講師 吉本光宏
芸術文化振興の新たな担い手、芸術サービス型NPO
今回は、実際に国内のアートNPOがどのような活動を行っているのか整理してみたい。ひと口にアートNPOといっても、公演や展覧会を主体にしたもの、アーティストの支援を行うもの、芸術文化による国際交流やまちづくりに取り組むものなど、その目的や活動の内容は実にさまざまであり、厳密なタイプ分類は難しい。
前回で紹介した535件のNPOの活動目的にざっと目を通してあえて分類してみると、現在のわが国のアートNPOは、おおむね下の表に整理した6つのタイプに分けられそうである。ただし、タイプの異なるNPOでも活動内容は相互に関連し、個々のNPOも幅広い活動に取り組んでいることから、実際には、複数のタイプが複合されたようなNPOが多いものと思われる。
●わが国のアートNPOのタイプ分類
これらのタイプのうち、特に注目されるのは芸術サービス型のNPOであろう。具体的には、アーティストや芸術団体の活動を支援したり、子どもや市民を対象にしたワークショップ、障害者や高齢者へのアウトリーチ活動などを行ったりするNPOである。それ以外のタイプのNPOは、NPO法の施行以前から何らかの形で存在していた。しかし、サービス型のNPOは、社会的な問題意識に基づいて、市民が主体となって芸術文化の振興や普及に取り組もうというもので、NPO制度が契機となって、新たに芽生えてきた動きである。
サービス型NPOをあえて定義すれば、「舞台芸術や音楽等の公演、あるいは展覧会といった芸術鑑賞型の事業を中心に行うのではなく、芸術の振興やインフラづくりを目指して、芸術コミュニティに対する支援・育成サービスや、地域市民に対する芸術サービス、あるいは両者を結びつけるような活動を行う組織」とでもなろうか。
具体的には、(1)市民や地域とアートとの新しい関係を構築する、(2)(特定の)芸術分野の活動や団体、アーティストを支援することで芸術文化を振興する、(3)芸術文化による新しい社会サービスを開拓する、といった活動を行うNPOである。
こうしたNPOは、文化政策の担い手たる専門家の市民組織ととらえることも可能で、これまで、国や地方自治体、あるいは民間企業や財団などが中心となってきた分野で、市民の視点から活動を立ち上げているのが特徴であろう。言い換えれば、これらのNPOは、芸術文化の振興を政府機関や企業メセナだけには任せておけない、という強い使命感に支えられており、それまで見落とされがちだった分野や活動に目を向けたり、実験的な取り組みによって、行政の文化政策をリードしたりするような役割も期待できる。
Japan Contemporary Dance Network(コラム参照)、あるいは雑誌「地域創造」12号で取り上げた「芸術家と子どもたち」(通称ASIAS(エイジアス)/小学校にプロの芸術家を派遣し、一般的に学校教師が苦手とする、子どもたちとの双方向型・参加型の体験授業を、総合的なテーマに関連づけやすい芸術を題材に実践している)などは、典型的なサービス型NPOである(注1)。これらは専門家集団としてのNPOが大きな成果を上げた成功例と言える。
注1 海外事例になるが、雑誌「地域創造」5号(P61~65)で紹介した、有能な若手演奏家を発掘・育成するニューヨークのヤング・コンサート・アーティスツ(YCA)もサービス型NPOの代表例である。
●Japan Contemporary Dance Network(JCDN)
コンテンポラリー・ダンスやワークショップの企画を立てるとき、公立ホールの担当者はどうすればいいか。全国にどんなアーティストや制作者がいて、ギャラはどれくらいか、といった情報をどう入手するか。一方、アーティストが地元以外で作品を上演したいと思ったとき、どこにコンタクトすればいいか―。「社会とダンスの接点をつくること」を掲げ、京都を拠点に全国的に活動しているNPO法人、Japan Contemporary Dance Networkでは、こうしたニーズをとらえ、ダンスを取り巻く環境を向上させるべくさまざまな事業を行っている。
「踊りに行くぜ!!」は全国のパフォーマンススペース間を結んだ、ダンスの巡回公演プロジェクトである。各地域にさまざまなアーティストを紹介することで観客を開拓し、振付家やパフォーマーは地元以外での公演を行うことで成長する。地域、あるいはホール間でコミュニケーションが生まれたり、新たなダンスムーブメントが起こることを目的としている。年々規模が拡大し、4回目の2003年は札幌から沖縄まで11都市で開催された。
コンテンポラリー・ダンスに関する情報収集・公開としては、アーティストやプロデューサー、公立ホールや民間のスペース、積極的に支援している企業や財団、評論家などの情報を網羅した「JCDNダンスファイル」を製作。これはブック形式と、動画も収録したCD-ROM形式を交互に、毎年改訂しながら発行していく方針。
ウェブサイトでは、こうした情報のほか、ダンス公演やワークショップの予約サービス「JCDNダンスリザーブ」を運営。ダンス公演・ワークショップを検索し、チケットを予約できるシステムだ。
各地の公立ホールや文化財団、NPOとのコラボレーション事業、コンサルテーション事業も積極的に展開している。ダンス関係者だけでなく、未経験者や老人、子ども、障害者を対象にしたダンスワークショップや、アーティストが長期滞在して、参加者とひとつの作品をつくり上げる企画などを継続的に実施、評価されている。
さらに、「日米振付家レジデンシープロジェクト」や、海外からのインターン受け入れを行うことで、ダンスの国際交流を推進したり、情報交換の場を創出する「JCDNダンスフォーラム」をはじめ、セミナー、シンポジウムを開催している。
幅広い世代の人々にダンスにふれる機会をつくり、ダンスのもっている「力」を社会の中に活かしていくことをミッションとしたJCDNの活動は、今後さらに広がりを見せるだろう。
(土屋典子)