●親から子へ「福」を伝える伝統芸能の世界を堪能
毎回テーマを決めて、日本各地の伝統芸能・古典芸能などを2日間にわたって紹介する「第5回地域伝統芸能まつり」が、2月26、27日の両日、東京・渋谷のNHKホールで開催されました。この催しは、日本各地の脈々と受け継がれてきた芸能を保存・伝承することにより、地域の活性化を図るとともに、郷土愛と地域づくりの機運を育む契機となることを願って実施しているものです。
平成12年度からスタートし、「怨霊」「恋(こひ)」「天地(あめつち)」「変化(へんげ)」の次にテーマとして取り上げたのは「福」。北は青森から南は沖縄まで、全国14の地域から伝統芸能が集結。併せて、狂言、文楽、歌舞伎の3つの古典芸能が披露されました。司会進行はNHKアナウンサーの石澤典夫さんと女優の三田寛子さん。終始和やかなムードの中、七福神が登場する正月の予祝行事や近所が集まって笑い合うという珍しい笑いの神事など「福」にちなんだ伝統芸能が次々に登場しました。
●ユーモラスな防府の「笑い講」
1日目は、ハラハラ見守る観客をよそに1つの臼で6人がリズミカルに餅をつく、埼玉・川越市の「南大塚の餅つき踊り」でスタート。次に登場した福島・二本松市の「石井の七福神」では、毘沙門天役がその道50年の大ベテランなのに対し、弁天役が12歳の男の子と、伝統が世代を超えて受け継がれていく様を実感することができました。
「笑う門には福来る」を文字どおり実践しているのが山口・防府市の「笑い講」。800年前の鎌倉時代から続いている行事で、神主のお祓いの後、2人が榊を持って対座。収穫と豊作などを願って3度、大声で笑い合います。最初はあっけにとられていた会場にもやがて笑いが伝染。最後には三田さんも加わって、会場は大きな笑いの渦に包まれました。
作曲もこなし、オープニングでも登場した81歳の小口大八(だいはち)さんが率いるのは、長野・岡谷市の御諏訪太鼓保存会の皆さん。最年少の8歳から81歳までの総勢20人を超える奏者が、笛やほら貝に合わせて打ち鳴らす太鼓の迫力に圧倒されているうちに、1日目が幕を閉じました。
●コミカルな太鼓から万歳まで
2日目最初のプログラムとなる、鹿児島・伊集院町の「徳重大バラ太鼓踊り」では、「ウバラデコ」と呼ばれる直径1.5メートル、重さ30kgほどの円盤型大太鼓が登場。ステージ中央で打ち鳴らされる鐘にあわせて、その太鼓をお腹に付けた10人が一斉に叩きながら、円を描くように走り出します。次第に速くなるテンポに、とうとう最後には将棋倒しになるというドタバタぶり。実は「マクリ」と呼ばれる演出のひとつで、出演者は「大きな太鼓を付けているので、一度倒れると一人では起き上がれないし、やっぱり怪我も多いです」と汗びっしょりでした。
続いて、伊勢万歳、加賀万歳、伊予万歳の違う地域の個性を見せてくれた古典万歳や、鈴木健二氏による歴史紹介で始まった農具の呼び名に由来する青森・八戸市の「八戸えんぶり」、沖縄独特の文化を感じさせる琉球舞踊3曲が披露されました。また、広島・北広島町の「本地の花笠踊り」では、全身をすっぽり覆うキュートな花笠を付けた踊り子が登場。太鼓を叩きながらの華麗な舞が披露されましたが、インタビューでマイクを向けると実は男性。歴史を遡れば、敵の目を欺くための仮装だったとか。現在、地元では豊年踊りとして伝えられているとのこと。
フィナーレは、福岡・大牟田市の「大蛇山」。ステージ中央に、高さ6メートル、長さ12メートルの大蛇が登場。大勢に引かれ、煙を吐き出す様に会場は圧倒されました。最後に怖がる子どもを大蛇に噛ませるという「かませ」という儀式が行われ、子どもたちの無病息災を願いました。
●人間国宝からロックまで(古典芸能)
今年は古典芸能として、狂言、文楽、歌舞伎の3つのジャンルが登場しました。なかでも板東三津五郎氏らによる歌舞伎は地域伝統芸能まつりでは初登場。客席からのかけ声とともに、舞踊『お祭り』が披露されました。そのほか『ロック曾根崎心中』ではまつりのテーマ曲も手がけた宇崎竜童氏が、「演奏しているとだんだん人形に感情移入してきます」と言えば、桐竹紋寿氏が「ロックのリズムは意外に人形が動かしやすい」と相思相愛ぶり。貴重なコラボレーションとなりました。また、山本東次郎氏によると豊臣秀吉も好んで演じたという大蔵流狂言『居杭(いぐい)』を上演。居杭が姿を消すことができる頭巾を被って逃げ回る姿は、滑稽さの中に狂言の奥深さが伝わってくる舞台でした。
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今年も約4,400名の観客が舞台を堪能しました。そのほか、各地方の名産などを販売するPRコーナーはミス沖縄や名産品マスコットなども登場。多くの人々で賑わいました。
今回の「地域伝統芸能まつり」は、2日間で計15演目が登場しましたが、親子2代で出演するなど、幅広い年齢層の方々が多く出演されていました。地域にしかない伝統的な芸術・文化が親から子へ、子から孫へ伝えられることこそ本当の「福」なのかも知れません。
●第5回地域伝統芸能まつり
[日程]2月26日、27日
[会場]NHKホール(東京都渋谷区)
[主催]地域伝統芸能まつり実行委員会、財団法人地域創造
[実行委員]梅原猛、遠藤安彦、鎌田東二、三枝成彰、下重暁子、鈴木健二、関根昭義、中沢新一、山折哲雄、山本容子、香山充弘
[後援]総務省、文化庁、NHK
◎出演芸能等
2月26日:
南大塚の餅つき踊り(埼玉県川越市)、石井の七福神(福島県二本松市)、笑い講(山口県防府市)、狂言『居杭(いぐい)』大蔵流、北之幸谷の獅子舞(千葉県東金市)、文楽人形『ロック曽根崎心中』、御諏訪太鼓(長野県岡谷市)
2月27日:
徳重大バラ太鼓踊り(鹿児島県伊集院町)、古典万歳:伊勢万歳(三重県鈴鹿市)/加賀万歳(石川県金沢市)/伊予万歳(愛媛県松山市)、八戸えんぶり(青森県八戸市)、琉球舞踊(沖縄県)、歌舞伎舞踊『お祭り』、本地の花笠踊り(広島県北広島町)、三原やっさ踊り(広島県三原市)、大蛇山(福岡県大牟田市)
●平成17年度 地域伝統芸術等保存事業助成 内定事業一覧
【映像記録保存事業】
◎青森県鶴田町「鶴田町西中野組獅子舞」
◎岩手県花巻市「花巻の伝統技能『南部系こけし』(鳴子系こけし・煤孫系こけし・音治系・秀吉型こけし)」
◎秋田県西木村「戸沢ささら」
◎山形県新庄市「新庄まつり」
◎福島県二本松市「鈴石神社の太々神楽」
◎福島県原町市「(1)馬場の神楽七芸 (2)北萱浜の天狗舞」
◎福島県船引町「(1)光大寺の三匹獅子舞 (2)大倉の太々神楽」
◎茨城県阿見町「君島ひょっとこ」
◎新潟県三川村「石戸獅子舞」
◎富山県小矢部市「願念坊踊り」
◎長野県飯山市「さつまおどり」
◎長野県飯田市「黒田人形」
◎石川県輪島市「三井町の獅子舞」
◎石川県津幡町「祭り 獅子舞」
◎和歌山県熊野市「花の窟お綱かけ神事」
◎山口県美和町「(1)金山神楽 (2)金山獅子舞 (3)俵もみ」
◎香川県仁尾町「八幡神社・賀茂神社 祭礼」
◎福岡県篠栗町「太祖神楽」
◎佐賀県基山町「園部くんち」
◎宮崎県小林市「(1)輪太鼓踊り (2)岩戸神楽」
◎宮崎県三股町「(1)中米ジャンカ馬踊り (2)檪田ジャンカ馬踊り (3)上米棒踊り (4)新馬場棒踊り (5)餅原棒踊り (6)小鷺巣大太鼓踊り (7)梶山棒踊り (8)轟木棒踊り (9)大野棒踊り (10)仮屋棒踊り (11)蓼池奴踊り (12)田上俵踊り (13)谷太郎踊り」
◎鹿児島県和泊町「(1)竿打ち踊り (2)やっこ (3)手々知名あしび踊り (4)畦布獅子舞 (5)せんする節 (6)仲里節 (7)収納米 (8)忍び踊り (9)その他収録可能な芸能」
◎沖縄県名護市「山本川恒(やまもとせんこう)の民話」
◎沖縄県知念村「久高島の年中行事」
【都道府県イベント】
◎山形県「羽黒山芸能ファンタジー2005」
◎愛知県「ふるさと芸能祭(仮称)」
◎三重県「「紀伊半島民俗芸能祭2005」開催事業」
◎大阪府「第47回近畿東海北陸ブロック民俗芸能大会」
◎鳥取県「第41回「郷土の民俗芸能大会」」
◎広島県「けんみん文化祭ひろしま'05総合フェスティバル~神楽の華咲く中国山地~」
◎徳島県「伝統芸能フェスティバル~阿波人形浄瑠璃と農村舞台の未来~」
◎沖縄県「民俗芸能のつどい(仮称)」