一般社団法人 地域創造

平成16年度公共ホール音楽活性化事業/アウトリーチ・フォーラム事業「全体研修会」

「全体研修会」2004年4月20日~22日/4月27日、28日

●全体研修会でアウトリーチ体験、
 アウトリーチ・フォーラムも開始

 財団法人地域創造では、クラシック音楽を身近なものにする取り組みとして、市町村を対象にした「公共ホール音楽活性化事業」(以下、音活)を実施しています。
 この事業は、オーディションにより選ばれた登録アーティスト(2年入替制)を公立ホール等に派遣し、地方公共団体との共催でコンサートおよびアクティビティ(地域との交流を図るプログラム)を開催するものです。これまで延べ95地域、44名のアーティストが参加し、地域の人びとと演奏家との感動的な音楽交流を実現。クラシック音楽との出会いを提供するインフラとして高く評価されています。

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 財団設立10周年を迎える今年度は、大幅に事業を拡充し、これまでの倍にあたる全国28館の参加が決定。4月20日から3日間、東京・北とぴあを会場に「全体研修会」が開催されました。
 この研修会は、参加ホールの担当者、事業をサポートするコーディネーターおよび音活に協力する登録アーティストが一堂に会して研修を行う“音活版ステージ・ラボ”。前年度までの参加館による事例紹介やグループ別企画検討など、密度の濃いプログラムとなっています。また、音活的なアウトリーチ事業を地域で自立継続するための知恵を出し合う「OB研修」も併せて開催されました。

 

●ハイライトはアウトリーチ体験とプレゼンテーション

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 研修のハイライトは2日目。午前中は昨年から全体研修会に取り入れられた王子小学校でのアウトリーチ見学、午後には実演したアーティストとの懇談と全登録アーティスト12組による約5時間にわたるプレゼンテーション演奏会が行われました。
 今回のアウトリーチで特筆すべきは、プログラムとしての完成度が極めて高かった点。3・4年生を担当したピアノの田村緑さんは、エルガー作曲『愛の挨拶』の演奏で楽器の魅力をアピールした後、イギリスの20ポンド札を手に「このお札の肖像がエルガーです」と作曲家を紹介。グラビチェンバ・エ・ピアノ・ドゥ・フォルテと呼ばれていたという名前の由来からピアノの歴史をひも解き、楽器の下に潜らせて振動を体感させながら仕組みを教え、子どもたちの将来の夢についてのアンケートからピアニストの夢を語るなど、まるで演奏家がプランした総合的な学習の時間のモデル授業を見ているかのように、ピアノという“教材”を見事に子どもたちに伝えきっていました。

 また、5年生を担当したマリンバの浜まゆみさん(ピアノは大橋めぐみさん)は、マレットというバチを何本も両手に挟み、アクロバットのような演奏を披露してあっという間に子どもたちの好奇心を手中に。鍵盤に触れ、「静電気みたいに肩の方までビリビリきた!」と叫んだ子どもの表情は、発見の驚きで誇らし気に輝いていました。
 「あの年代の子どもたちは視覚、聴覚、触覚などいろいろな感覚を使ってものをとらえているので、身体全体で感じられるような内容にしています」と浜さん。質疑応答では、「マリンバは耳と動きの両方で感じることが必要なので、マレットの動きが見えるように配慮する必要がある」など会場づくりについての留意点なども話されていました。

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 午後からのプレゼンテーションは、個性的な演奏家が揃った今年度らしい企画色のあるパフォーマンスが続きました。朗読付きで演奏したピアノの佐々木京子さん、「野外、神社、電車、船から落雷・大雨・台風の中まで演奏経験豊富。まずはご相談ください」と強烈にアピールした金管五重奏のBuzz Five、ネックやボディをこすって音をだす不思議な現代曲を演奏したバイオリンの野口千代光さん、富士山をイメージしたオリジナル曲を披露し、「地域のオリジナル曲がつくれれば」と語ったピアノ・デュオDuetwo、作家の志茂田景樹さんと「よい子に読み聞かせ隊」を結成し、全国で650回のパフォーマンスを行なっているフルートの永井由比さん、客席からニューオリンズスタイルのパレードで登場したBLACK BOTTOM BRASS BANDなどなど。どのアーティストも個性的なトークと自己アピールで会場を沸かせていました。

 

平成16年度公共ホール音楽活性化事業開催地
利尻町交流促進施設どんと(北海道)、朝日町サンライズホール(北海道)、七ヶ浜国際村(宮城県)、名取市文化会館(宮城県)、田島町御蔵入交流館(福島県)、深谷市民文化会館(埼玉県)、流山市文化会館(千葉県)、相模湖交流センター(神奈川県)、吉田町公民館(新潟県)、新井総合文化ホール(新潟県)、八尾町コミュニティセンター(富山県)、福井市文化会館(福井県)、多治見市文化会館(岐阜県)、菊川町文化会館アエル(静岡県)、豊橋市民文化会館(愛知県)、木ノ本町スティックホール(滋賀県)、朽木村やまびこ館(滋賀県)、佐田町中央公民館(島根県)、伊方町民会館(愛媛県)、丹原町文化会館(愛媛県)、ユメニティのおがた(福岡県)、なかまハーモニーホール(福岡県)、松浦市文化会館(長崎県)、エイトピアおおの(大分県三重町)、大分市コンパルホール(大分県)、中種子町種子島こり~な(鹿児島県)、平良市マティダ市民劇場(沖縄県)、名護市民会館(沖縄県)

 

平成16・17年度登録アーティスト
小林厚子(ソプラノ)、菅家奈津子(メゾソプラノ)、久保田葉子(ピアノ)、佐々木京子(ピアノ)、永井由比(フルート)、神谷未穂(ヴァイオリン)、野口千代光(ヴァイオリン)、宮本妥子(打楽器)、デイヴィッド・ファーマー(クラシカルアコーディオン)、ピアノデュオDuetwo、Buzz Five(金管五重奏)、BLACK BOTTOM BRASS BAND(ブラスバンド)

 

●アウトリーチ・フォーラム事業でも全体研修

 音活の新しい取り組みとして今年度からスタートするのが、“都道府県版音活”とも言える「公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業」です。
 この事業は、財団と都道府県または政令指定都市等が共同でコーディネートを行い、地域内の公立ホールがアウトリーチの手法や地域交流プログラムについて実践的に学ぶ機会を提供するというもの。今年度は熊本県立劇場と県内6市町村が参加します。6月26日から約1カ月にわたって6市町村にクラシックの演奏家を派遣し、実際に事業を実施するにあたり、4月27日、28日の両日、熊本県立劇場に市町村の担当者が集まり、全体研修会が行われました。
 研修会では、会館の隣にある大江小学校で行われたバイオリンのアウトリーチ事業を見学した後、アウトリーチの意義や実例などについて講師から説明を受けました。「人数は少なく、場所は小さく、時間は欲張らず」という効果的なアウトリーチの経験則に対して、「普及という使命のある行政マンとして問題を感じる」と真摯な問いかけが参加者からなされ、初めての取り組みだけに白熱した議論が行われました。
 「アウトリーチ・フォーラム」では、派遣された演奏家に地域を理解してもらう試みとして「地域交流プログラム」を設けます。研修2日目にはコーディネーターを交えて企画づくりに入りましたが、「陶芸体験」「乳しぼり体験」「紙すき体験」などユニークなアイデアが続出していました。
 各地での事業の後、7月11日には、熊本県立劇場で報告会と参加アーティストによるコンサートを合わせたフォーラムを行ないます。「公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業」の全容につきましては、改めてレター紙上でレポートする予定です。

 

平成16年度公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業開催地
[フォーラム事業]熊本県立劇場
[公演事業]小国町、長洲町、砥用町、芦北町、本渡市、あさぎり町

 

公共ホール音楽活性化事業/公共ホール音楽活性化アウトリーチ・フォーラム事業に関する問い合わせ
地域創造芸術環境部 小澤櫻作 Tel. 03-5573-4074

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