●モデル事業として全国7都市で実施
地域創造では、今年度から新たに公共ホール現代ダンス活性化事業(以下、ダン活)をスタートしました。これは、公募により選考したコンテンポラリーダンスの登録アーティスト(2年登録制)を公立ホールに派遣し、1週間程度滞在してワークショップと公演を行う事業です。
身体表現によるコミュニケーション能力の低下が指摘される昨今、身体の表現力を追求するコンテンポラリーダンスの社会的な役割に注目が集まっています。こうした社会的なニーズに応えるとともに、地域ではふれることの少ないコンテンポラリーダンスを体験する機会の提供を目的として、創設されました。
平成17・18年度の登録アーティストは新進アーティストから海外でも高く評価されているベテランまで10組。参加館は、多数の問い合わせをいただいた中から、今年度はモデル事業ということもあり7館で実施することになりました。今号では、この事業の皮切りとなった金沢市民芸術村(石川県)と斜里町公民館ゆめホール知床(北海道)での取り組みをご紹介します。
●身体と心の壁を取り払う山田うんのワークショップ~金沢市民芸術村
金沢市民芸術村に滞在したのは、ダンサー、振付家として幅広い分野で活躍している山田うんさんです。「4月の全体研修会でパフォーマンスを見てお願いしたいと思った」という金沢市民芸術村・ドラマ工房ディレクターの市川幸子さん。学校との繋がりをつくるところから企画を立ち上げ、アーティストが決まって3カ月という短期間で調整。9月27日~10月2日にかけて味噌蔵町小学校、北陸学院中学校と、ドラマ工房での一般向けワークショップを行いました。
3日間通しで行われた一般向けには、演劇経験者を中心に16名が参加。「即興で動く」をテーマに、1日目は一番身近な歩き続けることからスタートしました。身体を動かすことへの抵抗がなくなったところで、ミミズ・ゴキブリ(突然ミミズが身体の中に入ってきて這い回る→突然ゴキブリが出てきて踏みつける)など即興的な反応や動きを引き出すワークが行われました。
味噌蔵町小学校では、3年生と6年生の2クラスで実施。うんさんは教室に入ると、そのまま黒板に「山田うん ダンサー 女」と書き、無言で子どもたちと握手。一人ひとりの反応に応じて即興でリアクションする「握手ダンス」で子どもたちの気持ちをすっかり虜にしてしまいました。自分の名前をひらがなにして、その中から3文字を使い、ダンサー名を考えた子どもたちは、うんさんの手のひらパフォーマンスに誘われるまま体育館に移動。
担当の上野千恵子先生は、「6年生ともなると、警戒心、反発心が強く、人の言うことを聞かない子もいます。でも、うんさんは、普段の授業とは全く違うアプローチで子どもの心を開き、新しい感覚を教えてくれた。3年生も、自分で発想する課題を与えるといつも固まってしまう子が、名前の並び替えができるとスムーズに集団に溶け込み、積極的になった」と言い、子どもたちの変化に驚いていました。うんさんは学校でのワークショップの終わりに、「人それぞれにオリジナルな動きがあります。自分のオリジナルな動きを探して、これからも表現のストックを増やしていってください」と児童たちに話していました。
◎市川幸子さんコメント(金沢市民芸術村)
コンテンポラリーダンスをする上では、自分の中の壁をいくつも壊さなくてはいけない。それを体験すること、またそうしてつくられたダンスが物語るものを感じることが、いかに大きな体験かを実感できた。コンテンポラリーダンスは、極端に言うと指さえ動けばできる表現。例えば、体の不自由な人もその人の身体を思いっきり開いて、個性を発揮できれば立派に身体表現ができる。そういう意味で、全ての人に開かれたジャンルなので、今回のように小学校、中学校に限らず、多様な人々にアプローチしていけたらと思っている。
●高校生が砂連尾+寺田のパフォーマンスに釘付け~斜里町公民館ゆめホール知床
北海道の斜里町には、コンテンポラリーダンスの新進振付家の登竜門であるトヨタ・コレオグラフィーアワード第1回受賞者、砂連尾理(じゃれおおさむ)さんと寺田みさこさんのデュオが滞在しました。世界自然遺産に登録された秋の知床は、高く澄み渡った空に斜里岳が映え、ワークショップで訪れた斜里高校近くの斜里川を数え切れないシャケが上る、別天地でした。
中央公民館機能をもつゆめホールでは、地元のバレエサークルのメンバーを中心とした一般向け、小学生・中学生向けと斜里高校でのワークショップを実施。高校では女子の創作ダンスの時間に行われましたが、少しでも気を抜くと集中が途切れ、自分に対する意識から離れられない思春期の自我の強さにさすがの二人も最初は戸惑い気味でした。しかし、寺田さんの解放されたしなやかな身体(心)を目の当たりにし、直接触れ合ううちに、身体(心)が解れ、少しずつ自分の動きが出るように。
男子も含め、350人の全校生徒を前に、体育館で行われたミニ・パフォーマンスは感動的でした。トレーニングウェアのままの自然体で登場した二人は、国際結婚をした夫婦にインスピレーションを得てつくったという『あしたはきっと晴れるでしょ』の一部を披露。これまで見たことのない表現だからこそ成し得た集中力を高校生から引き出し、男女の身体(感情)の動きと会場が一体になっていました。
◎岩崎みさ子さんコメント(北海道斜里高校教諭)
砂連尾さんの「踊りたくなかったら踊りたくなるまで待とう」という言葉が印象的だった。高校時代は自我の芽生えの時期。恥ずかしがって少ししか動けない生徒も多かったが、相手の身体を動かすワークの中では、微妙な動きの中に普段の生活ではありえない人間関係が現れていて、感動的だった。ゆったりとした時間の中で、落ち着いて自分・他人の身体を意識できたことが生徒の内面に新しい発見を生んだと実感している。この気づきを今後の授業にも繋げたい。
◎砂連尾理+寺田みさこコメント
最終日にホールで公演したが、都市でやるのとは全く違った体験だった。都市のお客さんはある程度コンテンポラリーダンスを見慣れた「観客」という集合体なので、評価の目に晒されているという感覚が常にある。しかし今回は、1週間滞在し、町の人と触れ合ってから公演を行ったので、客席に座っている一人一人が個人として強く意識された。目の前に座っているコンテンポラリーダンスを全く知らない人たちにどうやったら伝わるかと真剣に考えながら踊ったので、いつもとは違った感覚で集中できた。これは公演をするということの原点に立ち戻る、とても刺激的な体験だったと思う。
●公共ホール現代ダンス活性化事業平成17・18年度登録アーティスト(50音順、ソロ・デュオの順)
伊藤千枝、岩下徹、笠井叡、勝部ちこ、北村成美、室伏鴻、山田うん、山田珠実、上村なおか+笠井瑞丈、砂連尾理+寺田みさこ
●公共ホール現代ダンス活性化事業平成17年度実施会場(日程/出演アーティスト)
◎金沢市民芸術村(9月27日~10月2日/山田うん)
◎斜里町公民館ゆめホール知床(10月4日~8日/砂連尾理+寺田みさこ)
◎名取市文化会館(11月7日~12日/勝部ちこ)
◎仙南芸術文化センターえずこホール(2006年1月10日~15日/伊藤千枝)
◎多治見市文化会館(2月1日~5日/北村成美)
◎茅ヶ崎市民文化会館(2月28日~3月5日/山田うん)
◎豊岡市民プラザ(3月1日~6日/砂連尾理+寺田みさこ)
*日程は変更になる場合があります。
●公共ホール現代ダンス活性化事業に関する問い合わせ
芸術環境部 畑間・南谷 Tel. 03-5573-4067