毎回、テーマを決めて、日本各地の伝統芸能、古典芸能等を紹介する「第4回地域伝統芸能まつり」が、2月14日、15日の両日、東京・渋谷のNHKホールで開催されました。
この催しは、財団法人地域創造が平成11年にスタートした「地域伝統芸術等保存事業」(失われつつある各地の伝統芸能等の映像による記録・保存の支援)の一環として行われているものです。全国の芸能継承者の方々に発表の場を提供すると同時に、イベントやテレビ放映を通じてその魅力や価値を再認識していただき、芸能による地域づくりの向上を目指しています。
「怨霊」「恋(こひ)」「天地(あめつち)」に次いで、今回のテーマになったのが「変化(へんげ)」です。「祭りの中にあって、変化という“常ならぬもの”の存在は、登場するだけで空間を“非日常的”なものへと劇的に変化させる役割を担っています」と、実行委員会会長の梅原猛氏。
亀と蛇が合体した“ガメ”と呼ばれる想像上の動物「亀蛇(きだ)」(熊本県八代市)、全身茶色いシュロで覆われた長さ6m、幅3mもある巨大な「牛鬼(うしおに)」(愛媛県宇和島市)、中国の霊獣「麒麟獅子(きりんじし)」(鳥取県鳥取市)、魔よけのワラジを配る鬼「鬼太鼓(おんでこ)」(新潟県両津市)など、各地から集まった変化が競演、約4倍の抽選を勝ち抜いた延べ5,600人の観客が堪能しました。
また、今回から幕間に大道芸が登場。南京玉すだれやガマの油売りが会場の笑いを誘う一幕もありました。
●雨蛙やかわいい狐も登場
「日本では八百万の神を祀っているので神様の数が多く、面白いお祭りがたくさんある。変化もぞくぞく出てくる」(梅原)と言うように、今回のまつりにはさまざまな変化が登場しました。
なかでもユニークだったのが、1日目の茨城県龍ケ崎市に伝わる「撞舞(つくまい)」で登場した「雨蛙」です。NHKホールの下手に、客席から天井まで届きそうな、高さ10m以上ある撞柱(つくばしら)を設置。その柱を、唐草模様の衣裳を付けて雨蛙に扮した舞男が曲芸さながらのパフォーマンスを見せながら上っていきます。
柱の頂は、米俵のふたを130枚ほど重ねてつくった直径80cmほどの円座になっており、そこから四方に矢を放ち、五穀豊穣の雨乞いを祈願することから、雨蛙に扮しているとのこと。命綱も付けず、張り綱を手放しで滑り降りる離れ業に、思わずため息が漏れていました。
有無を言わせぬ迫力と芸術的な完成度だったのが、2日目に登場した石川県輪島市の「御陣乗太鼓(ごじんじょうだいこ)」です。日本海の荒波をバックにした海岸で、仮面と海藻を付けた恐ろしげな鬼が太鼓を打ちならす姿は観光案内などであまりにも有名ですが、このパフォーマンスで武器を持たない村人が上杉謙信の軍勢を追い返したというだけあって、本当に鬼気迫るものでした。
この他、周囲17km、人口3,000人の大分県姫島の盆踊りで登場した白塗り狐メイクの子どもたちや、サルの化身「猩猩(ワクイー)」に誘いだされた陽気な獅子「シーシガナシー」(沖縄県宜野座村)など、ユニークな変化の数々に地域の豊かさを改めて実感しました。
●スーパー狂言の風刺パワーに笑い
「狂言は室町時代に、人間の滑稽さや社会の悪を風刺するために生まれたものです。新作狂言で、そういう風刺の笑いを現代に復興したい」というスーパー狂言で、これまで梅原氏は有明海のムツゴロウを主人公にした『ムツゴロウ』、遺伝子科学を風刺した『クローン人間 ナマシマ』を発表。日本を代表するアーティストの横尾忠則氏と組み、自由な発想で見る者に刺激を与えてきました。
今回、登場したのは、世界制覇を目論んで戦争を仕掛ける「太陽の国」の王、トットラーです。トットラー王は、大商人モクスケと組んで“グローバリズム”を合言葉にお金を集め、軍備を増強し、いよいよ最終兵器のボタンを押そうとします。しかし、夢の中で先祖の恐竜、トットラーザウルスに操られ、間違って“糞尿ボタン”を押してしまい、戦争は未然に防止されるというお話です。
能舞台の真上にくす玉のようにぶら下がった巨大な地球の張りぼてが割れ、糞尿ならぬ金の紙吹雪が舞い落ちるセットや、頭にミサイルやキノコ雲の模型を付けた軍隊など。横尾ワールドと狂言の様式美が出合った美術は秀逸でした。
能舞台の真上にくす玉のようにぶら下がった巨大な地球の張りぼてが割れ、糞尿ならぬ金の紙吹雪が舞い落ちるセットや、頭にミサイルやキノコ雲の模型を付けた軍隊など。横尾ワールドと狂言の様式美が出合った美術は秀逸でした。
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このほか、「地域伝統芸能まつり」では、日本の芸能を貫く「語り芸」にもスポットを当ててきました。これまでも琵琶の上原まりさん、浪曲の春野百合子さんにより、「声、節、啖呵」と言われる語り芸の魅力が披露されてきました。今回は、物語の魅力を取り上げ、立川談志師匠の落語と正部家ミヤさんによる話を堪能しました。
正部家さんの語りでは、舞台上に人と馬が一緒に暮らした岩手県の南部曲家が再現され、「むかしあったずもな」で始まる遠野弁の『屁っぴり嫁ご』を字幕付きで熱演。「父親のひざの上で自然に覚えた」という話は約100話あるといいます。テレビもラジオもなかった時代の豊かな遊びに触れ、NHKホールはしばし温かい懐かしさに満ちていました。
●第4回地域伝統芸能まつりについての詳細はこちら
●平成16年度 地域伝統芸術等保存事業(映像記録保存事業)助成内定事業一覧
◎青森県板柳町「五林平太刀振り」
◎岩手県滝沢村「篠木神楽を中心とした郷土芸能活動記録」
◎秋田県中仙町「円満造甚句・円満造甚句踊り・ドンパン節・ドンパン踊り」
◎秋田県東成瀬村「民話の昔語り」
◎福島県会津若松市「会津の彼岸獅子舞」
◎福島県船引町「(1) 石森の三匹獅子舞 (2) 石沢の三匹獅子舞」
◎千葉県白井市「東葛印旛大師講」
◎新潟県栃尾市「(1) 岩戸舞 (2) 北荷頃太々神楽 (3) 西中野俣広大寺」
◎新潟県名立町「(1) 折平の獅子舞 (2) 森の獅子舞 (3) 不動古典踊り・民謡(「新保広大寺」「ヤサヤサ」「ヨーホイ」)」
◎新潟県三川村「いな虫送り」
◎石川県能登島町「能登島の伝統行事 (1) 能登島向田の火祭 (2) 向田のタコのママ (3) 能登島の虫送り (4) 能登島のえびす祭り」
◎福井県敦賀市「刀根・気比神社の祭礼」
◎山梨県長坂町「稚児の舞」
◎岐阜県高根村「飛騨 高根村 日和田地区・野麦地区・上ヶ洞地区例祭」
◎静岡県静岡市「井川の樹皮文化 ─井川メンパを中心に─」
◎三重県熊野市「六法(方)行列」
◎広島県口和町「(1) 向泉の田楽 (2) 大月三角山神社秋季楽舞 (3) 湯木盆踊り」
◎福岡県那珂川町「岩戸神楽」
◎福岡県添田町「(1) 津野神楽 (2) 野田獅子楽」
◎福岡県吉富町「八幡古表神社の放生会」
◎佐賀県有田町「有田焼の伝統的様式美の継承と先陣陶工達の技」
◎大分県千歳村「(1) 大迫神楽 (2) 大木神楽 (3) 柴山神楽」
◎宮崎県西都市「(1) 中尾棒踊 (2) 平郡十五夜踊 (3) 三納吉田盆踊」
◎鹿児島県横川町「(1) 太鼓踊り (2) 俵踊り (3) 鎌踊り (4) 建築踊り (5) 四方立ち舞」
◎鹿児島県高山町「(1) 宮富地区の棒踊 (2) 波見地区の棒踊」
◎鹿児島県佐多町「上之園太鼓踊り」