一般社団法人 地域創造

地域創造理事長 新年の挨拶

新年あけましておめでとうございます。

 

2006年1月1日

財団法人地域創造

 

 昨年は、市町村合併や指定管理者制度を迎え、公立文化施設を取り巻く状況が大きく変化した1年でした。最前線で、時には予想もしなかった事態に日々対応されている皆様の頑張りには、心から敬意を表します。まだしばらく落ち着かない状況が続くと思いますが、地域創造では、皆様のお役に立てるよう、精一杯の支援を行っていきたいと思っております。

 

 

  昨年は、多くの現場を見て回る機会に恵まれ、さまざまな感動や発見、刺激を受けた、本当に意義深い年でした。

 今年度から新規事業として始めた「公共ホール現代ダンス活性化事業」のワークショップ現場では、子どもの傷ついた心を癒す芸術文化の力を目の当たりにしました。この事業は、地域創造が今年度から2年間のモデル事業として実施しているもので、コンテンポラリーダンスのアーティストを公共ホールに派遣し、1週間程度滞在してもらい、学校でのワークショップや公演を行うものです。

 コンテンポラリーダンスは、若い人を中心に支持を集めている分野ですが、私にはよくわからない部分も多く、正直、期待半分不安半分のスタートでした。しかし、ワークショップを体験した金沢市味噌蔵町小学校の先生から「普段、言葉では友だちとコミュニケーションを取ることができない子どもが、アーティストからさまざまな身体の動きを引き出され、自然に友だちと関わることができており、変化の大きさに驚いた」という話を聞き、この事業をやってよかったと心から思いました。モデル事業としてもう1年続けて、その結果をみながら、今後のさらなる展開を考えていきたいと思っております。

 

 

  一方、今年7年目を迎える「公共ホール音楽活性化事業」の現場では、音楽を通じて地域の宝物が再発見されるという、感動的な出来事もありました。2年前に、登録アーティストの田村緑さんが、アウトリーチで島根県浜田市の原井小学校を訪問した際、音楽室の片隅に眠る1920年代製のスタインウェイを発見しました。このピアノは1934年に保護者会が寄付したものだったのですが、損傷が激しく、廃棄される運命にありました。しかし、私どもの事業を通じてこのピアノの価値を再発見した地元の方々が1,200万円もの寄附により、新品同様に修復され、昨年10月には復元記念リサイタルが実施されたのです。芸術文化を通じて地域のパワーが結集するというこうした感動的な出来事も、事業を続けてきたからこその成果だと思っております。

 

 

  「公共ホール音楽活性化事業」では、ソロ、多くても数人のグループによる演奏を提供してきましたが、音楽の集大成はやはりオーケストラにあるのではないでしょうか。そこで、本物の音楽を子どもたちに体験してもらう集大成として、来年度新たに「オーケストラプログラム」をモデル事業として実施することにしました。これは、オーケストラを地域に派遣し、コンサートと小中学校でのアウトリーチを行うというものです。企画・指揮・お話は、「オーケストラ人間的楽器学」シリーズで知られる茂木大輔さんにお願いしました。アウトリーチでは、子どもたちが集中できるよう、30人程度の小編成のオーケストラを少人数で聴いてもらう予定です。楽器の役割や特徴を鋭く分析し、ユーモアたっぷりに解説される茂木さんなら、さぞかし楽しい事業になるのではないでしょうか。

 また、新潟中越地震の被災地の皆さまに音楽を届ける「震災復興祈念プロジェクト(仮)」を4月からスタートします。現地の公立文化施設の方々と相談しながら、微力ではありますが、芸術文化を通じた支援を続けていければと思っております。

 

 

  阪神・淡路大震災10周年を迎えた昨年10月、被災地の一角に兵庫県立芸術文化センターが産声を上げました。当初の予定から10年遅れての開館となりましたが、復興のシンボルとして地元の方々の大きな期待をいただき、また、芸術監督の佐渡裕氏が情熱を傾けてプロデュースしている平均年齢27歳の兵庫芸術文化センター管弦楽団も設立されるなど、人に支えられ、人を育てる施設として船出することができました。こうした地域の公立文化施設の取り組みに触れるたびに、すべては“人”が基本なのだと改めて思います。

 現在、指定管理者制度の完全実施期限が9月に迫る中、各地でさまざまな議論が行われ、一部混乱が生じているようなことも耳にしています。私は、指定管理者制度とは、公立文化施設を設置した自治体が、その設置目的を実現するには誰が一番相応しいかを決める制度だと考えています。目的さえ明確であるならば、財団であれ、民間であれ、それを実現するに相応しいところ、芸術文化を通じて市民が幸せになれるところを選べばいい。

 もちろん管理等の効率を追求することも必要ですが、そこで生み出された余剰力でソフトの充実を一歩でも二歩でも進めなければならないほど、現在、地域にとって芸術文化政策は緊急かつ重要な位置づけになっています。新聞やテレビで信じられない事件を見聞きするたびに、心の問題にどう対処すべきか、公立文化施設の役割に今さらながらに思いを馳せています。

(聞き手:坪池栄子)

 

●遠藤安彦(えんどう・やすひこ)

1940年生まれ。自治省事務次官を経て、1998年2月から財団法人地域創造理事長。「兵庫芸術文化センター管弦楽団が初顔合わせした時に収録したCDをもらいました。初めて集って演奏したんだから当たり前だけど、お世辞にも感動的とは言い難い(笑)。でも、その成長を思うと本当に楽しみ。2年後に同じ曲を聴いてみたいですね」

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