一般社団法人 地域創造

大阪市 精華小劇場オープン

10月23日、大阪市中央区に「精華小劇場」が、オープンした。地下鉄なんばの駅を出て徒歩3分、眠らない街「ミナミ」のまさしくど真ん中に位置する。
 これは、明治6年に創立し、平成7年に閉校した「精華小学校」の暫定利用として大阪市が計画したもので、体育館部分を改修し、文化振興課が所管する「精華小劇場」として、とりあえず10年間の活用をめどにスタート(なお、隣接する校舎部分は、教育委員会が所管する「生涯学習ルーム」として先行始動している)。地域の活性化、市民の芸術とのふれあいの場、次世代の大阪文化の育成と発信の3つを事業の柱に据えている。
 「大阪をはじめ関西には500を超える小劇団が活動しています。以前は「キタ」の中心部・梅田にほど近い扇町ミュージアムスクエアが拠点となっていたのですが、閉館となり、演劇人からは拠点になるような施設が欲しいという声があがっていました。そんなおり、以前から市と地元の間で検討されていた精華小学校の劇場化が実現したことは、演劇界にとって救いの船の感があります」と事務局の丸井重樹さんは説明する。
 劇場の管理・運営は、行政(大阪市・財団法人大阪都市協会)・地元市民・演劇関係者らによって構成された「精華小劇場活用実行委員会」の手にゆだねられている。事業は主催事業のみが行われ、オープニング記念事業のひとつでもある「精華演劇祭」をメインプログラムとして、大阪市や地元の企画が並ぶ。ただし、運営総予算が1500万円と少なく、しかも、利用団体から支払われる劇場付きスタッフ費以外は、すべてをこの予算組の中で処理していくことになるという厳しい状況にあることも間違いない。

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 11月6日、「精華演劇祭」のプログラムのひとつ、劇団桃園会『熱帯夜』(深津篤史作・演出)を観劇した。現在の校舎は昭和4年に竣工されたものだが、劇場の入り口をくぐると、体育館と聞いて想像していたよりは、いささか天井が低い。それもそのはずで、4階建ての校舎の、1階部分の高さ4.3メートルだけが体育館で、上には普通教室や講堂があるのだとか。ホール面積は、440平方メートルほど。そこへ仮設の舞台と、約200席の客席が組まれている。
 舞台は、とある超高層団地の囲む空き地で展開する。一夜の不気味で不条理な光景から、現代人のかかえる孤絶の姿をあぶり出すたくらみは、この空間にピタリとはまって微動だにもしなかった。実はここ、前述の扇町ミュージアムスクエアとほぼ同じサイズなのだ。ホール全体の広がりといい、小劇場演劇にはうってつけの空間なのではないか。
 8日には、オープニング企画のひとつとして、関西の劇作家の登竜門として全国的にも定評のある「OMS戯曲賞」の授賞式と公開選評会も行われ、東京からも審査員が集まるなど盛況だった。演劇祭実行委員長の小堀純氏は、「人が息づき生活するミナミの地に小劇場ができる意味は大きい。人と人との関係性が産み出す本質的な文化を発信する場にしていきたいと思っています。文化というのは循環です。人と情報が、この場所から生まれ、巣立って、また還ってくる。その往還のシステム全体が人を豊かにしていく文化というもの。点ではなく、面のような広がりを持った場として役立てていきたい」と言う。
 精華小学校の活用については、地元の期待も大きい。「なにしろ僕自身も、僕らの親たちも通った小学校です。それだけ住民に親しみのある施設を、今度は市民全体の財産として蘇らせたいと考えています。活用のキーワードは、「集客力のある文化施設」。文化の仕掛けで、さらに「ミナミ」らしい豊かな顔の町づくりができたらいいと思っています」と精華校園跡地活性化協議会事務局長の野杁育郎さんは言う。
 行政、市民、アーティストと立場の異る人たちが初めて手を結んで共同運営するだけに、越えなければならない壁が多く存在するのも事実だ。当然のことながら、それぞれの思わくのすれ違いもある。また、運営費の不足から、設備的な整備が追いついていないという、火急の課題も山積している。しかし、歴史と伝統に培われたこの場所だからこそ、人の流れを変え、また人の流れに刺激される、新しい文化が生まれる期待も大きい。

(ライター・岡野宏文)

 

精華小劇場
[オープン日]2004年10月23日
[所在地]〒542-0076 大阪市中央区難波3-2-4

 

オープニング事業「精華演劇祭」プログラム
関西演劇人会議'04「劇場の話をしよう!!」(10月28日)、「こころネットKANSAIフェスタ・シンポジウム」(30日)、DIVE COLLECTION公演『うたかた』(31日)、シンポジウム「大阪のど真ん中に小劇場は取り戻せたか?」(31日)、桃園会第28回公演『熱帯夜』『うちやまつり』(11月5日~7日)、第11回OMS戯曲賞・授賞式+公開選評会(8日)、燐光群公演『ときはなたれて THE EXONERATED』(11日~14日)

 

 

地域創造レター 今月のレポート
     2004.12月号--No.116

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