一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.24 舞台監督の仕事③ 制作者との関わり

講師 草加叔也(空間創造研究所・劇場計画コンサルタント)

制作者との緊密なコミュニケーションが必要

 

●制作者と舞台監督のコミュニケーション

 舞台芸術作品の制作および上演を行っていく上で、制作者と舞台監督が密にコミュニケーションを図り、あらゆる情報を共有していくことは、手際よく作業を進行させていたくめの重要な要素となる。

 以下、前回示した舞台芸術作品の創造プロセスに沿って、公演から撤去までの各段階において、舞台監督が担う業務の中で制作者がぜひとも押さえておくべきポイントについて整理を行った。なお、実際の制作業務では、むしろシナリオにない想定外のことが起こることが常である。そのためには、知識だけでなく、フィールドワークを重ねて、想像力を鍛えていくことが制作者にとっての不可欠な資質となる。

 

●準備期間に必要とされること

 まず、プロダクションをスタートさせる段階では、全体の大きな骨格を組み立てていく必要がある。そのための具体的な要素としては、上演作品の概要、稽古および公演を行う場所“劇場”の情報、制作および公演スケジュール概要、そしてこのプロダクションを支えるスタッフワークなどがある。以下、特に準備段階で舞台監督と制作者が協議する必要のあるポイントを整理した。

◎稽古場の公演場所“劇場”の選択

  まず、予定されている「作品を創造するために必要な稽古場」と「公演を行うための劇場」の選定が大きな課題となる。稽古場には、創造作業を行うための広さやそれを支える諸条件(連続使用、搬入条件、遮音性能など)をクリアすることが求められる。また公演を行う劇場には、必要な舞台面積・舞台設備のほかに、興行に必要な客席数や公演作品を上演するのに相応しい空間の質などが求められる。

◎必要なスタッフの招集

舞台照明や音響のオペレータ、舞台転換スタッフなど、作品を上演するのに最も相応しいスタッフ・チームを招集することは、舞台監督の重要な仕事のひとつ。もちろん、人件費の制約を踏まえた招集が条件となるため、制作との協議は欠かせない。

◎進行スケジュール素案の作成

「稽古」「仕込み」「本番」「撤去」「旅(移動公演)」など大まかな制作・公演スケジュールの組み立てを行う必要がある。この際、舞台技術的な側面(予算も含め)での情報は基本的に舞台監督が掌握していることから、まず大まかな進行スケジュール素案を制作との間で合意しておく。

 

●リハーサル間に必要とされること

 リハーサル段階は、具体的な舞台芸術作品を形にしていく段階である。多くの職能が同時に稽古場に集まり、日々作品を形にしていく作業を行うことになる。この稽古場の進行を司るのも舞台監督の重要な役割である。また、この間に舞台技術に関わる最終的な外部発注業務の仕分けと発注先が決定、さらに進行スケジュールが時間単位で決定される。

◎舞台技術関係予算の把握

  大道具、小道具および衣裳等の製作物から舞台照明機材や音響機材などの調達物に関わる経費(人件費も含む)の把握。本水・火気・レーザーなど特殊効果に関わる経費や、字幕スーパーの製作、舞台技術者が外国人だった場合の通訳費用、各種手続きや許可申請のための諸経費なども考えていく必要がある。予算に関わることは速やかに制作と協議する。

◎チケット販売の制約と解除

  当然、売れる席は1席でも早く売り出したいところであるが、演出や舞台装置の変更があることを見越して、一部の席を売り止めにすることがある。特に舞台前への張り出しや客席内での演出の可能性、舞台近くまで廻り込んだバルコニー席をもつ劇場などでは、鑑賞条件を大きく左右する舞台装置となる可能性があることを考慮し、売り出し当初には席を売り止めにすることがある。その設定、解除の判断も舞台監督による場合が少なくない。

◎詳細スケジュールの決定

  少なくともリハーサル期間には、詳細な仕込みスケジュールを決定する必要がある。特に舞台監督との調整が必要になるのは、マスコミ取材のタイミング、ゲネプロの公開、プレビューの実施など出演者の招集だけではなく、プロダクション以外の関係者へのアナウンスが必要な場合である。

 

●劇場での仕込み作業の間に必要なこと

 仕込みに入る時期には、作品の基本的な演出は決定されており、本番の舞台に合わせた調整が図られるタイミングである。この期間には、舞台装置などを建て込むことと本番に向けた最後の舞台稽古が実施される。ただし、大掛かりな舞台装置を仕込む場合には、そのために多くの時間を必要とし、ややもすると出演者を入れた舞台稽古の時間が制約されることも起こる。そのようなことを防ぐためにも十分な情報の共有が必要になってくる。

◎仕込みスケジュールの堅持と確認

  舞台装置の建て込み、舞台照明および音響設備の調整などそれぞれにとって物理的な仕込み時間が確保され、最後の舞台稽古に向けた調整を滞りなく行うことができているか。時間的、物理的なトラブルはないか。場合によって変更が生じていないか。その結果、演出家や指揮者などの本番に向けた最後の舞台稽古の時間、スケジュールに影響を及ぼすことがないか、といった進行管理を行うこの場合、変更情報の共有が不可欠となる。

◎舞台稽古スケジュールの確認と進行

  仕込み期間に行うもうひとつの重要な作業が、この舞台稽古である。本番の装置を飾り、衣裳を着け、実際の舞台照明と音響を入れた形での通し稽古までを行う。ただし、物理的な仕込み作業の進行いかんによっては、出演者や演出家の劇場への入り時間の調整など制作者と舞台監督との息の合った進行が必要とされる。

 また、マスコミや観客などを入れたフォトコール、公開稽古やプレビューなどを本番前のタイトな時間の中で実施するケースも増えている。

◎スタッフや関係者へのホスピタリティ

  それぞれのスタッフは短時間に過不足なく作業を行っていく必要がある。その作業を円滑かつ迅速、安全に行えるような環境整備やホスピタリティを提供することも制作者の重要な役割になる。そのためにも舞台監督との連携は不可欠である。

 

●本番期間に必要なこと

 初日が開けば、公演スケジュールどおりの進行が基本であるが、演出家のダメ出しやキューの変更、衣裳の調整など公演の合間をぬって様々な調整が必要となる。この間の日々の進行スケジュールの調整を指示していくのも舞台監督の役割であり、制作者と全ての調整をしながら進めていくことになる。

◎劇場着到時間の連絡調整

  日々の作業(調整)により、出演者・スタッフの劇場入り時間調整が毎日行われる。もちろん通常のウォーミングアップのための時間や作動チェックのための時間が必要であるが、演出の変更など調整のための時間を確保し、具体的な指示を舞台監督が行っていくことになる。

◎バラシ(撤去)とツアー手配

  初演の公演終了後、舞台を撤収するためのスタッフの手配、大道具や調達物の引き取りのための車両の手配など、仕込み時同様に搬出計画の立案、進行を舞台監督が指示する。大道具などこの作品のために製作されたものについては、再演の可能性がなければ廃棄処分の手続きを進め、再演が予定(期待)されている場合には、倉庫などへの格納計画を策定する。また、作品によっては次の公演地への移動を行うこともある。その場合には、次の劇場での搬入計画を確認しつつ撤収作業を進行させる。

 

●舞台監督とのリレーションシップ

 舞台制作の進行は、マニュファクチャーとは異なり常に同じ条件で製作が行えるわけではない。作品ごとに創造や上演に関わる出演者・スタッフの総力が試されることになる。

 舞台監督は、その作業進行の舵を握ることになるが、大海に乗り出す船にはそれに相応しい職能の分化が求められるし、また小船を手足のごとく操るのも舞台監督の鍛えた手腕ということになる。つまり制作者には、作品に応じてその水先案内に卓越した舞台監督がパートナーとして必要となる。そして両者がより多くの情報を共有し、協働して作業に当たっていくことが、より良い作品を創造するための第一歩となる。

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