一般社団法人 地域創造

「東京芸術見本市2005」報告

「東京芸術見本市2005」報告 2005年9月12日~15日

●今年は音楽にスポット、東京芸術見本市2005開催

 国内外の舞台芸術関係者、アートカンパニーと、全国の公立ホール・劇場の運営団体等が一堂に会する「東京芸術見本市2005」が、9月12日から15日まで東京国際フォーラムと丸ビルホールを会場に開催されました。
 今回の見本市は、これまで取り上げることの少なかった音楽(特に邦楽)にスポットを当てたのが特徴です。また、ブース出展者を含めて参加者がすべてのショーケース、セミナーに来場できるようプログラム・スケジュールを工夫しました。
 財団法人地域創造は、第1回から主催団体の構成メンバーとして参画し、毎回、地域の公立文化施設に関わる重要課題を取り上げたセミナーを企画してきました。今回も全国公立文化施設協会との共催により市町村合併と指定管理者制度をテーマにしたセミナー「公立文化施設はどう変わる!?」を開催しましたが、あまりの関心の高さから入場していただけない事態となり、大変ご迷惑をおかけしました。

 

●音楽をはじめショーケースが充実
 実際のパフォーマンスをできるだけ多く見たいというご要望に応え、今回の見本市ではショーケースを大幅に拡充。邦楽ニューウェーヴ、サウンドアートやテクノロジーサウンドなどの最先端音楽、コンテンポラリーダンスなど合わせて計29組(オープニングイベント含む)のアーティストがライブパフォーマンスを行いました。
 特に人気が高かったのは、邦楽とコンテンポラリーダンスのショーケースです。邦楽では、林英哲が率いる若手奏者たち英哲風雲の会のメンバー4名による和太鼓アンサンブル、十七絃箏を自在に操る栗林秀明とコントラバス奏者齋藤徹のセッション、そして津軽三味線のホープ新田昌弘と全国大会に最年少で優勝した弱冠15歳の浅野祥がラストを締めくくるという贅沢なプログラム。特に新田とアメリカから来日したギター奏者ディーン・マグロウによるコラボレーションは、日本と西洋の楽器の出会いがお互いの魅力を引き出し合う、ニューウェーヴと呼ぶに相応しいパフォーマンスで、会場から惜しみない拍手が贈られていました。
 コンテンポラリーダンスでは、伊丹アイホールが京阪神のアーティスト──山下残、BABY-Q、砂連尾理+寺田みさこという全国的にも注目されている若手──と共同制作した3作品を30分のショートバージョンで披露。いずれも創作意欲溢れる取り組みで、地域の公立ホールのプロデュース作品を見本市で全国発信する試みとして注目されました。
 難解なサウンドアートなどのショーケースもありましたが、解説付きのものも多く、初心者のホール職員が普段触れることのない先端アートに対する知見を広げるには貴重な機会になったのではないでしょうか。

 

●指定管理者制度に高い関心
 「公立文化施設はどう変わる!?」のパネリストとして地域の事例を紹介したのが、平成17年4月に4町が合併して誕生した朝来市(兵庫県)の藤井保雄氏(朝来市文化会館・和田山ジュピターホール副館長)と、指定管理者の導入対象になっている市内17館の文化施設全てを公募することが決定し、すでに民間2館、民間と財団のジョイントで1館を運営することになった横浜市の高橋保夫氏(文化芸術都市創造事業本部文化政策課)。
 藤井「合併して一つの市にホールが3つになった(800席、418席、300席)。それぞれ所管も違っていたが、合併協議の中で市長部局に新たに芸術文化課を設けて直営で運営することを選択した」
 高橋「みなとみらいホール、横浜能楽堂、横浜市美術館、にぎわい座という専門館については、財団のノウハウや能力を活用する施設として考えていた。しかし、市長の原則公募という方針により、民間事業者もこうした専門施設にフィフティフィフティの条件で応募できるよう検討している」
 渦中の地域からの生々しい証言の数々に、公立文化施設が革命的な変革期を迎えていることをひしひしと感じた2時間でした。

 

●コミュニティ・ダンスの本場に学ぶ
 地域創造では、今年度から新たに公共ホール現代ダンス活性化事業(以下、ダン活)をスタートしました。この事業は、コンテンポラリーダンスの登録アーティストを地域の公立ホールに派遣し、1週間程度滞在してダンスの普及事業を行うというものです。こうしたコミュニティ・プログラムの先進地であるイギリスから第一線の専門家クリストファー・トムソン氏(ザ・プレイス ラーニング・アクセス部門ディレクター)を招き、ダン活の参加館の担当者も交えたシンポジウムを開催しました。
 「イギリスには国の機関であるナショナル・ダンス・エージェンシーが全土に9カ所あり、アーティストの育成やダンスによる地域活動を実施している。そのコミュニティ・プログラムの総数は年間7万5,000件に上る。日本でもこうした活動を広げていくためにイギリスの事例が参考になれば」と、シンポジウムを企画した佐東範一氏(JCDN代表、ダン活コーディネーター)。
 トムソン氏は、「イギリスでは、ラバンの提唱により、1950年代から学校教育の中にダンスが組み入れられた。彼は“すべての人にユニークなムーブメントがある。一緒にダンスをすることで失ったコミュニティの気持ち(連帯感)を取り戻せる”というダンスの民主化とコミュニティにとっての重要性を説いた」と、コミュニティ・ダンスが始まった経緯を説明。こうした考えが受入れられた背景として、「コミュニティの崩壊」「教育の意識変化(子どもの教育の重視、教育の機会均等)」「コミュニティ・プログラムに対するアーツ・ファウンデーションからの資金援助」「仕事を求めるダンサーの存在」といった要因を指摘しました。
 日本の現状と重なる状況に、参加者は熱心に耳を傾けていました。

 

 この他、国際交流基金やブースに出展している海外のアーツ・サービス・オーガニゼーションの企画により、インドネシア、ベトナム、スペイン、オーストラリア、イギリスなどの舞台芸術のトレンドが映像で紹介されるなど、インターナショナルな見本市となりました。

 

「東京芸術見本市2005」地域創造関連事業
(財)地域創造・(社)全国公立文化施設協会共催シンポジウム「2005!公立文化施設はどう変わる!?─市町村合併・指定管理者制度をむかえて─」
[会期・会場]9月14日 東京国際フォーラムG502会議室
[コーディネーター]吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所 芸術文化プロジェクト室室長)
[パネリスト]中川幾郎(帝塚山大学大学院教授)、藤井保雄(朝来市文化会館 和田山ジュピターホール副館長)、高橋保夫(横浜市文化芸術都市創造事業本部 文化政策課)

 

「東京芸術見本市2005」地域創造関連事業に関する問い合わせ
芸術環境部 水谷敏司 Tel. 03-5573-4078

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