「あら、この字なんて読むのかしら」
プログラム最後の表彰式のとき、舞台で緊張していたのは受賞者よりも表彰状を持った市民審査員のほうだった。表彰状に書かれた名前が読めずに舞台上で赤面する光景も、市民参加型のフェスティバルらしい微笑ましさだ。
今年で17回目を迎えるパルテノン多摩主催「小劇場フェスティバル」。1987年のホールオープン当初から連綿と続く名物企画が今年も盛大に行われた。4月9日にオープニングアクト、以降毎週末の金曜、日曜、祝日に5劇団(下記参照)が各1公演ずつ行った。
パルテノン多摩小劇場フェスティバル2004
「あら、この字なんて読むのかしら」
プログラム最後の表彰式のとき、舞台で緊張していたのは受賞者よりも表彰状を持った市民審査員のほうだった。表彰状に書かれた名前が読めずに舞台上で赤面する光景も、市民参加型のフェスティバルらしい微笑ましさだ。
今年で17回目を迎えるパルテノン多摩主催「小劇場フェスティバル」。1987年のホールオープン当初から連綿と続く名物企画が今年も盛大に行われた。4月9日にオープニングアクト、以降毎週末の金曜、日曜、祝日に5劇団(下記参照)が各1公演ずつ行った。
●17th パルテノン多摩小劇場フェスティバル2004
[主催]財団法人多摩市文化振興財団
[企画]演劇ぶっく社
[日程]4月16日、18日、23日、25日、29日
[出場劇団/作品]Ele-C@ (エレカ)『Q.E.D. 2004』、劇団シアターガッツ『ホンキートンクエレジー ~チャンバラ バン!バン!バン!其のニ~』、チャリT企画『ドウニモタマラナイ』、ブラボーカンパニー『サンダーバードでぶっとばせ!!』、五反田団(青年団リンク)『びんぼう君~21世紀版~』
その取り組みを取材して改めて感じるのは、小劇場「村」臭さが微塵も感じられないことだ。出場劇団の選考には「探検隊」と呼ばれる8名の市民が当たる。この中には、年間200本以上の小劇場公演を見る強者もいれば、普通の市民もいる。年間を通して毎月1公演以上を観劇してレポートを提出。5段階評価を行って出場候補劇団を厳選する。公演時に審査に当たるのは30人の「市民審査員」たち。点数制で最後に偏差値を取るパルテノン方式で、賞金100万円の優勝劇団やベストキャラクター賞、ベストスタッフワーク賞などが決まる。
全体の運営は「支援隊」と呼ばれる市民スタッフが司る。探検隊や審査員のOBから成り、フェスティバルの時期には揃いのTシャツを着て三々五々集まって来る。もぎり、会場整理、劇団インタビュー、レセプション照明係等々、「このフェスは生活の一部」と公言して憚らないベテランたちだ。
演劇ぶっく社から情報提供を受けているが、それ以外、どのパートにも専門家はいない。全員自ら名乗りを上げ、仕事の合間を縫って活動するボランティアだ。何故こんな純なフェスが17回も続いているのだろう。逆に疑問に思うほどだ。ホールの担当者、星野久美子はその理由をこう分析している。
「このフェスティバルの最大の特徴は、“出会いの場”であることだと思います。参加するのは、ほとんどが動員千名以下の若手劇団で、公共ホールでの公演は初めての体験です。彼らにとっては外部ホールのスタッフや固定ファン以外の観客との出会いの場となっています。観客にとっては未知の劇団と出会えるフェスであり、芝居好きはもちろんのこと小劇場初心者には入門編として楽しめる要素も持ち合わせています。さらに、探検隊と審査員は毎年変わるため、80名近い市民スタッフがフェスを通して新しい出会いを体験している。みんなの笑顔からは、単に優勝劇団を決めるワクワク感だけでなく、演劇が好き+フェスを育てたい+素敵な仲間と出会いたい!という気持ちが伝わってきます。人それぞれ、いろいろな楽しみ方ができるのが続いてきた理由ではないでしょうか」
もう一つ言えるのは、地域ホールの主催でありながら、「まちおこし」とか「市民活動」といった匂いも全くしないことだ。スタッフ全員に、「そんなことより純粋に小劇場を楽しみたい」という気持ちが溢れている。
「このフェスに参加して生きる幅が広がったと感じています」
第3回で審査員を務め、4回目から支援隊として活動する多摩市民の松本貴子が言う。
「このフェスが定着してホールにいい劇団が来てくれたら、わざわざ都心まで出ないですむじゃないですか」
彼女の口からは無名に近い劇団の名前がポンポン飛び出す。その活き活きとした表情には、このフェスを育てようという気持ちが溢れている。過去の参加劇団には、惑星ピスタチオ、ジョビジョバ、HIGHLEG JESUS、絶対王様、ペテカンなど、その後大きく成長した劇団が名を連ねる。まず芝居好きの心をくすぐり優越感を刺激するシステムがあり、その中に自然と地域活性化等の要素も盛り込まれているという印象だ。
とはいえ課題もある。他地域の例に漏れず、ここにもコストカットの嵐は吹き荒れている。行政内部にも一定の評価はあるが、音楽や映画企画に比べると小劇場企画への集客は少ない。それでも星野は明るく言う。
「一人でも多くの理解者を増やしてこれからも続けていきたい。このフェスは、私にとってもたくさんの笑顔と情熱と元気を与えてくれる栄養ドリンクですから」
(ライター・神山典士)
地域創造レター 今月のレポート
2004.6月号--No.110