まさに、「満を持して」のデビューだった。2月26日、「トリフォニーホール・ジュニア弦楽オーケストラ第1回演奏会」。音楽監督・松尾葉子の指揮のもと、小学2年生から高校2年生まで総勢52名の子どもたちが、トリフォニーホールのステージで、モーツァルト『ディヴェルティメント第3番 へ長調 K.138』やグリーグの『ホルベルク組曲』など、昨年10月から練習を重ねてきた成果を披露し、多くの観客の喝采を浴びた。
●
「新日本フィルハーモニー交響楽団と墨田区とが“結婚”して18年、トリフォニーホールという“家”が出来て8年で、ようやく子どもが誕生した、ということですね」と中村晃也・すみだトリフォニーホール事業課長は表現する。
1988年、墨田区は「音楽都市構想」を策定し、“音楽の街づくり”に着手した。同年、新日本フィルと日本初の「音楽フランチャイズ」を成立させ、学校や各施設での出前コンサートなど全国に先駆けたアウトリーチ活動を展開していく。そうした地道な活動の成果を受けて、97年、新日本フィルの本拠地となるすみだトリフォニーホールが誕生した。
「ホールの事業運営の柱は、オーケストラが『住む』『集う』『育まれる』ホールを目指すということです。『住む』は新日本フィルのフランチャイズに、『集う』はこのほど9回目を迎えた『地方都市オーケストラ・フェスティバル』に結実しています。そしていよいよオーケストラを育む事業としてジュニアオーケストラを立ち上げ、3本柱が揃いました」
ジュニアオケの設立準備が具体的に始まったのは2003年。10回にわたる委員会を開催するのと並行して、他の公立ホールが運営するジュニアオケについて財政状況などの調査を行った。翌2004年には地域の学校を回り協力を求めるとともに、教師へのヒアリングを行い、報告書をまとめる。その後、試験的に団員を募集し、集まったヴァイオリンの18人により「トリフォニーズ」を結成し、2005年3月に区役所のロビーで“お披露目”の演奏会を開いた。「わずか15分ほどの演奏だったのですが、これが感動を呼びまして。これならいけるだろうと、区のゴーサインが出ました」（中村さん）。
ジュニアオケの結成に関する墨田区長の考えは、「トリフォニーホールの運営方針と同じように、墨田区外、東京、そして全国に発信していくこと」だった。あえて“墨田区”を付けず、「トリフォニーホール・ジュニア弦楽オーケストラ」という名称にしたのもそのためだ。団員も広く募集し、「オーディションの結果、墨田区とその他の地域、男女比もほぼ半々というバランスになりました」（すみだトリフォニーホール事業課・上野喜浩さん）
このジュニア弦楽オーケストラ最大の特長は、トリフォニーホールのステージで練習ができること、そして新日本フィルの現役団員から指導を受けられることである。ヴァイオリンのトレーナーのひとり、山本のりこ氏は、「新日本フィルの演奏会にもメンバーが聴きに来てくれるなど、オーケストラをより身近に感じているようです。私たちも子どもたちを指導することで、刺激になっています」と言う。
現在は、8月4日の第2回演奏会に向けて、毎週土曜日に練習を行っている。「第1回の演奏会では500円という料金をいただきました。これにはクオリティの高さも目指していこうという意味があります。今後は年2回の演奏会や地域での演奏活動を展開し、開館10周年を迎える2007年には管楽器を入れたフルオーケストラにすることを視野に入れています」と上野さん。
「演奏会には普段ホールに足を運ばないような、子どもたちの両親や祖父母、友達など、1000人もの人が来場しました。クラシック音楽の普及やホールのファンを増やすことにも繋がるという手応えを感じました」と中村さんは言う。
松尾氏は「個性豊かな子どもばかり。小さくまとまらないように、難しい曲にもどんどん挑戦して、個性が輝くような活動をしていきたい」と演奏会で客席に向けて語った。各地でジュニアオケの設立が相次いでいるが、新日本フィルとの連携でどのような成果を生み出すか、注目される。
（ライター・土屋典子）
※トリフォニーホール・ジュニア弦楽オーケストラではヴィオラ、チェロ、コントラバス各パートの団員を募集中です。詳細は同オーケストラ事務局までお問い合わせください。
Tel. 03-5608-5404 http://www.triphony.com/
地域創造レター 今月のレポート
2006.4月号--No.132