一般社団法人 地域創造

神奈川県相模原市 立体作家11人展─時空を超えたメッセージ

 神奈川県相模原市で、「立体作家11人展─時空を超えたメッセージ」と題した意欲的な展覧会が開かれている。これはアートと文化財のコラボレーションをテーマにしたものだが、縄文時代中期の大集落跡、国指定史跡の「勝坂遺跡」、古墳時代の小円墳群のひとつで市指定史跡の「当麻谷原古墳(1号墳)」、江戸時代中期の県指定重要文化財「旧青柳寺庫裡」を移築した「相模原市古民家園」の3カ所と、相模原市民ギャラリーを会場に、彫刻やインスタレーション62点を展示。参加作家は相模原ゆかりの11人で、20歳代から70歳代までと幅広い。
 「アイデアを思いついたのが6~7年前。ようやく開催にこぎつけることができました」と言うのは相模原市民ギャラリー学芸員の柳川雅史さん。彫刻は野外で鑑賞するのが真骨頂だろうと、より作品が生きる魅力的な場所を考えているうちに、『遺跡しかない』と思ったんです」
 遠い過去の先人と現在の私たちを、立体作品を通して結び付けてみよう、タイムトラベルをするような展覧会にしよう…と構想は膨らみ、“時間”をテーマに作家を選定、企画は具体化していった。遺跡を使うための許可申請など、手間や時間のかかる手続きが必要だったものの、柳川さんの前任が文化財保護係学芸員だったこともあり、アートと文化財を繋げる初めての試みが実現したのである。

  相模原駅ビル内に「相模原市民ギャラリー」が開館したのは1997年のこと。自主企画は年3、4本、貸しスペースとして年間40近い絵画・写真グループが展覧会を開催している。当初は学芸員を置かず、自主企画の内容は名作鑑賞が中心だったが、2000年に柳川さんらが配属となってからは、岩橋英遠や上田薫、吉川啓示など地元の作家を丹念に取り上げた企画展や、「セブン・アーティスト」「オープン・スタジオ」展などといった若手作家の発掘に力を注いでいる。
 相模原市周辺には女子美術大学、多摩美術大学、東京造形大学があり、近年、多摩美術大学学生による「橋本アートタウン」や、女子大生と相模大野銀座商店街の「街路灯プロジェクト」など、大学生と地元商店街・企業などが連携した芸術文化活動が盛んになっている。また、相模原市役所では女子美術大学と文化協定を結び、収蔵作品の貸し借りや、公共下水道の工事用防音壁に学生の作品を展示するといった事業を始めている。こうした状況を踏まえ、市民ギャラリーでも2001年から、美大の学生を対象とした「エキシビジョン・プログラム(学生企画展)」をスタートした。これは、美術展のプロデューサーを育成する事業で、学生が自らの手で美術展を企画、運営し、すでに第3期生が次の展覧会の準備を進めている。
 市民ギャラリーのこうしたさまざまな取り組みの背景には、柳川さんが文化財保護係時代に経験した「相模原市民俗芸能大会」の運営などを通して、“地域の文化資源の豊かさ”に気づいたことが大きく影響していると言う。
 「東京や横浜に近いせいもあって、相模原の人は『いいところなんてない』と諦めているところがあります。でもそれは地元の魅力を知らないだけ。歴史を紐解けば紐解くほど面白いし、新しいものや別ジャンルとのコラボレーションを通して、魅力を提示することもできるはず。文化に携わる市民をバックアップして、精神的に支えていき、文化を創造し、次の世代に残していくのが行政の役割のひとつと考えています」
 今回、そのバックアップの一環として「ギャラリー・スペース游」「アートコテージぱぴるす」という市内の民間ギャラリーと連携し、「立体作家11人小作品展」を同時開催した。
 少ない予算で、どれだけ面白い仕掛けができるか。最後に柳川さんは発想の秘密を教えてくれた。大のプロレスファンの柳川さん、実はインディーズのプロレス団体のイベントの打ち方を大いに参考にしているのだとか。
 「彼らはどうやって人を集めるか、常に知恵を絞っています。大きな美術館に比べればここでできることは限られていますが、メジャーの反対のマイナーではなく、“インディーズ”というポジションで輝きたいんです。これからもアーティストの魅力を最大限に引き出し、観る人に楽しんでもらいたいと思います」

(ライター・土屋典子)
「立体作家11人展─時空を超えたメッセージ」
[会期]11月5日~12月11日
[主催]相模原市教育委員会
[企画]相模原市民ギャラリー
[会場]相模原市民ギャラリー(メイン会場)、勝坂遺跡(国指定史跡)、当麻谷原古墳(市指定史跡)、旧青柳寺庫裡(県指定重要文化財、相模原市古民家園内)
[出展作家]天野裕夫、川島茂雄、後藤良二、清水一直、高木辰夫、堤一彦、中野浩二、名坂健、別府博文、松本雄治、安丸信行

 

 

地域創造レター 今月のレポート
     2005.12月号--No.128

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