一般社団法人 地域創造

石川県金沢市 金沢21世紀美術館 「ミュージアム・クルーズ・プロジェクト」

 昨年10月9日に開館して約1カ月半。再び金沢21世紀美術館を訪問した。
 目的は、「子どもたちと歩む現代美術館」のメッセージとして企画された、開館記念特別プログラム「ミュージアム・クルーズ・プロジェクト」を取材するためだ。このプロジェクトは、昨年11月2日から3月4日まで、約4カ月かけて、金沢市内の小学校・中学校・養護学校等全95校の全児童4万人余りを金沢21世紀美術館に招待するという前代未聞のプロジェクト。普及活動として小中学生を美術館に招くこと自体は珍しくないが、人口45万人の都市で短期間に全小中学生が全く同じ展覧会を体験するなど、聞いたことがない。
 プロジェクト期間中は、毎週火曜日から金曜日まで、基本的に午前中は小学校、午後は中学校が、最多で700名近い生徒を引き連れて美術館にやって来る。一般客に混じって見学する彼らをサポートするのが、学芸員2名、プロジェクト委託スタッフ6名、そしてクルーズ・クルーと呼ばれるボランティア市民112名である。ミュージアム・クルーズ・プロジェクトのある一日を追った。

  12月14日。午前中は、9時半から11時半までは県立盲学校の小・中・高校生が15名、午後1時半から3時半までは泉中学校の全校生徒416名がやって来た。
 あらかじめ「まるびぃとの遭遇」と題されたマップ付きのカラフルなガイドブック(金沢美術工芸大学の先生、学生と共同で製作)が配付されており、子どもたちはそれを片手に会場を歩き回る。作品のところには黄色いバンダナを付けたクルーズ・クルーが1、2名待機し(作品監視員とは別)、また、通路やロビーなどにもいて、合わせて40名ほどが何くれとなく子どもたちの相談に乗る。コースやグループ分け、事前学習、事後学習、諸々のルールなどについては参加する学校に任されている。
 盲学校の子どもたちには、クルーズ・クルーがマンツーマンで対応していた。美術館の円形のかたちをパーツに分けて、帽子、手袋、洋服などにした「着るまるびぃ」のコーナー。その洋服を着せてもらった子どもが、円形のボール紙でつくった触れるパズルで「この形で出来たのが、この帽子」とクルーから説明してもらっていた。
 クルーの取りまとめをしているスタッフの木下良子さんは、「あれはクルーの方が自主的につくってくれたもの。他にも作品の人気投票用のボードや解説書など、クルーの方たちがアイデアを出して準備してくださったものがたくさんあります。子どもたちを案内する度に、ああすればよかった、こうすればよかったという思いがいっぱい出てくるみたいです」と言う。
 午後からは制服を着た中学生たちで美術館は埋め尽くされていた。こうした子どもたちの様子を見ている回りの大人の顔に、なぜか笑みが浮かんでいるのがとても印象的だった。
 午後3時半。クルーズ参加校の先生たち50名余りが視察にやってきた。スタッフが作品の説明をしながら約1時間半にわたって館内を案内して歩く。5時半はスタッフの反省会、7時からは美術館友の会のためのクラシックコンサートが予定されていた。敷地内のアーティスト・イン・レジデンス施設では、作品づくりも行われている。美術館は眠らない──その言葉が終始頭の中を過っていた。

(坪池栄子)

 

◎黒沢伸コメント(金沢21世紀美術館エデュケーター)

 「この企画を実現するために昨年6月から全小中学校に挨拶まわりをして、問題点などをヒアリングし、窓口の先生を決めていただいて視察をお願いした。実際に美術館に来てもらうと先生たちのモティベーションがもの凄く高くなる。中には全部の先生が視察に来る学校もある。このプロジェクトのもう一つの“キモ”は、金沢市内の小中学校の先生2千数百人が全員美術館に来て、現代美術に触れるということ。おかげで今では全ての学校との間に連絡網ができあがっている。また、小中高大学の有志の先生方10数名が研究会を立ち上げ、美術館で何ができるかを検討し始めていて、合同展覧会や美術館での合宿などいろいろなアイデアが出ているところだ。ミュージアム・クルーズは特別プログラムなのでこのまま継続されることはないが、来年度は高校生と一緒に作品をつくるなど、別の形での普及活動を考えている」

 

金沢21世紀美術館

 2004年10月9日開館。県庁と大学の移転によって空洞化が進む金沢市の中心部に地域活性化と現代美術による刺激の両立を目指す施設として構想された。円盤状の建物の愛称は「まるびぃ」。ガラス張りで、美術館の回りに壁もなく、外から内部の人の動きが丸見えになる。円盤の中心部が有料展示スペース、外側が「ぐるぐる」と呼ばれる無料ゾーンになっている。有料展示スペースには、アニッシュ・カプーアなどの現代を代表するアーティストのコミッションワーク(注文によって恒久的に設置される作品を製作すること、またはその作品)が展示され、また、無料ゾーンにも来館者が気軽に現代美術の創造性に触れて楽しめる作品が展示されているなど、美術界から注目を集めている。

 

クルーズ・クルー

 「ミュージアム・クルーズ・プロジェクト」のための市民ボランティア。8月に公募。開館記念展の内容を中心にした研修(9日)を実施。現在、112名が登録し、平均週2日程度活動。30代~50代の女性が中心。全日参加で3000円支給(駐車場代程度)。この他、金沢21世紀美術館では、作品操作ボランティアも活動(1日20人程度)。

 

 

地域創造レター 今月のレポート
     2005.1月号--No.117

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