2月12日、13日に、滋賀県内のホール、博物館、美術館などが一堂に会し、各施設が開発した体験プログラムや地域・学校等との連携事業を紹介するユニークな見本市が開催された。
会場となった滋賀県立草津文化芸術会館には、展示ホールの壁沿いに25のブースが並び、中央には陶芸などを体験できるワークショップ・スペースが設けられていた。練習室にもミニステージがつくられ、ガムラン演奏など5つの実演プログラムが行われた。バックステージツアーやロビーコンサートも企画されるなど、盛りだくさんの2日間だった。なお、今回紹介された事業はデーターベース化され、ホームページで公開するとともに、冊子を作成する予定だ。
この事業は、「子どもの美術教育をサポートする会」代表の津屋結唱子さんが、県の県民文化課に提案したところから始まった。「滋賀県にはたくさんの文化施設がありますが、縦割行政の影響で各施設の交流がほとんどありません。ジャンルや組織の壁を打ち破ってこそ、本当に県民のためになる文化事業ができるはずです」と津屋さん。
滋賀県では、1970年代に地域ごとに整備した文化芸術会館5館のうち4館を今年4月に市町に移管する計画になっている。指定管理者制度の導入や合併を踏まえ、県の文化政策は、広域的な取り組みや専門化など、県にしかできないソフト事業への転換を図りつつある。
県民文化課の門脇宏文化振興担当参事は、「NPOなど民に学びながら意識を改革しなくてはいけない。小手先の改善策ではもう通用しないという認識は共有されており、今まさに根底から変えるチャンスだ」と言う。津屋さんの提案を受けた県が、滋賀県文化振興事業団に事業実施を委託し、今回の見本市が実現した。
この見本市の担当となった事業団の事務局本部は、昨年5月、京都橘大学の木下達文助教授をはじめ津屋さんなど、地域や学校でのアートプログラムの実践や文化施設のボランティアに深い関わりをもつ9人で実行委員会を組織。文化施設が体験・交流プログラムのノウハウを公表することで、施設間やNPOとの交流・連携を目指す企画内容が決定した。
事業団の藤野ひろ美さんは「とにかく大変でした」と振り返る。事業の共通イメージがもてず、実行委員と何度も話し合いをもったという。
9月からは、地域と関わりの深い事業を行っている32施設を、事業団の職員3人で手分けして訪問。1時間半以上かけて事業説明と出展交渉をしたものの、「事業紹介とどう違うのか」「手の内を公開することに抵抗を感じる」など質問が噴出。最終的にすべての出展団体が決まったのは3週間前だった。
出展した文化施設からは、「最後まで事業趣旨がわからなかった」という意見がある一方、事業に肯定的な意見もたくさん出てきた。滋賀県立安曇川文化芸術会館の沢井さかゑさんは、県立近代美術館が開発したアート・ゲームを体験。これは、名画が印刷されたカードを使ったトランプゲームのようなもの。親カードとの共通点を説明できた手札は場に出すことができるという、作品の鑑賞力と説明力を競うゲームだ。「うちでも自分の詩を客にどれだけ届けられたかを競う“詩のボクシング”という事業をやっていますので、とても興味をもちました。ここの美術館と一緒に事業ができると面白いですね」
藤野さんは最後に、「アートや、地域というものを深く考える機会になりました。文化施設の横の繋がりもできつつあるし、市民やNPOなど立場の違う方々と事業を進めていく可能性と難しさも実感しました。この事業は、今後も継続していく予定なので、今回の反省を生かし、小さく産んで大きく育てる気持ちで頑張っていきたいです」と語ってくれた。
“連携”は、大きな可能性をもつ一方で、時に“自己変革”という大きな痛みを伴う。ここに生まれた小さく細い連携の輪を断ち切らず、どこまで育てられるか。これからが正念場だ。
(有本晃子)
●気軽にどこでもアート交流事業「アートはみんなのもの」
[主催]気軽にどこでもアート交流事業実行委員会、滋賀県文化振興事業団
[日程]2月12日、13日
[会場]滋賀県立草津文化芸術会館
地域創造レター 今月のレポート
2006.3月号--No.131