3面舞台と馬蹄形4層バルコニー形式の客席という本格オペラ仕様の大劇場をもつ「横須賀芸術劇場」がオープンして10年。全国に先駆けて「利用料金制度」を導入し、事業を横須賀芸術文化財団の独立採算で展開するなど、その運営は注目を集めてきた。
国内外の一流の公演を広く市民に提供する一方、育成事業にも力を注ぎ、1995年9月に全国でも珍しい劇場専属のアマチュア合唱団、「横須賀芸術劇場合唱団」を創設。プロとの共演を目指してオーディションで選ばれたハイレベルなメンバーによる「マスターコース」（96人）、一人でも多くの人にコーラスを体験してもらう「ベーシックコース」（205人）、「少年少女合唱隊」（97人）の3つがあり、それぞれ定期演奏会を重ねてきた。
この6月13日、その集大成ともいうべき「劇場開館10周年記念コンサート」が、北原幸男指揮・東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏で盛大に開催された。
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最初に舞台に登場したのは、少年少女合唱隊。田上知穂（ソプラノ）、小野和歌子（メゾソプラノ）と共にヴィヴァルディの『グローリア』全12曲を披露した。オーケストラをバックに、小学3年生から高校3年生までが、心をひとつにして荘厳な宗教曲を奏でる。真剣な表情、堂々とした歌いっぷりに思わず引き込まれた。それもそのはず、彼らは東京・サントリーホールでの東京交響楽団定期演奏会（マーラー『交響曲第3番』）や、DAN YEAR2000オペラ『夕鶴』（故・團伊久磨指揮）などプロとの数々の共演をこなし、実績を積んできているのだ。98年の結成時に入隊、小学5年から活動を続け今年で“卒業”となる渋谷園子さん（高3）は、「舞台に立つのは慣れているので、特別に緊張はしませんでした」と笑いながら、「でも、本番前はいつもわくわくします。ハーモニーがうまく重なったときは感動するし、普通だったら会えないような大人に出会えるのが嬉しい」と合唱隊での経験の大きさを話してくれた。
約40分の演奏が終わると、ほぼ満員の会場から惜しみない拍手が送られた。
第2部はマスターコースとベーシックコースによるオペラ名場面集。舞踏会のように男女が腕を取り静かに入場してくる。照明がつくとヴェルディ『椿姫』の序曲が始まった。
プリマドンナに澤畑恵美を迎え、高橋淳（テノール）、梶井龍太郎（テノール）、近藤均（バリトン）、村林徹也（バリトン）らソリストと、3人のダンサー（山口智子、北條耕男、安達悦子）によるバレエを交えながら、プッチーニ『ラ・ボエーム』、ニコライ『ウインザーの陽気な女房たち』、シュトラウス『こうもり』などが次々に繰り広げられる。フジテレビアナウンサー・相川梨絵のナレーションや、日本語による演奏もあり、飽きさせない構成で観客を魅了した。
カーテンコールでは出演者が勢揃い。レハール『メリー・ウィドウ』の「唇は黙し」を観客と歌い上げ、団員の顔は喜びに満ちていた。
6年前からマスターコース、ベーシックコースの指導者を務め、今回の企画を担当した梅沢一彦氏は話す。「今回の舞台構成をした近藤均さんをはじめ、多くのブレーンと劇場スタッフが一緒になって多角的に団員を刺激して舞台をつくっていきました。ピラミッド型ではなく、スクラムを組みチームで取り組んだ成果が出たと思います。ヨーロッパの劇場のように、街で暮らす普通の人たちが夜になると駆けつけ、プロの演奏家と一緒の舞台に立つようなイメージで、団員ひとりひとりが劇場付きの合唱団員の役割を認識し、意識を高めることをポイントに指導してきました。これからもひとりひとりが地域の劇場を支え、芸術性の高さを追求していくことを目指していきたい」。
また、少年少女合唱隊の指導者・武田雅博氏は、「劇場専属の団体が活動するためのさまざまなノウハウをこの7年間で劇場スタッフと一緒になって“開発”し、蓄積してきたという自負があります」と言う。「活動の礎はこれで確かなものになったと思います」（横須賀芸術文化財団・加藤誠裕事業部長）との言葉どおり、合唱団は次なるステージへと一歩踏み出したようだ。
（土屋典子）
●横須賀芸術劇場合唱団 劇場開館10周年記念コンサート
［指揮］北原幸男
［出演］澤畑恵美、田上知穂、小野和歌子、高橋淳、梶井龍太郎、近藤均、村林徹也、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、横須賀芸術劇場合唱団、山口智子、北條耕男、安達悦子、丸尾聡、金安凌平、大芝孝平、船宝利一、桑島義明、松村マサル子
［主催］（財）横須賀芸術文化財団
［日程］6月13日
［会場］よこすか芸術劇場
地域創造レター 今月のレポート
2004.7月号--No.111