一般社団法人 地域創造

愛知県知立市 パティオ池鯉鮒 しみん劇 『薬草取(やくそうとり)』

  名古屋から電車で約20分の所に、かつて宿場町として栄えた「池鯉鮒(ちりふ)」、現・知立市がある。伝統と新興住宅と農村風景が交差するこの町に、2000年7月、市制30周年記念で知立市文化会館「パティオ池鯉鮒(ちりゅう)」が誕生した。

 ここの特徴は、後発のコミュニティ型ホールとして構想段階から市民参加の枠組みを取り入れていること、民間から芸術総監督兼館長とプロデューサーを迎えた任意団体「ちりゅう芸術創造協会」が運営していることだ。

  主な事業には、鑑賞事業のほか、開館1年前から育成したボランティア「パティオ・ウェーブ」、講座「シアターカレッジ」(※1)、年1回の市民参加公演(合唱、演劇)、伝統芸能「山車文楽」(※2)を取り込んだ企画などがある。

 

※1 シアターカレッジは1年更新で各講座月2~4回のレッスンが行われる。演劇、合唱、ジャズダンス、ヴァイオリン、文楽の5講座(来年度から文芸学科を開講)。有料。いずれも最後にホールで発表会を行うのが特徴。合唱講座は自主運営できる力がついたため、来年度から付属合唱団として自立。

 

※2 山車の上で文楽やからくりを上演する国指定重要無形民俗文化財。

 コミュニティ型ホール4年目の現状はどうなっているのだろうか。演劇講座の発表会と市民参加公演を兼ねた第4回しみん劇『薬草取』(泉鏡花原作)が行われるのに合わせ、取材に出掛けた。講座受講生9名が出演、舞台美術の製作や技術助手はパティオ・ウェーブのメンバーだ。

 2月1日。中庭で知立山車の原寸大レプリカが出迎えてくれた。今流行の開放感溢れるガラス張りのロビー。その一角に丸見えの事務所。忙しそうに働いていた職員が開演前の抜き稽古をしているホールに案内してくれた。

 「この小ホールは山車を屋外からすぐ舞台に上げられるようステージの後ろに搬入口があるんです」と、芸術総監督兼館長の伊豫田静弘氏(元NHKエグゼクティブディレクター・演出家)。開館1年前から招かれ、パティオ池鯉鮒のコンセプトである「顔なじみの文化」を提言したキーパーソンだ。

 「人口6万3,000人だと引っ越し公演が通り過ぎて行くようなホールではダメで、市民が集えるところにしなければいけない。それで、地域の文化は自分たちでつくるというコンセプトを立てました。鑑賞から練習へ、練習から発表へ、そして鑑賞へという循環が生まれればと思っています」

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 『薬草取』本番。薬草を取りに迷い込んだ魔の山で不思議な体験をした少年は、大人になって恋人の病を直すため再び山に入る。プロの役者が演じる語り部二人の台詞に合わせ、受講生が芝居を当て振りする。講座の指導者でもある木村繁(むすび座所属)の台本・演出による舞台は、語り、群読、身体表現、映像を構成した様式美をベースに、アマチュアとプロがうまく協働した作品に仕上がっていた。

 「1週間ホールを借り切って仕込みをしました。ボランティアには社会人が多く、仕事が終わってから作業をするので時間がかかるんです」とプロデューサーの永井聡子さん。現在、パティオ・ウェーブのメンバーは約100名。フロント、広報、企画制作、美術、技術で登録し、自主事業について無償でサポートを行っている。

 30年の歴史をもつ地元アマチュア劇団希求の団員で、第1回からしみん劇に出演している鈴木春江さんは、「お互い一受講生だから立場が平等で、すごく気楽に付き合える。市民の中からどんなものがつくり出せるのか、本当にそんなことができるのか、できたら素敵だなと思って参加した。スタート時からパティオ・ウェーブにも登録しています」と芝居のある人生を堪能している様子だった。「演劇ファンが高じて自分でもやりたくなった」市川英一さんは、講座で様式的な表現方法を学んでから芝居の見方がわかるようになったという。

 「文楽講座には知立山車文楽保存会の人たちが大阪文楽協会の吉田清之助さんの指導を受けに来ています。山車文楽が途絶えていた宝町の人たちもこの講座で学び、復活させました。2005年の愛知万博の時には、文楽人形が出演するオペラを企画しています」(伊豫田館長)

 ロビーでインタビューしている間も、館長は目ざとく市民を見つけては駆け寄り、笑顔で声をかける。専門家がコミュニティ型ホールの運営を成功させる秘訣を見た気がした。

(坪池栄子)

しみん劇『薬草取(やくそうとり)』
[日程]1月31日、2月1日
[会場]知立市文化会館「パティオ池鯉鮒」花しょうぶホール
[主催]ちりゅう芸術創造協会

 

知立市文化会館「パティオ池鯉鮒」
[施設概要]かきつばたホール(1,004席)、花しょうぶホール(293席)、大中小4つのリハーサル室、和室練習室、工芸室、ワークショップルーム、ギャラリー、レストラン等が4つのパティオ(中庭)を取り囲むように配置されている。
[所在地]〒472-0026 愛知県知立市上重原町間瀬口9番地

 

 

地域創造レター 今月のレポート
     2004.3月号--No.107

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