など、戸惑い、課題、手応えが担当者から次々に発表されました。
どの事例でも共通していたのが、特殊なテクニックを必要とせず、誰もが参加でき、身体を使ってコミュニケーションするコンテンポラリーダンス・ワークショップに対する高い評価です。参加者との間に感動的なエピソードも生まれ、どの館も事業の継続にとても意欲的でした。それに対して、本公演については、上演場所、スタッフ、集客などいくつかの課題が浮き彫りになりました。
●コーディネーター・コメント
ダン活では各地域にアーティストとともにコンテンポラリーダンスの制作に詳しいコーディネーターが派遣されます。現地に同行したコーディネーターからもいろいろなコメントがありました。以下、一部をご紹介します。
◎志賀玲子(伊丹市立演劇ホール アイホール 舞踊部門プロデューサー)
多治見市文化会館では、「ダンスは楽しい」ことを伝えたいというのが担当者のコンセプトだった。コンテンポラリーダンスという言葉を出すだけで敷居が高く感じるという現状がまだある。それで、ダンス=楽しいということを明快に伝えられる北村成美さんというアーティストを選び、そのアーティストとどうすれば楽しさが実現できるかを工夫していった。それで非常にいい企画になったと思う。
コンテンポラリーダンスでは、アーティストの数だけ踊り方があると言われ、ワークショップの中でも、ほとんどのアーティストは「正解はありません、間違いもない、思ったようにやってください」と言う。そのコンテンポラリーダンスの導き出しの機能を使って、「自分の中で思っていることは何でも言っていいんだよ」ということを子どもたちに伝えたいと、豊岡市民プラザの岩崎さんが言われていた。コンテンポラリーダンスのとても重要な部分と、人を変えて自分たちの街を活性化することをリンクして考えていらっしゃるのを知り、とてもうれしかった。
◎佐東範一(NPO法人JCDN代表)
コンテンポラリーダンスが馴染みの少ないものなので、他の人にどう説明したらいいかすごく難しかったのではないか。しかし、コンテンポラリーダンスが何だかよくわからないからこそ逆にいいのではと最近思っている。コンテンポラリーダンスについて説明しようとすると、担当者の能力、気持ちが問われ、担当者によってかなり内容が異なってくる。
ダン活は、全く新しい考え方を日本の公共ホールの事業として普及しようとしているのではないか。これまでは価値観の定まったものを紹介してきたが、この事業ではいろいろな価値観があるから面白い、ということを形にしようとしている。既存の価値観もマニュアルもないから、担当者が自分の地域に適した事業を考えるしかない。こういう新たに価値をつくっていく作業は、やり方によってはとても面白くなると感じた。子どもから年配の人まで、誰もが自分を表現したいという本能をもっていて、コンテンポラリーダンスはその本能にアプローチできる数少ない手段だと思う。
◎堤康彦(NPO法人芸術家とこどもたち代表)
いろいろ話を聞いていると、皆さんコンテンポラリーダンスの“コンテンポラリー”の部分に近寄りがたいイメージを抱かれているように思う。そういう意味では、現代美術とか現代音楽に対しても同じような距離感があるのではないか。バレエ、フラメンコ、ハワイアンなどは型が決まっていて、見るほうもこれは何を表現しているのかという一応の了解事があり、バレエとはこういうものだというイメージが出来上がっている。ところがコンテンポラリーダンスは、それぞれのアーティストがある意味の舞踊言語というか、踊りの表現方法を発見して、それを表現しているので、白紙の状態から見なければいけない。そこに抵抗感があるのではないかと思った。
逆に言えば、新しいものを見る楽しさもあるし、技術や型を求めているわけではないので、ワークショップでも人と人が触れ合うコミュニケーションがたくさん生まれてくる。だから子どもたちの人間関係とか心理的な状況などにもすっと入ってく力がある。
●事例報告
ホール名(発表者) | アーティスト | 報告要旨 |
◎テーマ1「コンテンポラリーダンス事業の目的と計画の策定」 | ||
多治見市文化会館 (加藤愛) |
北村成美 | ワークショップ(WS)は小中学校へのアウトリーチと会館で子ども向け、大人向けをやり、公演は1,300席の大ホールの舞台上に客席をつくって行った。中学は女子のみの予定が雨で、体育ができなくなった男子も急遽参加することになった。子どもWSは40人中35人がダンスをやっている子どもで、最後はホールの好きなところを選んで自分たちの作品を発表した。また、北村さんの提案でフラダンスサークルにでかけてダンス交流を行った。皆さん本当に喜んでくださり、続けるしかないと思っている。すでに合宿型のWSをやろうと北村さんと相談している。 |
◎テーマ2「コンテンポラリーダンスワークショップの企画と実施」 | ||
名取市文化会館 (綱川宏一) |
勝部ちこ | アーティストとして誰を選ぶかで悩んだ。勝部さんに決まってからもどういうWS、どういう公演にしようかかなり悩んだ。勝部さんが皆さんと身体を触れ合って即興ダンスをするという方なのであえて老壮年を対象にし、短期大学の保育科、生き生きスポーツクラブ(40歳~80歳)、一般向けWSをやった。老壮年では「こんなに触っていいんですか」とドップリ触れ合いに浸っていて成功だった。身体を動かした後、話し合いをするのでさらに交流が深まり、今でも参加者は連絡を取り合っているようだ。 |
斜里町公民館 (鹿野能準) |
砂連尾理+寺田みさこ | 前任の担当者から引き継いだので何もわからず組み立てに困った。WSは一般、子ども(小中学生)、高校を対象にした。特にこれを機にホールと高校との関係づくりをやりたかった。体育の時間だったので1時間ずつになったが、やはり2時間は必要だと思った。15分ぐらいのデモンストレーション公演を全校集会でやり大成功だった。高校は外部講師を入れてやるのは初めてだったが、非常に評価が高く、またやってほしいという声が挙がっている。 |
豊岡市民プラザ (岩崎孔二) |
砂連尾理+寺田みさこ | 地域の内気な感じを変えようとダンスにチャレンジした。砂連尾さんのルーツが豊岡近くの浜坂であり、地元ということでお願いした。ダン活では現地打ち合わせが2回できるが、その内の1回で実際に学校の先生のためのWSを行い、興味をもってもらった校長先生の小学校とその関係の小学校でアウトリーチをやった。市民会館では一般対象、3歳~5歳児の親子対象のWSをやった。小学校ではダウン症の子どもが寺田さんと手を触れ合って踊り初めて、僕らも先生も周りの生徒たちもものすごく驚いたし、感動した。 |
◎テーマ3「コンテンポラリーダンス公演の様々な形態」 | ||
茅ヶ崎市民文化会館 (杉山貴子) |
山田うん | 公演場所は395名収容のプロセニアムの小ホールだった。下見の時に遠景に見えて迫力が伝わらないというコーディネーターやアーティストからの指摘で、客席の一部を取り払い、舞台を1間張り出して、288席とした。東京から近い上、うんさんの新作公演が1カ月前に吉祥寺であったので、入場料は大人2,000円、大学生以下1,000円とした。公演スタッフは会館の予算でプロにお願いした。アーティストが茅ヶ崎出身者で初めての地元公演だったためほぼ完売。若い人に見てほしかったが小中高への宣伝は思うようにできず苦労した。 |
金沢市民芸術村 (市川幸子) |
山田うん | 公演前の日程で昼はアウトリーチ、夜は一般向けWSというタイトなスケジュールを組んだためアーティストを疲れさせてしまい、大変反省している。スケジュールはアーティストと十分に相談して決める必要があると思った。公演ではスクリーンを使ったが、本番前日にアーティストに見てもらったら位置が変わり、準備していたプロジェクターで対応できなくて、大変な騒ぎになりご迷惑をかけた。技術的準備はもっと慎重に準備しないといけないというのがよくわかった。 |
えずこホール (佐野理賢) |
伊藤千枝 | 出演者3名プラス演出助手1名で来ていただいた。演出助手のギャラは会館が負担した。舞台スタッフは地元のメンバーが担当し、演出助手に照明のきっかけなどを出してもらったが、伊藤さんたちがとてもよくしてくださったのでスタッフの負担は少なかった。チラシのデザインが伊藤さんのイメージと大きく違っていたためつくり直し、本チラシが出来上がったのが公演の半月前だった。アフタートークのスープパーティーは好評だった。 |
芸術環境部 畑間・南谷・栗林・関根 Tel. 03-5573-4067