講師 津村 卓(地域創造プロデューサー)
年間総事業費を割り出し、全体での収支バランスを取る
公立劇場の担当者には説明するまでもないが、劇場の事業は、設置主体である地方公共団体からの「委託費」で運営される場合と、「補助金」で運営される場合がある。
「委託費」の場合は、事業収入などは事業を委託した地方公共団体の「歳入」となるため、一応の収入見込みは立てるものの、基本的に委託費の範囲で当該事業を実施すればよい。
それに対し、「補助金」で運営する場合は、「事業収入(チケット収入・広告収入・販売収入・利用料金制のところは利用料等)」「補助金」、そして「外部資金(国や助成団体からの助成金等)」がある場合はそれも含めて予算として計上し、運用することになる。したがって、事業収入が多くなればそれを事業費として使えるが、減ると事業が実施できなくなるなど、より厳密な運営が求められる。今回は、この「補助金」での運営を前提として、劇場の年間予算の作成と管理について解説する。
●予算作成スケジュール
劇場の年間予算のおおよその作成スケジュールをまとめたのが【表1】である。劇場だからといって特別な進行があるわけではなく、基本的に行政の予算編成の日程に合わせて、劇場サイドで予算を詰めていくことになる。ただし、公演の企画は単年度予算の進行より早いため、前年度ベースの予算枠を想定しながら交渉を進めることになる。
8月中に来年度事業の概算を、一度、所管課に提出するが、これはあくまで目安的なもの。こうした概算を財政が取りまとめて、来年度予算の骨格となる「予算要求限度額」が定められる。この限度額に基づいて、9月~10月にかけてプログラムの内容を見直し、詳細資料を作成する。
注意しなければいけないのは、これが予算要求資料のもとになるので、来年度事業についてはこの9月~10月にはめどをつけておかなければならないということ。また劇場によってはこの時期に「プログラム会議」を開くところもある。
なお、指定管理者制度に移行した場合、予算についても協定書で取り決めるため、前述のような予算折衝やスケジュールではなくなる。
表1 予算作成スケジュール例
時期 | 内容 |
以前 | 今年度ベースの予算を前提に、必要に応じて事業企画を進行。 |
8月~9月 | 今年度ベースの予算を前提に、来年度事業の概算(予算枠)を作成。
所管課で集約し、財政と調整を行い、予算要求限度額が定まる。
※一般に県・政令市の予算作成スケジュールは市町村より早い。 |
9月~10月 | 8月末~9月にかけて来年度事業を検討する「プログラム会議」を実施。 おおよそのプログラム内容を作成する。 ※これに合わせて秋に理事会を開き、プログラムと予算を諮るところもある。 このプログラムをもとに、詳細資料を作成し、所管課に提出。
所管課で予算要求資料を作成し、予算要求を行う。 ※外部資金(国や助成団体からの助成金等)の採択はまだ決定していないため見積もりとし て算入し、調達できた場合の予算措置を担保しておく。 採択決定は1月~3月。場合によっては議会後にずれ込むこともある。 |
12月~1月 | 財政との最終折衝。 |
1月 | 首長説明により予算編成終了。 |
2月~3月 | 議会に予算を上程し、承認を得て、確定。
並行して理事会にプログラムと予算を諮り、承認を得て、確定。
※黒字になった場合は、年度末に補正予算を組んで補助金を返納する、来年度予算に繰り 越す、基金を積むといった方法がある。
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●年間総事業費を割り出す
事業ごとではなく、年間で予算を管理する場合、全体での収支バランスをどのようにとっていくかが重要となる。委託費で事業を実施すると、委託費1億円なら年間の総事業費は1億円だが、補助金の場合は、事業収入を増やすことができれば総事業費は1.5倍にも2倍にもなる。
個別事業費の積み上げから年間予算をつくることが基本だが、その前に、年間総事業費がどの程度見込めるかという大枠を割り出してみるといいのではないだろうか。
例えば、補助金総額5,000万円の場合、それをベースにしてどのぐらいの事業ができるかを考えていく。まず、教育普及事業のような収益の上がらない事業の予算規模を決める。それが1,000万円だとすると、残りの補助金が4,000万円となる。外部資金が2,000万円見込めるとして、補助金と合わせるとベースの金額は6,000万円となる。
チケット収入で事業費の60%回収を目標とすると、補助金・外部資金でカバーするのは事業費の40%、つまり総事業費は6,000万円÷0.4=1億5,000万円となる。この総事業費を事業毎に割り振ってくわけだが、すでに決まっている事業から予算を割り振っていくと、残りどのぐらいの事業が実施できるかわかるわけだ。
●年間予算の管理
演劇公演の場合、事業費が確定するのが遅く、事業収入など不確定要素が多いため、個別事業の予算と年間予算を平行して管理することが重要となる。こうした予算管理のためのツールとして、私が使っているのが【表2】の管理表である。事業ごとに収入内訳を作成して管理するとともに、事業費の増減、チケット収入の増減を常にチェックし、年間の総事業費と補助金総額が予算どおりになるよう全体で調整を行う。
最大の課題は補助金総額を絶対に超えないようにすること。そのためには、結局、収入を増やすか、事業費を減らすかして調整するしかないが、プロデューサーとしては神経をすり減らす作業である。
表2 年間予算管理シート
日程 | 演目 | 公演データ
(会場/ステージ数/総キャパ/チケット価格/作・演出等)
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総事業費 (千円) |
収入内訳 | 入場率 (動員人数) |
補助金率 | 事業形態 | 事業種類 | |||
チケット収入 | 補助金充当 | 外部資金充当 | |||||||||
公 演 事 業 |
○月○日 ~○日 |
○○○ | 2,000 | 900 | 1,000 | 100 | 90% (900) |
50% | 主催 | 市民参加(ミュージカル) | |
△月△日 | △△△ | 7,000 | 4,875 | 2,125 | 0 | 65% (975) |
30.4% | 主催 | 鑑賞(演劇) | ||
小計 | 20,000 | 12,000 | 5,000 | 3,000 | |||||||
育 成 ・ 普 及 事 業 |
○月○日 ~○日 |
子どものための演劇ワークショップ(計7回) | 700 | 0 | 700 | 0 | 100% | 主催 | |||
△月△日 | 発表会 | 1,000 | 100 | 800 | 0 | 90% | 主催 | ||||
小計 | 3,500 | 500 | 3,000 | 0 |