明日への活力となる“遊び”を堪能
日本各地の地域伝統芸能、古典芸能を紹介する「地域伝統芸能まつり」が2月11日、12日の両日、東京・渋谷のNHKホールにて開催されました。今回で6回目となるこの催しは、失われつつある各地の伝統芸能等を記録・保存することを目的としてスタートした地域創造の「地域伝統芸術等保存事業」の一環として行われているものです。全国の伝統芸能継承者に発表の場を提供するとともに、イベントやテレビ放映を通じてその魅力や価値を再認識していただき、郷土愛と地域づくりの気運を育む契機となることを願い実施されています。
今回のテーマは「遊(あそび)」です。日常生活から解放される「祭」と「遊び」。そこに共通するのは、生きていく上で不可欠な明日への活力になるということではないでしょうか。そんなテーマにまつわる地域伝統芸能と古典芸能が披露されました。
●神事からお座敷遊びまで
1日目、オープニングを飾ったのは徳島の「阿波おどり」です。「エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ」の掛け声と三味線の音が会場に響きわたり、徳島「娯座留連」を率いる78歳の四宮生重郎さんによるソロ踊りに続いて大勢の子どもたちによる踊りが始まると、客席は今にも躍り出しそうな雰囲気に。三味線を弾くのは盆踊歌『阿波よしこの』の名手として知られ、県民栄誉賞を受賞している99歳になるお鯉さん(本名・多田小餘綾(こゆるぎ))。昭和初期に阿波おどりの全国PRに一役買った自慢の美声を聴かせました。この世代を超えた一体感に、地域伝統芸能のあるべき姿が凝縮されたオープニングとなりました。
日本各地で五穀豊穣を祈って広く行われてきた神事「田遊び」、獅子舞に続いて登場したのは、何と「祇園のお座敷遊び」でした。華やかな8人の芸妓さんたちによる祇園小唄や、ジェスチャーでするじゃんけん「とらとら」など、普段は映画やドラマの中でしかお目にかかれない祇園芸妓の艶やかさに「本物はすごいね」という声があちらこちらから聞こえていました。「とらとら」には司会の竹下景子さんと石澤アナウンサーも参加し、京都の一夜を満喫する贅沢な時間となりました。
1日目のラストを飾ったのは、国重要無形民俗文化財である秋田の夏祭り「竿燈」です。竿燈は、最も大きなもので12メートルを超える長い竹竿に、46個の提灯をぶら下げた重さ50キロにもなる代物。これをたったひとりの差し手が腰や肩、額で支えるアクロバットが見所です。NHKホールの天井に届きそうな巨大な竿燈の迫力と、それを操る妙技の素晴らしさに拍手喝采でした。
●「まつり最高です!」で会場は最高潮に
2日目の会場には、高さが10メートルにもなる太い竹が設置されており、開演前から観客は期待感でいっぱいでした。始まったのは長崎市の「竹ン芸」。お稲荷様のお使いである白ギツネが、祭囃子に誘われて竹の上で遊び戯れる様子をユーモラスかつスリリングに表したものです。
大阪の「生國魂神社の枕太鼓」では、神輿が横倒しになっても、その上でひたすら太鼓を叩き続ける6人の「願人」の勇姿に惜しみない拍手が送られました。竹下さんから「今の気分は?」と聞かれた願人の若者たちが「まつり最高です!」と言った笑顔が印象的でした。
そしていよいよフィナーレ。鹿児島の「おはら祭」では、東京でおはら祭をやっている人々も参加し、最後は観客も加わって総勢数百名が「ヨイサー ヨイサー」の掛け声で踊り、まつりは最高潮に達しました。
●広がる古典芸能の世界
今回はいつもの能、狂言に加え、講談と舞楽もプログラムされました。いずれの演目も「遊び」に関わったもので、半能『融 酌之舞(とおる しゃくのまい)』では、梅若六郎がクライマックスで優雅に月下を舞遊ぶシテ(主役)を演じました。また、初登場の講談では、第一人者の一龍斎貞水が、相撲や芝居見物など江戸庶民の娯楽が織り込まれた『め組の喧嘩』を、狂言では、お馴染み茂山家のメンバーが山伏にもてあそばれる『蝸牛(かぎゅう)』を、披露。5年ぶりの登場となる天王寺楽所雅亮会は、酒宴の様子を描いたユニークな舞楽『胡徳楽』を披露し、昔も今も変わらない酔態に観客も苦笑いしていました。
今年も約4倍の抽選を勝ち抜いた延べ6,000人の観客が舞台を堪能し、出演団体の地元名産品の販売や地域の情報を発信するPRコーナーも大盛況で、手にしたお土産と笑顔が観客と各地域との新たな繋がりを感じさせるものとなりました。
●第6回地域伝統芸能まつり
[日程]2月11日、12日
[会場]NHKホール(東京都渋谷区)
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会、財団法人地域創造
[実行委員]梅原猛、遠藤安彦、鎌田東二、香山充弘、三枝成彰、下重暁子、鈴木健二、中沢新一、原田豊彦、山折哲雄、山本容子、林省吾
[後援]総務省、文化庁、NHK
◎出演団体等
2月11日:
阿波おどり(徳島県徳島市)、藤守の田遊び(静岡県大井川町)、大塩天満宮獅子舞(兵庫県姫路市)、半能『融 酌之舞(とおる しゃくのまい)』、祇園のお座敷遊び「拳」(京都市)、桐生八木節(群馬県桐生市)、講談『め組の喧嘩』、竿燈(秋田県秋田市)
2月12日:
竹ン芸(長崎県長崎市)、雅楽(舞楽)『胡徳楽(ことくらく)』、嘉瀬の奴踊り(青森県五所川原市金木町)、石岡のおまつり─土橋の獅子舞─(茨城県石岡市)、狂言『蝸牛(かぎゅう)』、生國魂神社の枕太鼓(大阪市)、おはら祭(鹿児島県鹿児島市)
●平成18年度 地域伝統芸術等保存事業 助成内定事業一覧
【映像記録保存事業】
◎青森県鶴田町「弥生画」
◎岩手県雫石町「安庭あやつり人形芝居を中心とした郷土芸能活動」
◎岩手県花巻市「マイリノホトケ(十月仏)」
◎福島県郡山市「糠塚の獅子舞」
◎茨城県常陸大宮市「西ノ内紙」
◎埼玉県小鹿野町「河原沢のオヒナゲエ」
◎埼玉県上尾市「藤波のささら獅子舞」
◎埼玉県熊谷市「葛和田のあばれみこし」
◎千葉県旭市「八坂神社「つく舞」祭礼行事」
◎千葉県銚子市「(1)はね太鼓 (2)跳ね込み太鼓」
◎富山県高岡市「高岡市の伝統芸能 漆器、銅器」
◎富山県氷見市「氷見祗園大祭」
◎石川県小松市「曳山子供歌舞伎」
◎石川県輪島市「輪島市の曳山祭り」
◎愛知県豊田市「足助祭り」
◎滋賀県甲賀市「油日神社・奴振」
◎和歌山県田辺市「野中の獅子舞」
◎福岡県豊前市「(1)大富神社の神幸祭 (2)山田の感応楽 (3)求菩提山のお田植祭 (4)宇島祇園 (5)厳島神社の百手祭 (6)畑のどんど焼き」
◎福岡県芦屋町「芦屋釜の制作技術」
◎長崎県対馬市「命婦の舞(和多都美神社・海神神社)」
◎熊本県人吉市「(1)大寶御注連 (2)球磨神楽 (3)神幸行列」
◎大分県宇佐市「(1)俚舞楽打 (2)神能」
◎宮崎県野尻町「(1)紙屋城攻め踊り (2)兵児踊り (3)東麓・新地馬場棒踊り (4)鉦踊り」
◎沖縄県名護市「汀間区のウスデーク」
◎沖縄県読谷村「座喜味の棒術」
【都道府県イベント事業】
◎千葉県「房総の郷土芸能」
◎静岡県「伝統芸能フェスティバル」
◎愛知県「ふるさと芸能祭(仮称)」
◎三重県「第48回 近畿・東海・北陸ブロック民俗芸能大会」
◎鳥取県「第42回 郷土の民俗芸能大会」
◎島根県「しまね子ども神楽フェスティバル」
◎広島県「ひろしま神楽の祭典'06」
◎徳島県「伝統芸能フェスティバル~阿波太鼓の系譜~」
◎熊本県「熊本県こども民俗芸能大会」
◎沖縄県「沖縄芸能の楽しみ方~芸能基礎講座と鑑賞~」